第17話 ゴー、スル
「そこで、第二の種だ」
どちらもクルプケが村に到着してからとって来てくれたあの赤色で細長い種を強化したもの。
そう、ツリーピングバインの種だ。一つ目の種は蔦の柔軟性と数を極限まで強化した。
第二は違う方向性である。とくとご覧あれ。
種をグリフォンの近くに向け投げる。
綺麗な弧を描き、種がグリフォンの首の下辺りに落ちた。
「発動!」
種に魔力を送り込む。
魔力に反応し水を与えずとも芽吹き、先ほどより二回りほど太い蔦がシュルシュルと伸びあがる。
蔦はたった五本しかなく、先ほどの蔦より短いがグリフォンの体に蔦が巻きつく。
ゴキゴキゴキと鈍い音がして、グリフォンの体中の骨が折れ、びくびくと体が跳ね動かなくなった。
「討伐完了。おおーい、撤収するぞお」
呼びかけると蔦の囲いから村の若い衆が出て来る。
倒れたグリフォンを見て、固まった後、お互いに顔を見合わせ、グリフォンに目が行って、今度は俺に視線が集中した。
「グ、グリフォンを討伐したのですか!」
「この伝説は後世まで語り継がねば」
「イドラ様ー!」
「感想は後だ。先に撤収しよう」
そんなこんなで、特に苦もなくグリフォンを討伐し帰路につく。
グリフォンの遺骸も村の若い衆が持ってくれた。遺骸をそのまま置いておくと別の何かを引き寄せる可能性もある。
爪や牙など加工して道具にできる素材は使い、残りは燃やしてしまうとするか。
村に戻ると騒ぎになる。ツリーハウスの時より集まった人が多い。
ツリーハウスの時は特に村人を集めて、ってわけじゃなかったから……いや、今回なんて誰にも声をかけてないぞ。
村の若い衆たちがヌエラを追い立てたってことは、村中で危機が共有されていたのかもしれない。
ヌエラとグリフォンの災禍はこの村の人たちなら子供時代に皆聞かされてそうだし。
ヌエラを無事追い払い、戻ってきた若い衆を迎えるべく集まっていた人たちは思いもよらぬグリフォンの遺体にどよめく。
そして、またたく間にたくさんの人が集まり、今に至る。
こう、注目されるのも気恥ずかしいもので、爪や牙など使えそうな素材は取り後は残りを処分するだけとなった。
この頃になってようやく人の姿が無くなり、若い衆もずっと動きっぱなしでつかれているだろうからと休んでもらうことにしたんだ。
「ふう。あとはドノバンにでも頼んで残りを灰にしてから埋めるか」
土葬でも良いかと思ったのだが、ちょいと怖くてね。
なんかほら、うん、ほらさ、ファンタジーな世界じゃない、この世界。
となると、アンデッドって連中もいるわけだよ。死体が生きる屍となって地面が盛り上がり、外に出て来て、なんてことも無いとは言い切れない。
アンデッドが生まれる仕組みは知らないけど、灰にしてしまえば動き出すこともないだろうと思ってさ。
「んじゃ……あ、運ぶところまで手伝ってもらえばよかった」
時すでに遅し、この場には俺しかいないではないか。
チクチク。
ふくらはぎに何かが振れたことに気が付き、下を見る。
すると、ミニドラゴンが口をパカンと開きぼーっと俺を見上げていた。
「クレイ、ゴー、スル」
「どこかに行くの?」
お散歩なら後にしてくれないか。こいつを処分したらいくらでもつきあってやるから。
ところがどっこい、ミニドラゴンのクレイはちょいちょいとちっちゃなお手手でグリフォンを指すではないか。
「ゴー、コレ、ゴー」
「グリフォンがどうしたの? 食べたい?」
まさかの肉食!?
リンゴの木に住んでるのかと思うくらい、枝の上にいたってのに。
ま、まあ食べてもいいけど。それなら骨だけになって軽々になるぜ。
ところがどっこい、何度目だよこれ。
ミニドラゴンはブンブンと首を左右に振る。
「ウマウマ、チガウ」
「ゴーって一体……」
「イドラ、ゴー、シテホシイ」
「あ、え、うん。運ぼうと思ってたよ」
「ゴー、スル」
ミニサイズとは言え、ドラゴンはドラゴンなので力持ちなのか?
ところがどっこい、何だか癖になってきたぞ。
クレイは口をパカンと開け、大きく息を吸い込んだ。
ゴオオオオオオ。
彼の口からオレンジ色の炎が吐き出され、グリフォンの遺体を包み込む。
あっという間にグリフォンが骨も残さず灰と化した。
「や、やべえ……」
「ゴー、シタ。イドラ、ウレシイ?」
「あ、ああ。助かったよ」
「ウマウマ、ホシイ」
「あ、ああ。食べていいよ」
「ウマウマ」
用は終わったとばかりにミニドラゴンは小さな翼をパタパタさせて飛んで行く。
「ふう……正直、めっちゃビビった……」
ビックリしたのではなくビビった。
あの炎のブレス、やばい、やばいって
少しでもアレに触れていたら蒸発していたぞ。
「ま、まあ……処分完了したってことで」
灰が舞うと目にくるので、穴を掘って埋めておいた。
何故かスコップが腰のポーチに入っていて、そいつを使ったのだ。
思い出した。スコップを持ち運んでいたのは、種を植えるためか。手で十分事足りたので使わなかったんだよね。
「さて、帰るとするか」
パンパンと手を払い帰路につく。
帰るとシャーリーが物凄い勢いで走って来て、「無事で何よりです」と目を潤ませていた。
相当彼女を心配させてしまったようだ。「大丈夫だ。問題ない」を繰り返す回数が足らなかったのだろう、きっと。
次回同じようなことがある時は十回くらい繰り返してみることにしよう。
そう心の中に刻み込む俺であった。
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