#20 ハンデ
ブラッドスライムが俺の背中に飛びついてきた。
奏向は、分裂の瞬間を観察することに集中していたため避けられるはずもない。
そのまま背中を直撃する。
「っ!クソっ!」
痛みを堪えながら、剣を振り回す。
体当りしてきたブラッドスライムに剣先が触れ霧散した。
なんだこれ、めっちゃいてぇ!
あんな柔らかそうな体をしたやつの威力じゃねぇ!
まるで、鉄球がぶつかったみたいだ!
[ HPの減少を確認
残りHPは1です ]
おっと、正直打開策を期待してたんだが、まさかの絶望報告だ。
ワンパン宣告入りましたー。
もとのHPが3だったから2ダメってことか?
それにしては痛すぎないか!?
[ 答 攻撃された際の痛みは 最大HP からの減少割合に比例します
先程のマスターの場合は 最大HPの3分の2のダメージを食らったため それ相応の痛みを感じました
また 受けたダメージは蓄積しポーションや回復魔法によって回復することも可能です ]
なるほど、一気に3分の2削られたからってことか。
HPの最大値結構重要だな。
しかし、ダメージについては理解できたが、この現状を打開する方法がみつからない。
先程確認した分裂行為によって、ブラッドスライムが増えることがわかった。
おそらく、見てない間に分裂していたのだろう。
ざっと250体ほどになっている。
スニアと俺とで50体ほど倒したが、それでもまだ6分の1だ。
また、木の上のスニアを見ると少し疲れているように感じる。
ずっと魔法を打って、ブラッドスライムを倒し続けてるんだから、そりゃそうだ。
魔力切れみたいなものが、いつ起こってもおかしくない。
なら、現状戦えるのは俺一人。
しかも、そんな俺もワンパン圏内。
でも、この状況を打開しないと、この先には進めない。
逃げても良いのではないかと思ったが、このスライムたちは追いかけてくる。
そのため、もしこの先、ブラッドスライムより強い魔物にあったとき、戦闘中にブラッドスライムが追いついてきたら?
この先にいるであろう強敵を確実に倒すには、こいつらを倒さないと無理だ。
まぁ、まずこいつらに手こずってる部分で危ういんだけどな。
………ならやることは一つしかない。
「スニア!もう休んでていいぞ!
あとは俺がやる。」
「え?でもまだこんなにたくさん……」
「いいんだ任せてくれ。
これでも俺は〘勇者〙なんだ。」
「………わかったわ、気をつけて。」
「おう!」
この現状を打開する方法は唯一つ。
分裂する前に、このスライムたちを倒し切る。
そのためには、あんな一体一体倒してちゃキリがない。
さっき、剣先に触れただけで倒せることがわかった。
なら……無駄に強く攻撃する必要はない。
あくまで、スライムを倒せるだけの力で。
「HP1?いいハンデだ!」
俺は走り出した。
右手に剣、左手にナイフを持って。
「イフォ、
[ 了 ]
これで、もしものときも少しは生存率が上がるだろう。
全身の感覚が研ぎ澄まされたことを確認し、俺はスライムの群れに突っ込む。
姿勢を低くし、スライムの群れの中を横切る。
剣、またはナイフに触れたスライムはどんどん霧散していく。
俺は、走るだけでいい。
ただ触れるだけで倒せるんなら、武器をスライムの高さに持ち、スライムに当たるように走れば簡単に倒せる。
一歩踏み出すだけで、4体ほどのスライムを倒せる。
これなら、分裂もそんなに数が増えることはないだろう。
間に合う。
そう確信した。
さらに、先程までは撫でるようにスライムを倒していたが、剣やナイフで切り刻むことにした。
余計な力は入れず、あくまで攻撃範囲や効率を上げるためだけに。
狙い通り、スライムたちはみるみる減っていく。
すると、視界の斜め後ろから、なにかの気配を感じた。
決して目視した訳では無いが、なにか本能的なもので感じる。
走っている俺に近づくもの、それはスライムしかありえない。
飛びつきは結構なスピードなため、走る速さに追いつくのも可能だ。
では、なぜ気配を感じられるのか。
「『回避行動』発動しといてよかったよ!」
俺は、体をひねりスライムの攻撃を避けた。
そして、避けた慣性でスライムを切り刻んだ。
「『剣技』」
【スキル】を使ったおかげか、剣の速さが格段に上がった。
ここまでやる必要はなかったのだが、ざっと10回は切り刻んでしまった。
でも、結果オーライだ。
あのとき『回避行動』を使ってなかったら、俺は死んでただろう。
あのとき判断した自分を褒めながら、未だに余力を残している俺は再度走り出す。
ブラッドスライム残り100体
その後も走り続け、あと3体ほどとなっていた。
流石に疲労がやばい。
今すぐにでも止まりたい。
でも、こいつらを今倒さないと、また振り出しに戻る可能性だってある。
分裂の可能性はまだ未知数だ。
「お前たちは強かったよ。」
そういって、残りの3体に剣を振るう。
あっけなくスライムは霧散する。
「終わったのか……?」
俺は疲労から、その場に座り込んでしまう。
この世界に転生ばかりの時みたいに、【ステータス】が低いため、体力も低いのだろう。
この世界の理も、だいぶわかってきた。
とにかく、これでブラッドスライムは討伐完了だな。
そのときだった。
視界の端に、上下に震えるブラッドスライムの姿が。
「くそっ、見逃してたか!」
本当は今すぐにでも倒しにいきたいが、足が震えて近づくことすらできない。
また振り出しに戻るのか?
スニアは……ダメだ。
安全のために少し離れた茂みに隠れるように言ってある。
ここまで駆けつけるのは無理だ。
ついたときには、もう増えていることだろう。
このままじゃやばい!
先程までの努力を思い出し、すこし悲しくなってきた。
あの命をかけた戦いが無駄になるのか?
あぁ、くそっ!
ちゃんと見とけばよかった。
もう動けないから、攻撃されたら俺は死ぬ。
せっかくの転生ライフなのに……
あぁ、なんかイライラしてきた。
こんな虚しく死ぬなんてふざけんな!
「もう、大人しく死んどけよ!」
届くはずもない虚空に剣を振るった。
ブラッドスライムは4メートルほど離れているため、倒せるはずもない。
しかし、ブラッドスライムは霧散した。
また、その後ろにある木が続々と倒れていく。
なにかに切断されたように。
「え?」
あのとき虚空に放った一撃は、ブラッドスライムに届くものではなかった。
しかし、あのときたしかに奏向は見た。
剣が光をまとい、次の瞬間に斬撃が飛んでいくさまを。
斬撃は、ブラッドスライムを切断した後も、とどまることを知らず、進行方向の木を10メートルほどなぎ倒した。
何が起きたか理解できてないが、確かなことが1つある。
首を振って確認するが、あたりにもうブラッドスライムは見当たらない。
完全な勝利だ。
こうして、また奏向は〘勇者〙へと近づいたのであった。
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