#26 双子の過去

 俺たちは戦争孤児だった。


 親の顔は覚えておらず、覚えていたのは妹のことと、自分の「ヴァル」という名前だけ。


 そんな俺たちを、ご主人さまは助けてくれた。




 わたしたちは、ご主人さまに護身術や魔法など、基本的な戦闘知識を叩き込まれた。


 少し練習はきつかったけど、ご主人さまは優しいから、こんなの苦じゃなかった。


 ご主人さまが「アズ」と呼ぶたびに、心が踊った。




 ご主人さまは、親のことを覚えていない俺たちに、まるで本当の親のように世話をしてくれた。


 当時はまだ8歳ほどで、戦闘訓練が始まったときはびっくりしたが、ご主人さまはどこかの騎士団長をやっていたらしく、その戦う姿は本当にかっこよかった。


 ご主人さまと同じ剣で戦おうとしても、うまくできなかったため、俺たちにあった戦闘スタイルを教えてくれた。


 俺は魔法、アズはヌンチャク。


 その選択が正しかったのか、俺たちはメキメキ上達していった。




 そんなとき、わたしは知ってはいけないことを知ってしまった。


 ヴァルが寝てる間に、ご主人さまに稽古をつけてもらおうと、部屋を訪ねた。


 そのとき、部屋の中から二人の会話が聞こえた。


 一人はご主人さまの声だが、もうひとりはわからない。


 興味本位で聞き耳を立ててしまった。


 すると、中で話していたのは、わたしたちが生まれながらの戦闘民族であったこと。


 そして、その子供の力を我が物にするために、親を殺し、わたしたちをさらったこと。




 あの日、部屋で寝ているとアズが僕を叩き起こした。


 どこか泣きそうな顔をしている。


 そして俺は真実を知った。


 話に出てきた戦闘民族は、子供が生まれた後、何かしらの儀式を行い、その子供の力をより強力なものにするのだという。


 それを聞いて、俺はどこか虚しさを感じた。


 今まで、ご主人さまに教えてもらって、上達していたのは、もしかしたらこの血筋のせいなのかもしれない。


 しかも、それは先天的なものではなく、人工的に作られたもの。


 『与えられた才能』だったのだ。




 わたしは、顔も知らない実の親を殺し、わたしたちをさらったご主人さま、いやあの男に抑えきれない怒りを抱いていた。


 ヴァルは、今までの自分たちの能力が仮初めだったことに悲しんでいる。


 ……でも、わたしはそんなのどうでもいい。


 強ければいい。


 死なない。


 殺されない。


 相手より上に立てる。


 このことは、あの男にこれまでいやというほど教わった。


 わたしはあの男に復讐することを決めた。




 アズがご主人さまに復讐すると言い出した。


 親のことは覚えてないのに、そんなことをするのに意味があるのか?


 ……そんなことより、この才能は偽物なんだ。


 そう考えると、頭の中が真っ白になった。


 いままで、少しうまく魔法が使えただけで、嬉しくなっていた。


 ご主人さまに褒められただけで、その日は厳しい練習を無限に耐えられた。


 でも、それは俺じゃない。


 俺の才能を褒めていたんだ。


 となりで、ずっとアズが作戦を立てている。


 でも、何も聞こえない。


 俺はなんのために生まれてきたんだ?


 

 俺は絶望した




 ヴァルに作戦を伝える。


 今すぐにでも、わたしはあいつを殺したい。


 なのに、ヴァルには聞こえてない。


 そんなに自分の才能にプライドを持ってたの?


 そんな事を考えていると、部屋にあの男が入ってきた。


 復讐について話していたことや、二人の会話を聞いていたことさえバレていた。


 

 私は絶望した。


 




 

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