第14話 補給物資? うーん

「村民の住居と重ならないようにしてくだされば問題ございませんぞ」

「では、さっそく新村民を呼んで家を作ります」

「イ、イドラ様、補給物資の件は……」

「ご心配なさらず。我々の食べる分は父に追加で頼むこともできます」

「そ、そうでした! イドラ様は辺境伯様のご子息であらせました」


 今度は完全にホッとしたのか、村長の雰囲気が変わる。

 まあ、物資は心配ないと言っても領主権限で取り上げられるとか心配していたんだろうな。

 そんな心配なぞ、家作りを見てくれれば分かるってのに。

 

「もしお時間ございましたら、家作りを一緒に見学しませんか?」

「はい! 是非に!」

 

 自分に不利益の無いことで俺の機嫌を取れるなら、とでも思っているのだろうか。

 村長なら打算も必要だ。特に彼に対して思うところはない。むしろ、厳しい村事情の中、よく村を維持してきたと思う。

 厳しい目で譲れないところは死守しなきゃ、農業のできない村だとすぐに干上がってしまうものな。この調子だと彼の辣腕で村民にはうまく補給物資が配給されていることだろう。

 もみ手をする村長と共に元御者たちの家を建てる土地を見繕いに外へ出る。

 

 ◇◇◇

 

「イドラ様、残った者はこれで全てです!」

「ありがとう。戻ってくる予定の家族はどれほどかな?」

「四家族です!」

「残っているのは一人用の住居の予定?」

「はい、おっしゃる通りです」


 集まった元御者たちは全部で4人。これに4家族なので、小さな住居と家族用の住居をそれぞれ四棟建てればよい。

 あ、補給部隊用の宿舎を俺たちが占拠しているから、彼ら用の住居も準備しよう。

 村長はあっさりと宿舎を使ってと申し出てくれたのだが、補給部隊が来た時のことを考えていたのかな?

 彼にとっては補給部隊も俺も「お上」のことだから、勝手によろしくやってくれると高を括り、丸投げしたのかもしれない。

 村長と見繕った場所は宿舎から150メートルほど離れた荒地だった。大きな木もなく、雑草もまばらだ。

 なるほど、これなら木を切り倒したり、岩を取り除いたり、といった整備をせずとも家を建てることができる。

 俺にとってはどっちでもいいことなのだけどね。

 集まったのは、元御者たちに加え、ジャノ、シャーリー、そしてドノバンに村長だ。

 ドノバンはお礼にとハサミを持って訪ねてきてくれたところ、誘ってみたら見学に同行してくれた。

 ハサミは見事なもので、木からリンゴや梨を採る時に使えるものだった。俺が素手でもいでいたので、余ってるものだから、と持ってきてくれたんだ。

 果物のお礼にハサミでは釣り合わないけど、ありがたく受け取った。日本と異なり、ハサミは安いものじゃないんだよね。

 鍛冶で作らなきゃならないので、全て手作りだ。たまに刃を研ぐことも必要である。

 彼には農業の指導もしてもらうし、いっぱいお礼をしなきゃだな、うん。

 

「いよいよだね。まさか、今日の今日とは思ってなかったけど」

「俺もだよ。ちょうどいい名称の進化先があってさ」


 知的好奇心から目をギラつかせているジャノにせかされ、いよいよお披露目となった。

 この辺でいいか。まずは一つ目。

 穴を掘り、種を埋める。

 シャーリーから水を受け取り、種を埋めた場所に水を注ぐ。

 すると、リンゴの木の時と同じように芽が出てまたたく間に木となった。

 今回はそれで終わりじゃない。木に洞ができ、洞の中が形を変えていく、家の二階くらいの高さのところの枝がグルグルと巻いて床のようになり枝で壁ができ、屋根が形成される。

 進化先に表示されたいた名称は「ツリーハウス」だったんだ。思った通りの成長をしてくれてホッとしたよ。


「さすがイドラ様! 神のごとき!」

「植物に愛されしお方!」


 元御者たちが膝をつき涙を流しながら絶叫した。

 そ、それ少し恥ずかしいのだけど……。貴族に生まれながらも日陰で生きてきた俺にとって賞賛ばかりか崇められる事態はむずむずして座りが悪い。

 前世でも黙々と業務をこなすサラリーマンだったし……。


「ま、ま、まさか……種からおとぎ話のようなツリーハウスが生まれるとは……イドラ様……あなた様は一体……」


 元御者たちと違って初めて急速に成長する木を見た村長は腰を抜かし、あわあわと口が半開きになっていた。

 そこへ御者が余計な口を挟む。


「このお方こそ、植物の神が遣わせた神の子」

「イドラ様、あなた様ならば不毛の大地を豊かにできるやもしれません。いや、できますぞ」


 村長も彼らに乗っかった。

 

「あはははは。神の子イドラ様」

「ジャノ……残りも植えるぞ」


 笑い過ぎだってばさ。

 ひとしきり笑って満足したのか、ジャノは元の顔に戻り褒めてくれた。


「種の図書館の力、見せてもらったよ。素晴らしいとしか言いようがないよ。梨の時にも驚いたけど、ここまでじゃないよ」

「進化は植えて実物を見るまでどうなるか分からないからなあ。魔力もごっそり持っていかれるし」

「これまでは薬だけに集中していたからね。種の図書館の応用力はこんなものじゃあないと思ってるよ」

「ははは、それは褒めすぎだよ。偉大なる魔法使い様」

「それはやめてくれないか」

「俺も同じ気持ちなんだって」

 

 ジャノと苦笑しあい、次の種を植える。

 そんなこんなで、都合二十棟のツリーハウスができたのだった。

 出来上がったところで、ジャノが助言をくれる。


「井戸はどうするんだい?」

「我々で掘ります!」

 

 元御者たちが口を揃えた。

 穴を開けるだけなら、特に問題なくできるのだけど……。

 

「井戸掘りですか。道具はありますぞ」

「先日、儂が整備したばかりじゃ」


 村長とドノバンが即協力を申し出てくれたので、井戸は元御者たちに任せるとするか。

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