第13話 モンスターの種、多いね

『アルラウネ:中立、自走可能、特殊能力無』

「今度もモンスターの種かよ……いや、妖精に近いのか? 敵性じゃないし」


 アルラウネもジャノの図鑑に乗っていたな。マンドレイクの亜種で女の子の上半身をしていたんだっけ。

 マンドレイクは大根に足が生えたようなモンスターなのだが、見た目がまるで異なるけど本当に亜種なのか、とジャノに聞いた記憶がある。

 

「しっかし、どちらもモンスターの種か。クルプケ、よくぞ無事で戻って来たな」

 自由に出歩かせない方がいいかもしれない、と思いつつも彼の行動を制限する術もなく。

 使い魔であるが、俺は魔法使いではないので彼と会話することもできないし、使い魔になったことで特にクルプケの能力が強化されたわけじゃない。

 だが、俺かクルプケどちらかが危機に陥れば、悪寒がする。その時強く念じれば、お互いの場所が分かるのだ。

 クルプケの行動範囲は徒歩だし、危機を感じた時に馬で駆け付ければなんとかなるか。

 それにクルプケは穴を掘るのが得意だ。万が一の時は潜って逃げたりもできる。

 悪寒を感じたらすぐに行動できるようにだけはしておくか。元御者の村人たちには馬を見てもらうことになっている。

 もしもの時の足もあるから良しとしよう。

 

「本題に入るとするか」

 

 家、家ねえ……。

 家となると少なくとも木じゃないとダメだよな。

 せっかくなら資源にもなるものがいい。こいつで行くか。

『オリーブの木 成長力+++、環境適応力+++、病気耐性+++』

 ここまではまあいつも通り。オリーブの実はオリーブオイルになるので、一石二鳥である。

 魔力のある限り、やるか。

 種の図書館の力はただ強化するだけじゃない。

 種を魔改造……進化させることができるのだ。普通の強化より遥かに魔力を消費するので、一日にできる回数に制限がある。

 強化も回数制限があることは変わらないけど数十回可能であるが、進化は二回が限界だ。


「まずは全てのパラメータをマックスにする」

『オリーブの木

 成長力+++

 環境適応力+++

 病気耐性+++

 再生力+++

 果実+++

 全てのパラメータがマックスになりました。進化させますか?』

 させる。と念じると候補が表示された。

 木に住むとなると空洞が必要だよな。もしくは枝が床のようになって屋根までできちゃうとか。

 強化する場合は名前しかでなくて、どのようなものになるか実物を見てみないことには分からない。

 あ、でも、強化先にまんまなものがあった。よっし、これで行こう。

 進化、と念じるとゴソっと魔力が持っていかれクラリとした。

 一個つくることができたら、種の図書館の便利能力を使う。

 その名も「転写」だ。

 全く本当に便利過ぎる種の図書館の能力には驚きを通りこして呆れまでくるってもんだ。

 「転写」は手持ちの種のパラメータを他の種に上書きする能力である。

 要は作った種とコピーペーストする機能というわけなのだ。

 転写は強化くらいしか魔力を消費しないので、残魔力で十分必要数を準備することができる。

 え? 一体どんな進化をさせたんだって? そいつは見てからのお楽しみさ。俺も見るのが楽しみで仕方ない。


「ふう……」

「イドラ様! 真っ青になってます! だ、大丈夫ですか?」


 一息ついたタイミングを見てシャーリーが紅茶を運んできてくれた。

 そんなに酷い顔をしていたのかな? 彼女の犬耳がペタンとなり、尻尾もせわしなく動いているではないか。

 彼女の場合、表情より犬耳と尻尾に感情が出る。


「久しぶりに進化を使ったんだ。それで魔力がさ」

「そ、そうだったんですか」

「ついでに転写もしちゃって。もう魔力が底をつきかけている」

「すぐにお休みになった方がよろしいかと」

「眠たくはないけど、昼過ぎまで横になって来るよ」

「お着換えを準備いたしますね」

「いや、そのままでいいよ」


 着替えてベッドに寝転がったら本当にぐっすりと寝てしまいそうだ。

 夜に起きていても暗いしやることがない。ランタンに灯りをともせば本位なら読めるけど、特に読みたい本もないからさ。

 種が準備できたので、村長のところに行きたいし。

 立ち上がるとまたしても頭がクラクラしてよろけてしまう。俺を支えようとするシャーリーに「大丈夫」と断って、自室に向かう。

 

 ◇◇◇

 

 寝ころんで少し魔力が回復してきたのだが、村長の元へ顔を出す。

 時刻は昼下がり、ぽかぽか陽気なら丁度眠くなってくる時間帯だ。

 訪ねると村長は快く俺を迎え入れてくれた。


「家を……ですと?」

「はい、一緒に来た御者たちがここで暮らしたいと申し出ておりまして」

「そ、そうですか」

「土地が開いていない、のでしょうか?」


 真っ白の長い眉を寄せ、悩む村長に質問を投げかける。

 村長の懸念は俺の思うところとは違っていた。


「土地ならいくらでもございます。お恥ずかしいことですが、見ての通り、村を覆う柵も機能しておりませんでな。村の外も中もありませぬ」

「となると、別のことで何かあるのですか?」

「イドラ様は村の事情をご存知ですかな?」

「はい、自分の治める地域にある唯一の村ですから」


 あ、やっと察することができた。

 領主である俺に対し、彼も言い辛いのだろう。ここは俺から言った方がいい。


「村長殿。食糧についてご懸念されているのですか」

「は、はい……」

「それならご心配なく。私も含め、今までの補給物資には手をつけるつもりはありません」

「そ、そうでしたか」


 万が一、俺たちや御者の分の食べるものがない事態になりそうなら父を頼るしかないが、リンゴの木が育っているし小麦が育たなかったとしても何とかなる。

 行き違いのためか、微妙な沈黙時間が流れ先に村長が殊更明るい声で取り繕うように発言した。

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