#24 絶望の記録


「「さぁ、絶望しろ。

 掛け合わされば「C」にすら届くんだよ。」」



 絶望?


 いや違うな……なんだこの不快感は。


 まだこいつらに負けると決まったわけでもない。


 なのに、俺は目の前のこいつらに何か憤るものを感じた。



 たしか、誰かに同じようなことを言われたことがある。





 あぁ、そうだ。

 あいつだ。

 いや、あいつらだ。


 俺の両親か。





 前世での記憶の中でも、親の記憶は先程まで一切なかった。

 しかし、この目の前のこいつらの発言により、思い出した。








 俺は、親にさえ望まれていない存在だったんだ。









 もともと、俺は生まれる予定じゃなかった。



 ただ、両親の一夜の過ちにより、デキてしまっただけ。



 そこまで裕福じゃなかったのもあり、子供なんて望んでなどいなかっただろう。

 おそらく、あの人たちからすれば、「ただメシ食い」とでも思われていたのだろう。


 最低限の食事など、衣食住だけを俺に与え、その他のことは放置された。


 親と話すようなことはなかった。

 話しかけても、無視される。


 幼い頃、泣きわめいても放置されていた。


 彼らは、死なない程度にしか、世話をしなかった。


 言葉を覚えたのも、親が話しているのを聞いたからじゃない。

 両親が共働きで、家にいない隙にこっそりつけたテレビで学んだ。


 そのくらい、親と関わることはなかった。




 そして、その後もその生活は続いた。




 中学校に入った頃、親からの態度が急変した。


 今まで放置していたにも関わらず、母が急に話しかけてきた。

 生まれて初めて親から話しかけられたのだ。


 俺は嬉しくなったが、それは一瞬で地獄に変わる。



「お前、成績も悪いし、運動ができるわけでもない。

 なんのために生まれてきたんだ。」



 今思えば、なんて理不尽な言葉だったのだろう。

 自分が望んで生まれたわけでもないし、運動能力だって人それぞれだ。


 それを、一夜の過ちで生んだ側の人間が、言っていいことじゃない。


 しかし、その時のオレの心をえぐるのには十分だった。



 加えて、その日の夜に、父からも同じようなことを言われた。


 結局その夜は、泣きながら布団に入り、まともに寝ることすらできなかった。




 その後、食事なども粗末なものとなり、俺の扱いは悪化した。




 事あるごとに、侮辱され、嫌がらせを受ける。




 児童相談所?

 そんなところに助けを求める勇気さえない。

 だって、せめて自分のことを肯定していてほしかった親にさえ、自分の存在を否定されているのだから。











 そして、中学校の卒業式の後の話。


 もちろん卒業式には、当たり前のように親は来なかった。

 まぁ、来られたら来られたで、気分が落ち込むしな。


 そこまで仲がいい友達がいるわけでも、中学校生活に未練や思い出があるわけでもないので、何も感じなかった。


 かわりと言っては何だが、考えるのは、家に帰ってからのこと。

 おそらく、今日は休日のため、両親が家にいる。

 俺の身に危害が及ぶのは明確だ。


 一人落ち込んだ空気で、クラス写真の撮影を抜け出し、帰路につく。






 家に変えると、玄関に大きなキャリーバックが置いてあった。

 それも5つ。


 海外旅行にでも行くのかというほどの大荷物だ。



 すると、ドアの音に気づいて、両親がこちらに向かってきた。


 そして、どこか清々したような顔で父はこう言った。



「今日からお前は自由だ。

 アパートは契約してあるし、生活用の資金はある程度入ってる。

 もう俺たちとは赤の他人だ。」



 まぁ、ホームレスにならなかっただけましだったかもしれないが、あの荷物はこの家を追い出される俺のためのものだった。


 キャリーバックを開くと、丁寧なことに印鑑まで入っている。

 今後、親の許可などがいるときにも、これがあればなんとかなるとでも思っているのだろう。


 彼らは、本当にもう俺に何も与えないらしい。


 それを聞いて戸惑っている俺に二人はこう言った。



「「絶望しろ。

 お前は望まれた存在じゃないんだよ。」」



 それが最後の言葉だった。







 そして、その日俺は肉親を失った。

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