#17 遭遇

 スニアからの忠告を受けたあと、俺たちは森の奥にいるであろう冒険者達を救うため、森の『最深部』メガディープへと向かっていた。


『最深地』については、さっきスニアから聞いたのだが、簡単に言うとそのエリアで最も強い魔物ディスターバーがいるところらしい。

 冒険者たちが襲われているのはおそらくそこだという、スニアを信じ『最深地』を目指す。






 すぐに異変は起きた。


 少し前にスライムを倒したあたりで、スライムが大量発生している。

 少なく見ても、50体はいるだろう。

 しかも、今までのスライムは水色だったのだが、赤くなっている。


 明らかにおかしい、10分ほど前は普通だったはず。



 すると、こちらに気付いたらしい一体が、突如震えだした。

 何事かと様子をうかがっていると、こちらに向かって飛びついてきた。


 それを俺は、ギリギリのところでかわす。

 警戒してたから避けれたものも、不意打ちだったら確実に喰らってたな。



「っ!奏向大丈夫?」



 少し遅れてやってきたスニアがこちらを心配している。

 何かあったときのために、俺が前を歩いていてよかった。


 申し訳ないが、スニアは強いっていう感じはしないからな。

 スライムでも十分脅威なんじゃないか?


 ………いや、俺も今はこれが脅威になりうるのか。



「あぁ、俺は大丈夫。

 スライムって青いのしか知らないんだけど、こいつら赤くない?」


「こいつらは、ブラッドスライム。

 集団で生活し、多いときは100体もの群れができるわ。

 そして、こいつの脅威は「数の暴力」。

 1つ1つの攻撃力はそこまで無いのだけど、圧倒的な数的有利により、翻弄される人が多いの。

 1回1ダメージ入るとしたら、100体に攻撃されたらそれだけで100ダメージになるわ。

 そんなこともあり、ブラッドスライムは単体で見たら「E」なんだけど、集団になると「C」ランクになるわ。」



 完全にスライムの上位互換って感じか。

 一体一体ならまだしも、この数だからな。

「C」ランクってのも納得だ。


 しかも、あのスライムと違ってこいつは、こちらに気付いて攻撃までしてきやがった。

 この森で最初に倒した三体は、やられる瞬間すらも俺の存在に気づいてなかったぞ?


 …影薄いのかな。

 ……じゃなくて!こいつは油断できない。

 今の俺の【ステータス】ならなおさらな。


 たしかHP3しかなかったはず。

 ほぼ3回食らったら終わりと思ったほうがいいな。


 ………一体ずつ確実に倒そう。



 俺は、先程飛びついてきたブラッドスライムを、群れから離れたところに誘導した。

 よっぽど俺を倒したいらしく、追いかけてきたので簡単だった。


 俺は剣を手にし、ブラッドスライムに向かって構える。


 すると、またブラッドスライムが震えだした。



「もうその攻撃は一回見てんだよ!」



 予想通り飛びついてきたブラッドスライムを軽々とかわし、攻撃後の隙に一撃をお見舞いした。


 スライムとは違い、一撃で倒せないと思っていた俺は、霧散したブラッドスライムをみて少し動揺する。

 この【ステータス】でも、一撃なんだな。



[ 『回避行動』イベイジョン『剣技』を獲得しました ]




 おぉ!【スキル】を獲得した!

 イフォの言ってた通り、呪いがかけられてても【スキル】は手に入れられるんだな。


 あと、こんな簡単に手に入れられて良いのか?

 たぶん、『回避行動』イベイジョンはブラッドスライムの攻撃を避けたからだろうし、『剣技』に関しては普通に斬ったからだろう。


 なら、最初の普通のスライム3体も剣で倒したんだけどな。

 その時は獲得できなかった。

 やっぱ、一定の技術がないとだめなんだろう。

 うん、そういうことにしとこう。



「イフォ、性能を教えてくれ。」



[ 答 『回避行動』イベイジョン 敵の攻撃を見切りやすくなる

    また 回避する際の行動が少し早くなる

    『剣技』 剣を使った攻撃が強化される

    また 扱いの上達や 技の使用が可能になる ]



 聞いた感じ結構強そうだな。


『回避行動』イベイジョンに関しては現在の俺の【ステータス】にすごくマッチしている。

 何を食らっても致命傷になるので、攻撃を避けやすくなるというのは画期的だろう。


 それに、『剣技』は技が使えるというのが気になる。

 斬撃を飛ばせたりするんだろうか。



「すごいわね奏向。

 難なくブラッドスライムを倒すなんて。」


「いや、一体だけだったし。」



 一体だけなら「E」というのも妥当な評価だと感じたしな。


 達成感を感じながら、声のしたスニアの方を向くと、驚きの光景が広がっていた。




 ………木の上にスニアがいる。

 しかも、体育座り?



「あの、スニア。

 そこで何してんの?」


「いや、あの………ちょっとブラッドスライムが怖くて。」



 なんだ、ただ怖かっただけか。

 ちょっと襲われたのかと思ったじゃないか。



「いいから降りておいで。」


「わかったわ。

 ………でも、どう降りたら良いの?」


「降り方わかんねぇのに登ったのかよ!?」


「あのときはとっさに………というか、人生で初めて木に登れたわ!」



 いや、それどうでもいいから。

 スニアは、よほど嬉しいのか目を輝かせている。


 あれ、自分がどういう状況に置かれてるかわかってないのあの子!?


 ちなみに、結構な高さのある木だ。

 7メートルくらいだろう。



「………わかったよ、受け止めてやるから飛び降りろ。」



【ステータス】は低くても、筋力が落ちたわけじゃないからな。

 スニアぐらいなら受け止められるだろう。



「え?飛び降りるの!?

 ここから!?7メートルくらいあるのよ!」


「大丈夫だって、なら他にどうやって降りるんだよ。

 早く先に進まないといけないんだけど。」



 まだ、ブラッドスライムはたくさん残っている。

 あとの人たちのためにも、俺が倒すべきだ。


 それに、『最深地』で冒険者たちが襲われているならば、こんなことをしている余裕はない。


 そして、これはいい経験になると俺は確信していた。



「………絶対受け止めてよ?」


「わかったよ。」



 覚悟を決めたのか、スニアが木から飛び降りる。

 目をつぶっているが、よほど怖いのか泣いているようにも見える。


 そんな彼女を俺は難なく受け止める。


 スニアが軽いのもあって、そこまで苦労はしなかった。



「だから言っただろ?」



 俺がそう言うと、彼女は泣きそうな顔でこちらを見つめてきた。

 その表情に少し俺はドキッとする。



「怖かった〜〜っ!

 ありがとう、奏向〜〜っ!」



 本当に怖かったのだろう、声を上げて泣き出したので少し驚いてしまった。


 少し悪いことをしたなと思い頭を撫でると、彼女は嬉しそうにして泣き止んだ。



「……怪我がなくてよかったよ。

 先に進むぞ。」


「……うん。」



 少し照れくさいが、俺にはまだやらないといけないことがある。

 【スキル】も手に入れたし、攻撃パターンはあの飛びついてくる攻撃だけならもう分かる。


 ………早く、あの大群のブラッドスライムを倒さないと。













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