第16話 グリフォン
「だいたい状況が分かったよ。ありがとう。それで村長はまず俺に知らせてからって言ってたんだよな? 何か言伝はあった?」
「イドラ様に判断をお任せします、とのことでした」
「ヌエラを追い払って欲しい、と言えばすぐ動けるのかな?」
「はい、既に準備をしています」
「ヌエラを追い立てて欲しい。見晴らしがよく、村からそれほど離れていない場所が良い。そう言った場所はあるかな?」
「ございます。丘がありますのでそこなら見晴らしも良く、周囲に木々もないです」
「そこにヌエラを誘導してもらえるかな」
「分かりました!」
村からヌエラを離す、だけと彼は思っているのだろう。きっと。
離すことは離すが、彼と俺の目的は異なる。
彼らを危険に晒すつもりはサラサラないので安心して欲しい。
しかし俺の考えに気が付いてしまった人がいた。俺と長い付き合いのある犬耳の彼女だ。
この場にジャノがいたら、彼も同じく気が付いていただろうな。
さあ、状況開始だ、と青年に告げようとしたところで彼女の声が遮った。
「イドラ様、まさか」
「いやいや、そんなことはないって。見学だよ、見学」
昨日一日時間があったからねえ、色々準備もできたんだよね。ふふ。
「さあ行こう。ヌエラを追い立てに」
「はい!」
青年と並んで歩き始める。グリフォンよ、待っていろよお。
◇◇◇
やって参りました村外れの丘に。
ヌエラたちは丘の上で草を食んでいる。青年たち、村の若い衆は仕事が終わったとばかりに撤収の準備を始めていた。
先に行っておいて、と彼らに言うと「危ないです」と彼らも残ると言い始めてしまう。
俺一人ならともかく他の人が怪我をしたら後味が悪すぎる。
あ、そうか。ここで種の強化をすればいいのか。大きさをいじればいけるはず。
「もう少し前に出よう。対策もあるから」
「余り前に出ると危険です」
「まあまあ」と両手を前に出しながらヌエラたちの方へ体を向ける。
彼らとの距離15メートルくらいのところで止まり、その場にしゃがみ込む。種を地面に埋め水袋から水をちょろりと出し地面に垂らす。
すると芽が出てみるみるうちに成長し始めた。
「みんな、ここに集まって」
木の枝が複雑に絡み合い、俺たちを囲う。
「お、おおおお!」
「すげええ!」
木の枝の囲みに驚きの声があがる。木の囲みは俺たちを中心にドーム状になっていてうまい具合に葉が開いている箇所があって外を見ることもできるのだ。
元々俺一人用のサイズだったのだけど、さきほど強化して大きくした。
こいつは樫の木を進化させ、強化した特別性の囲いである。使ったのはこれで二度目なのだけどね。
実戦はこれが初だ。まあ、グリフォンの一撃でも一発くらいは耐えることができるんじゃないかな? 多分、きっと。
「これでグリフォンが襲い掛かってきても平気ですね!」
「あ、あ、うん」
グリフォンの体当たりに対してはまず大丈夫だ。これは自信をもって言える。
爪は……枝が切り裂かれてしまうが、そこは急激な成長速度ですぐに穴を塞ぐことができるはず。
一発くらいは、で想像したものはブレスだ。
グリフォンが炎のブレスを吐き出したかどうか記憶があいまいなのが悔やまれる。
ま、まあ、枯れ木じゃないし。炎一発で灰になることはないだろ。は、ははは。
攻撃されなきゃいいだけだ。
「イドラ様、ばんざーい」
「新たな領主様は神の子とお聞きしました!」
「おおおお! 確かに!」
な、何やら元御者たちのように村の若い衆が盛り上がっている。
いや、君たちさ。さっきまで危ないからとか言ってたよね。
こんなに叫ぶと……あ、やっぱり。
空にある米粒のような黒い点がどんどん大きくなってくる。
俺にとっては叫んでくれた方が好都合だった。まだこの距離だとあの黒い点がグリフォンなのかは判別がつかない。
グリフォンじゃなくとも、声を聞いて反応するような相手だから獰猛な肉食系のモンスターかなにかなのだろう。
何が来たとしても悪くない。今後、襲い掛かってくるかもしれないモンスターの一種なわけだから。
いや、積極的に襲おうなんてつもりはないんだ。勘違いしないでよね。
考えてみてくれよ。獰猛なモンスターが来襲する時ってこちらは身構えておらず、奇襲を受けるだろ。
今回は違う。待ち構えて撃退するのだ。
言いたいことがよく分からなくなってきた。要はある種の試金石になると思っている。
待ち構えて対応できないのなら、奇襲にも対応できるわけがない。聞くところによるとグリフォンは村にとって脅威度が最高クラスに位置づけられている。
ここでグリフォンに対することができるなら、万が一奇襲された時にも被害を食い止めることができるんじゃないかってね。
ん? 待ち構えて対応できない場合はどうするのかって?
逃げるだけなら色んな手があるから心配することはないとだけ言っておこう。
盛り上がって夢中になっている彼らを後目にするすると囲いから出る。
「グギャアアアアアア」
近寄ってきていた黒い点はライオンの胴体に鷹の頭と翼、かぎ爪を持つモンスター……グリフォンだった。
物凄い雄たけびをあげて急降下してくる。
対する種を下に落とし、水を注ぐという地味過ぎる動作で待ち構える。
奴の狙う先はヌエラではなく俺のようだな。ヌエラたちの護衛だとでも判断されたのだろうか?
俺、武器さえ構えてないのだけど、まあいい。
既に準備はできている。
迫りくるグリフォンの前に緑の壁が立ちふさがった。緑の壁など何のそのとグリフォンが鋭いかぎ爪を振るう。
スパンと緑の壁が切り裂かれるも、もはや遅い。
緑の壁は蔦が絡まり、壁となったものだった。蔦は壁を構成しているものだけではなく、壁の後ろからシュルシュルと幾本もの蔦が伸びグリフォンに絡みつく。
「グ、グガア」
ドオンと地面が揺れた。
翼をはためかせることができなくなり、グリフォンが地面に落ちたからだ。
これだけではグリフォンを倒すことは叶わない。いずれ蔦から抜け出し、逆襲してくることだろう。
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