#19 不利

 奏向たちは、ブラッドスライムの群れがいた地点を目指し、森を進んでいた。


 しかし、その途中で森の奥から男性の奇声が聞こえた。

 冒険者だったら、早く駆けつけないといけない。


 しかし、ブラッドスライムに勝てなければ、この先の《最深地》《メガディープ》にいるであろう魔物ディスターバーには勝つことができないだろう。


 そうして、奏向は冒険者たちの無事を祈りながら走るのだった。












 少しして、ブラッドスライムの群れがいる地点に帰ってきた。


 逃げているのではないかとも思ったが、一切移動してなかった。



「さてと、こいつらどうしようかな。」



 正直、このまま正面から戦っても、この数相手じゃ負けてしまう危険性がある。

 仮にも俺、HP3だからな!


 だからといって、さっき倒した時みたいに一体一体誘導して倒すわけにも行かない。

 そんなことをしていたら、日が暮れてしまう。



「…………スニア、お前どれくらい戦える?」



 純粋な疑問だった。

 今まで何気なく同行してくれていたものも、彼女が戦っているところは一切目にしたことがない。

 彼女の実力によっては、こいつらの討伐も少しは楽になるかもしれない。



「わたし!?

 えーと、剣とかで戦うのは無理だけど、『魔法攻撃』ぐらいならできるわよ。」


「おぉ!どんな魔法なら使える?」



『万能者・極』が使えた頃の俺は、イメージするだけでどんな魔法でも使えたが、使える魔法の制限解除は【スキル】のお陰であり、他の人はそうもいかないだろう。


 遠距離からチクチクできる魔法とかがあればいいんだが。



「えーと、炎と水、そして雷の属性は使えるわ。

 とはいっても、初歩的な遠距離魔法なんだけどね。」



 っしゃぁ!

 その言葉が聞きたかった!


 それなら、スニアが後ろからサポートするというのも実現可能だ。



「ちなみに、コントロールに自信は?」



 流れ弾が俺に当たったりしたら怖いからな。



「わたし、威力はイマイチだけど、コントロールには自身があるわよ。」



 よし、それなら安心して背中を任せられる。



「スニア、俺がブラッドスライムの群れに突撃するから、お前は離れたところから魔法を打ってサポートしてくれ。」


「っ!…………わかったわ。

 それで私が役に立てるのなら!」


「よし、じゃあ決まり!

 ブラッドスライム討伐開始だ!」












 作戦通り、スニアには近くの木に登ってもらった。


 ブラッドスライム、というかスライムは木に登れないし攻撃する手段もないらしい。

 あの飛びつき攻撃もあの高さなら安心だな。



 奏向はというと、ブラッドスライムの群れの斜め後ろにスタンバっていた。



 少しでもミスしたら死ぬかもしれない。

 そんなことが頭をよぎる。


 ………でも、俺は決意したんだ。

〘魔王〙を倒すんだろ!



 俺は、スニアに目配せをし、スライムの群れに向かって走り出した。


 その途端、一番近くにいたブラッドスライム三体ほどがこちらに気づいた。

 危険を感じ、あの飛びつき攻撃をしようとしているのだろう。

 体がプルプルと震えている。


 そんなブラッドスライムたちをものともせず、俺は持っていた武器で斬りつける。


 予想通りワンパンで、三体のブラッドスライムは霧散した。



「よしっ!いける。」



 今回の武器は、前回も使用した剣に加え、ナイフも持っている。


 単純に、数が多いため手数を増やせるほうがいいと思ったからだ。

 また、今回の俺の戦闘スタイルは、走り抜けながら討伐するというものなので、リーチの長さなど関係ない。

 近くにいるやつから倒すだけだ。


 その後も同じように、三体、四体とブラッドスライムを倒していく。


 少し離れたところを見ると、スニアが雷魔法でブラッドスライムを倒している。

 今の一撃で、二体も倒していた。


 あっちも大丈夫そうだ。


 それにしても数が多いな。

 さっきよりも確実に増えている。

 ………ざっと200体ぐらいいるんじゃないか!?


 疑問に思いながらも、あたりを見回すと少し離れたところにいるブラッドスライムの挙動がおかしいことに気づいた。

 攻撃の前兆でもない、あれは震えというよりかは揺れだ。


 攻撃する前は横に震えるのだが、今は体を伸び縮みさせるように揺れている。

 まるで、リズムを取っているようだ。




 すると、ブラッドスライムがちぎれた。




 いや、分裂したという方が正しいだろう。



「こいつら、分裂しやがるのか!」



 それならこの数にも納得できる。

 いや、それどころではない。


 あのスライムは2つに分裂したが、それは単純に考えればここにいる群れが2倍になる可能性もあるということ。



「早くケリを付けないと!」



 ここで焦ったのが良くなかった。

 いや、悠長に観察をしていたのがマズかった。


 俺は、後ろで密かに攻撃準備をしていたブラッドスライムに気づかなかった。




 そして、ブラッドスライムは背後から勢いよく飛びつく。














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