#16 合流

 森の出口に奏向が到着すると、スニアがこちらに走ってくるのが見えた。

 そんなに急がなくていいのに。


 でも、俺は気づいた。

 ただ急いでいるだけだったら、なぜあんな悲しそうな顔をしているんだろう。


 その理由はすぐにわかった。



「奏向!大変なのっ!」


「どうしたの?

 そんなに慌てて。」


「あなた、怪我はしてない?」



 スライム3体は、オール1のクソ雑魚【ステータス】でも狩れたし、ノーダメージ。

 そもそも何か食らったらHP1だったから死ぬけどな。



「うん何も。

 至って元気だけど。

 それよりなにかあったのか?」



 俺の安否を知り、一瞬ホッとしたような顔を見せたが、スニアの顔は再び険しいものになった。



「………まず、この森で経験値稼ぎをすることを提案したことを謝るわ。

 危険な目に合わせてごめんなさい。」



 スニアは、申し訳無さそうに謝る。



「……?むしろ俺は感謝してるんだけど。

 言ってた通り、スライム3体も狩ってレベルが1上がったんだ。

 ……まぁそれでも、クソ雑魚なままなのは変わってないんだけど。」


「スライム三体!?

 それだけでレベルアップしたの!?

 ……まぁ、それはいいわ。

 本当に、スライム3体しか遭遇してないの?」


「え、うん。」



 いくら、『絶対能力制限』アビリティ リミットのせいで、『魔力探知』が使えないとはいえ、魔物ディスターバーの気配は独特なものを感じるので、見逃したということはないだろう。

「何を食らっても死ぬ」ということもあって、すごく警戒しながら進んだからなおさらありえないだろう。


 ……気配を消す「THE 不意打ち」のような魔物がいない限りは、……いるのかな?

 もしかして、それを伝えに来たのか?



「なら、間に合ったのね。

 あのね、落ち着いて聞いて。」



 俺は、真剣な顔つきで頷く。



「この森は、初心者の人たちにはうってつけの狩り場なの。

 スライムくらいの魔物しか「スポーン」しないし、数も脅威になるほどではないの。

 でも今日の朝、この森に狩りに来た人たちが、まだ帰ってきてないの。」


「!?この森で何かあったってことか?」


「その可能性は極めて高いわ。

 それに加えて、原因の調査をしに行った《冒険者協会》の人たちですら帰ってきてないの。

 調査隊は、最低でも「Ⅴ」ファイフ以上の実力者なの。

 その人たちが数人がかりでも倒せない魔物がいるかもしれない!」


「……ちょっとまって、「Ⅴ」ファイフってなんだよ。

 あと、そんな魔物がこんなところに本当にいるのか?」


「あぁ、まだ階級のことをあなたには話していなかったわね。

 ……《冒険者協会》に登録すると、「階級」がそれぞれの実力に合わせて決められるの。

 下から、「N」ヌル「Ⅰ」エーン「Ⅱ」トゥウェー「Ⅲ」ドゥリー「Ⅳ」フィーア「Ⅴ」ファイフ「Ⅵ」ゼス「Ⅶ」ゼーヴェン「Ⅷ」アハト「Ⅸ」ネーヘン「Ⅹ」ティーンに振り分けられるの。

 だから、「Ⅴ」ファイフは、冒険者の中で半分から上の実力者ってこと。」



 ……そんなものがあったのか。

 なら、その「Ⅴ」が数人がかりでも倒せないって、どれだけの魔物なんだ!?


 でも、あんなに簡単に倒せた”アシッドスパイダー”で「B」級だったっけ?

 なら、「A」……いや、「S」の可能性もあるな。


 そんな魔物が本当にいるのならば、こんな【ステータス】では勝てないだろう。

 それこそ、今度は俺がワンパンされるんじゃないか?



 ………でも、俺は〘魔王〙を倒すんだ。

 こんな「S」級の魔物なんかに怖気づいてたら、〘魔王〙なんて倒せない。


 それに、この世界の人達にこれ以上、悲しい思いをさせないために俺は〘勇者〙になると決意した。


 帰ってこなくなったという冒険者の人たちも、《冒険者協会》の人たちも、俺が助けないと。


 こんなところで死んだら……とも考えたら少し怖いが、そうなったら俺は呪いのせいで負ける「その程度」の人間だったってことだ。




 上等!やってやろうぜ。


 これが、俺が使命を全うできるかを確かめる「試練」なんだ。





「俺は、このまま森を進むよ。」


「!?あなた、今の話聞いてたの?」


「うん。

 でも、俺がもし本当の〘勇者〙なら、そんなことで怖気づいてる場合じゃない。

 もっと強くならないといけないんだ。

 だから、これは俺の「試練」だ。」


「……もう、何を言っても無理そうね。

 分かったわ。

 でも、一つ約束して。

 命の危険を感じたらすぐにこの森を出ること、いいわね?」


「……あぁ、わかった。」


「じゃあ、早くいきましょう。

 今も魔物に襲われてる人がいるかもしれないわ。」


「あぁ、先を急ごう。」







 経験値稼ぎ、もとい魔物退治となってしまった。


 でも、俺は今無性にワクワクしている。



「この「試練」を乗り越えたとき、俺は本当の〘勇者〙になる。」



 そんなつぶやきは、誰に聞こえることはなくとも、彼の闘争心を駆り立てるのには十分だった。











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