第15話 害獣駆除

 ツリーハウスが出来上がる姿を目の当たりにした村長の態度はこれまでと一変し、非常に協力的になった。

 この後すぐさま彼が村民を呼び集め、ツリーハウスの前でいかにツリーハウスが出来上がったのかを熱く語り、半信半疑ながらも村民たちも俺に何でも協力させて欲しいと申し出てくれたんだ。

 ここで「畑を」とはまだ言えないな。元御者たちとドノバンが俺の種を使って育ててみてから、改めて依頼しよう。

 「派手に」というジャノの提言は凄い効果だった。ツリーハウスの中でも家族向けの住居はインパクトが大きいものな。

 俺も驚いたくらいだもの。

 入口は洞になり、洞の中は六畳くらいの広さがある。中の螺旋状の階段を登ると外の枝に出て一つ目の部屋。ここは八畳くらいかな。少しだけ上の位置にもう一つ八畳くらいの広さの部屋があって、三階くらいの高さの場所に四畳、四畳と二つの部屋があって、一番高いところにある部屋からの見晴らしといったら格別なものだった。

 宿舎が無ければここに住んでいたかもしれない。ツリーハウスには弱点もあって、煮炊きができる場所は必ず入口の洞の中になる。ここに釜を作って煮炊きができるようになっていた。他は煮炊き禁止だ。構造上、火災になる可能性がある……というのはジャノから教えてもらった。

 

 二日後の昼過ぎに事件が起きる。元御者たちは着の身着のままで住むことになったので、日用品すらない。

 幸い宿舎には余っている日用品があった。宿舎は俺とジャノとシャーリーの三人で住んでいるので、部屋が余っている。

 都合の良いことに四部屋だったのだよね。それで、余った部屋にある家具類をツリーハウスに運び込んだ。一度領都に帰った御者たちは家族を連れて最低限の日用品も持って戻ってくる見込みである。

 なので、残った四人の分がなんとかなれば良い。

 一日かけて家具を運び、調理器具などはドノバンからお古を譲ってもらった。一セットだけなので彼ら共同で使ってもらうことになるけど、そこまで不便は感じないはずだ。

 引っ越しも終わり、ドノバンの都合もついたので元御者四人と共に彼の畑へ来ていたんだ。

 いざ、種を撒いてみようってところで村民の青年が息を切らせて駆けてきた。

 

「た、大変です!」

「ま、まずは落ち着いて」

 

 水袋を青年に手渡す。迷うそぶりを見せた彼だったが、「さあ」と促すとよほど喉が渇いていたのだろう、ゴクゴクと一気に水を飲み干す。

 息が整った彼は胸に手を当てふうと大きく息を吐き喋り始める。

 

「村長がイドラ様にまずお知らせせよ、とのことで」

「村長が?」

「はい、ヌエラを見たという者がいます。それも十匹ほども」

「ヌエラ?」


 聞いたことのない動物だな、モンスターなのかも?

 要領を得ない俺に青年が説明をしてくれた。

 ヌエラは頭が鹿で胴体の前半分が牛、後ろ半分は馬に似るという変わった動物らしい。

 動物とモンスターの区分けは曖昧で危険のないものは動物にカテゴライズされることもある。動物に見た目が似ていて、危険じゃないものなら動物になることが多い印象だ。

 危険がないものを何もかも動物と呼ぶわけでもない。上半身が人型で下半身がタコのスキュラはモンスターに区分けされ、上半身が人型で下半身が蜘蛛のアラクネーは妖精に分類されている。これもジャノに聞いた話だけど、モンスターに区分けされているスキュラは積極的に人を襲うわけではないらしい。もう一方のアラクネーもまた人を襲うことがある。

 どちらも自らの巣や縄張りに侵入されると問答無用で排除しようと襲い掛かってくるんだ。人に限らず、ね。

 スキュラの縄張りが水中で範囲が広く、洋上から確認できないので出会ったら即戦闘になり、アラクネーは巣の周囲に白い糸が張り巡らされていて見ればすぐ分かる。

 こういった理由からスキュラはモンスターになって、アラクネーは妖精になっているんだってさ。

 

「ヌエラのことは分かった。かなり草食によった雑食なんだよな?」

「その通りです」

「だったら、特に警戒することもないんじゃ? 村には作物が実っているわけでもないし」

「作物があれば食害されることもあるかもしれません。ですがそこではないんです」


 はて、まるで想像がつかない。

 ん、一つ思いついたぞ。アフリカのサバンナを想像してみて欲しい。

 ガゼルやシマウマの群れが水を飲みに集まっている。そこへ腹をすかしたライオンたちが……。


「ヌエラを好物にしている猛獣かモンスターがいる?」

「厄介なモンスターです。これまで何人もの村人の命が失われました」

「村でとってきた対応策はあるのかな?」

「ヌエラを追い払えば良い、と聞いてます」

「聞いてます……ってことはヌエラが集まってきたのは久しぶりなのかな?」

「俺が子供の頃に一度あったきりです。あの頃はまだ作物を育てようと熟練の農家の人が村を訪れ挑戦していた時期だったんです」


 その時の農業がどうなったのかは聞かなくても分かる。

 ヌエラは村の作物を狙って出現する……のかもしれない。この村にはまだ作物はないはずだけど……あ、思い当たることはある。

 ま、まあ、これから豊作の村にするつもりだから余裕がある今、ヌエラが出現したことは幸いだった。


「ヌエラを襲うモンスターについて教えてもらえる?」

「イ、イドラ様、まさかモンスターを見たい、とかじゃないですよね」

「あ、あー。どんなモンスターなのかなあって」

「グリフォンです。空から急襲してくる……と聞いてます。村長がおっしゃってました」

「グリフォン……それほど危険度の高いモンスターなんだよな?」

「騎士様が数人がかりで追い払うことができると言う事です。村人が襲われたら一たまりもありませんよ!」

「討伐しようにも危なくなったら空を飛んで逃げて、回復したら復讐心をもってしつこく襲ってきそう」


 う、うーん。

 グリフォンか。それなら俺も知っているぞ。結構有名なモンスターでコドラムの脳筋五人いれば追い払うことができると聞いている。

 狩るには大規模なものになり、そらもう彼ら嬉しそうにお祭り騒ぎをしていたぞ。

 グリフォンが出た、狩るぞ、狩るぞってな。

 ほんとあいつらの思考には……いや、今はそんなことを思い出している場合じゃないな。

 グリフォンはライオンの胴体に鷹の頭と翼、かぎ爪を持つモンスターだ。馬より大きく空を飛ぶ。

 大型だから飛翔速度が遅いのかというとそうではなく、目にも止まらぬほどのスピードで空をかけ急降下し、かぎ爪で襲い掛かって来る。

 騎士二人がかりで大盾を構えて、盾の隙間から槍で攻撃する、とか言ってたな。

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