第18話 青年団

「ふあああ」


 あれから二日が経過し、朝が来る。

 眠気眼をこすり、ぼーっとしながらも伸びをする。

 今日も誰か訪ねてくるかもしれない、早めに朝食を済ませておかなくっちゃな。

 というのは、ツリーハウスに続きグリフォンを討伐したことで、村の人たちとても協力的になったんだよね。

 彼らから「何かお手伝いすることはありますか」とわざわざ宿舎を訪ねてくるほどなのでちょっと怖いくらいだ。


「イドラさまー。朝食ができましたー」

「ありがとうー」


 シャーリーは朝から元気一杯だな。彼女は俺たちの中で一番早く起きて来て、朝食を作ってくれる。

 ほんと頭があがらないよ。

 彼女が料理を作ってくれているのだが、生憎まだまだ食材が足りない。もってきた食材とリンゴと梨の木だけだから彼女の料理の腕がいくらよくても作ることのできるものが限られ過ぎている。それでも料理をしてくれるからまだ食べることができるくらいになるのだ。

 先に座っていたジャノの対面に腰かけさっそく用意してくれた紅茶に口を付ける。


「畑の様子はどうなんだい?」

「昨日、ドノバンさんのところの畑に種を撒いてみた。他にも御者たちだけじゃなく、村人も畑作りに精を出してくれてるんだよ」

「それは見たよ。ツリーハウス作戦にグリフォン討伐が功を奏したね」

「俺もまさか、ここまで村人が協力的になるなんて驚いたよ」

「君の種の力を見ればいずれ今のようになるだろうけど、早いにこしたことはないだろ?」

 

 当然だとばかりにため息をつかれても反応に困る。

 オートミールにリンゴをすり潰したものを混ぜ、もしゃもしゃと口に運ぶ。牛乳があればもっと美味しく食べることができるのだが、ないものねだりはできない。

 牛乳を領都から輸送してたら、その間に腐ってしまう。冷蔵保存の技術が発展すれば乳牛が近くにいなくとも手軽に牛乳を飲むことができるのだが、家電製品の発展は望めない。

 いや、百年後にはひょっとしたら手軽に使うことができる保冷庫ができているかもしれないけど、今求めても該当する製品はないのだ。


「やっぱりちょっと硬い」

「君の種の力で牛乳を作り出せないのかい?」

「無理だろ……ジャノの魔法で牛乳を保存できたりしないの?」

「できなくはないと思うけど、手間の方が遥かにかかるさ」

 

 へ、へえ。できるんだ。俺のじとっとした目線に気が付いた彼が大袈裟に肩を竦める。


「君の種の図書館は種を強化したり進化させる時だけに魔力を使うであっているかい?」

「合ってるよ。種を作る時に魔力を消費する」

「魔法は発動させると魔力を消費する」

「ま、まあそうだよな。魔法って言うんだし」


 何を当たり前のことを言っているんだ? 話が繋がらないんだけど……。

 回りくどい言い方をされても牛乳を保存することと魔法の関係性が分からない。

 

「おや、まだ分からないかい?」

「ファイアと唱えたら火球が出るんだろ」

「呪文はそう単純じゃあないけど、捉え方は間違っていない。何らかの儀式を行い、魔法を発動させる」

「うんうん、発動させる時に魔力をごそっと持っていかれるんだよな?」

「そう。発動させる時に魔力を消費するんだ。ここで問題です」

「あ、うん」


 い、一体何なんだよもう。


「そうだね、ファイアと唱えて炎が出る」

「その時魔力を消費する」

「では、炎を燃やし続けるにはどうしたらいいんだい?」

「え、えっと燃料をくべなきゃならんよな」

「魔法の燃料は魔力じゃないか。つまり、燃やし続けるには『発動』し続けなきゃいけない。はい、分かりましたね」

「分かった……そいつは辛いな」


 牛乳があります。魔法で冷やします。すぐに牛乳が暖かくなってしまいますよね。

 そこで魔法で冷たさを維持する必要があります。

 なら、冷たい魔法を発動させ続けることになりましたとさ。

 うん、しんどい、しんど過ぎる。

 種の強化を延々と繰り返しながら領都からエルドーシュの村まで移動するとか無理だ。倒れてしまいます。

 彼との話にオチがついたところで、ちょうど食べ終わった。


「イドラ様、お客様が見えております!」

「計ったようにやって来たな」


 食器を洗うくらいはやりたかったのだけど、シャーリーに促され後ろ髪を引かれつつも客人に会いに行く。

 客人といっても村人の誰かだ。


「おはようございます!」

「おはよう」


 大変元気がよろしい。耳がキンキンする。

 声を張り上げ挨拶をしてきたのは、一緒にグリフォン討伐へ行った若い衆の一人だった。

 長い髪を後ろで縛り、細い目をした青年だ。

 若い衆の中では気の良い兄貴分って感じだった。

 

「青年団、全員集まっています」

「青年団……グリフォンの時の?」

「はい! 狩に向かうグループの中で一番年少の一団です」

「となると力自慢も多そうだ」

「体力勝負はお任せを!」

「頼りにしているよ」

「畑作るんですよね。ドノバンさんが錆びたクワを研いでくれました」


 かつては畑仕事をしていたから道具は残っていたのかな?

 馬車に農具を積んできたものの、一セットしかない。村で用意してくれなきゃ、俺には準備ができないのでとても助かるよ。

 村に向かう前に農具のことを考えていなかったのかって?

 考えるわけないって……どこの村でも農業をやっているんだもの。まさか農具がまるでないなんて事態は想定していない。

 枯れた大地だの言っていても少しは農業をしていると思ったんだよね。それが、ドノバン以外に畑を耕す人がいなかったなんて。

 

「よっし、それじゃあ現地に向かおう」

「全員現地に集合しています!」


 気分は開拓団の団長である。

 目をつけたのは元々畑だった場所で整備にそれほど手間はかからないと見ているんだ。

 現場に到着。

 青年団のみんなはクワを片手に今か今か俺を待っていてくれた。


「イドラ様、お待ちしておりました!」

「過去に畑を作ってどうなったかは聞いているよ。ドノバンさんの畑の惨状も。それでも、今一度畑を作ることに同意してくれてありがとう」

「イドラ様の奇跡の力ならば、枯れ木に花も咲くことでしょう。畑だとて!」

「あ、いや。よおっし、やるぞお」

「えいえいおー」

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