第12話 せえので意見を

「食糧のことなんだ」

「御者の家のことなんだけど」

「あれ?」

「どうしたんだい?」


 ドノバンと別れ、宿舎の一階の元食堂でさっそくジャノに相談をしたのだけど、予想と異なり俺と彼の考えは異なっていた。


「紅茶が入りました」

「ありがとう、シャーリーも座って」

「は、はい」


 言わなきゃ彼女は立ったまま後ろに控えてしまう。

 辺境伯宮と違って他の人も目もないし、必要性もないのに立ったままである必要はない。彼女が警備兵なら話は別だが……。

 ここについて来てくれた時点で、俺と彼女の関係性も変わると思っている。

 ジャノと同じで彼女も俺と志を同じくする同志じゃないか。

 と俺が思っていても、なかなか身分というものは重い。俺の自己満足だけで逆に彼女に窮屈な思いをさせたら本末転倒なので、強制も良くないんだよねえ。

 難しいところだ。

 淹れたての紅茶の香りを楽しんでから、ずずずと一口。

 

「御者の家のことで?」

「君が僕に相談したかったことが食糧というのは?」

「いや、ほら、枯れた大地というわけで作物が育たないわけじゃないか」

「そこは全く心配をしていないけど?」

「そうなの?」

「そうさ。まず、君の『種の図書館』の力ならリンゴの木を成長させることができたわけじゃないか」

「ならば他も問題ないと?」

「問題があったとしても、食糧は領都から供給を受けているんだろ。小麦などの穀物だけかもしれないけどね」

「村民は他に狩猟で何とかして生活をしているのかもな」

 

 農業をしていないのなら、狩猟や採集をしていると考えるのが普通だ。

 現時点で彼らは飢えずに生活できているのだから、俺の種がうまくいかなくても即飢えに苦しむってわけでもない。

 なるほど。だから第一に考えるべきことでもないか。確かに理屈は通っている。


「衣食住、一応何とかなっているんじゃない? 村が存続しているわけだし」

「口減らしや他の村へ移住もありそうだけど」

「あるかもしれないね。よしんばそうだとしても、君の能力は君が一番分かっている。相談をするにしても上手くいかなくなった時じゃないのかな?」

「確かに……じゃあ、御者の家のことってのは?」


 ここで一息おいて、お互いに紅茶を口にした。

 ジャンが先に口を開く。


「御者は領都へ帰る予定だったが、君の能力を目の当たりにして惚れこみ、ここに住むと申し出た」

「ま、まあ、結果から言うとそうだな」

「村民は食べていけなくなり、出て行く可能性はあるにしろ現状、衣食住は整っている。種の力を見れば考え方も変わるかもしれないが、基本村社会とは保守的なものじゃないかな?」

「よそ者は歓迎されない風潮があるのは確かだ」


 日本の村社会とは比にならないくらい閉鎖的な村もあった。

 日本と異なるのは閉鎖的であっても、貴族が来ればちゃんと対応するところかな。


「全ての村人じゃないけど、僕らが来た時に補給だと思って出てきた村民がいただろ」

「いたいた」

「あの死んだ目を見たかい? ただ生きているだけに見えた」

「否定はしない」

「彼らの目を覚ますことができたなら、保守的、なんてものが吹き飛ぶと思うんだ。あっと驚くことを派手に実行する、どうだい?」

「それで御者の家と何が繋がるんだか」

「そこで君の力だよ。いずれにしろ御者用の家は必要。宿舎に住んでもらってもいいのだけど、僕らも彼らも窮屈になるだろ?」

「俺の力と家が繋がらないんだって」

「以前君は植物の力で水をひいて見せた。なら、さ」


 う、うーん。出来るのか?

 いや、試したことも考えたことも無かったから見向きもしなかった。

 よっし、試してみるとするか。種の図書館の力、とくと見せてやろうじゃないか。派手に。

 気合が入ったところで、のそのそとクルプケが姿を現す。

 

「もきゅ」

「また種を取って来てくれたんだ」


 抱き上げてわしゃわしゃすると、目を細めグルグルと喉を鳴らすクルプケ。

 こうしていると犬や猫のようだけど、クルプケはネズミの一種なのだよな。ネズミでもカビパラとか大型種もいる。

 クルプケもネズミ種としては大型の種で、犬くらいの大きさがあるんだ。

 今度の種は朝の種と違って特徴のない種だな。朝顔の種のようにも見える。

 クルプケを降ろし、ジャノへ目を向けた。

  

「ここでこのまま種を強化してみるよ」

「楽しみにしているよ」


 さてっと。首を回し、手を組み「んー」と前へ伸ばす。

 先にクルプケが持ってきた種を調べてみよう。

 一つ目。大きな種の方から。赤色で毒々しい。

 目を瞑り心の中で念じる。

『開け、種の図書館』 

 目を開き、毒々しい赤い種に触れた。

 視界にいつものゲームのようなステータスウィンドウが出現する。

『ツリーピングバイン:敵性、自走可能、特殊能力無』 

「ひい。これモンスターの種じゃないか」


 このまま種を植えていたら、襲われていたかもしれんぞ。

 植物型のモンスターはいくつか種類がある。もっとも、実物を見たことはないのだけどね。

 これもまた例のごとく、ジャノの持っていた図鑑からの情報である。

 植物型モンスターは植物のような見た目をしており、光合成……をしているのかどうか分からない。

 有名どころでは動く木のトレントかな。大木の姿をしていて、幹に顔がある。根は地面から出ていて、根を動かして移動する……と記載されていた。

 ツリーピングバインは蔦型のモンスターで、蔦を束ねたような胴体で足部分も蔦である。獲物を蔦で捉えて胴体部分にある口に放り込んで捕食する……らしい。

 怖気を覚えつつも、次の種の鑑定に移る。

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