#15 危機

 スニアは、もしものときのためにポーションを取りにミンクに戻っていた。


『絶対能力制限』アビリティ リミットという、大きな足かせがある状態では、いくらあの奏向と言っても、無傷で帰ってこられるとは限らない。

 そんなときのために、私にできることはこれしかない。



 私は、一応冒険者ではあるものの、階級も「Ⅱ」トゥウェーと高いわけじゃない。



 そもそも、この世界では《冒険者協会》が定めた、それぞれの実力を示す「階級制度」というものがある。


 階級は、下から、

「N」ヌル「Ⅰ」エーン「Ⅱ」トゥウェー「Ⅲ」ドゥリー「Ⅳ」フィーア「Ⅴ」ファイフ「Ⅵ」ゼス「Ⅶ」ゼーヴェン「Ⅷ」アハト「Ⅸ」ネーヘン「Ⅹ」ティーンに振り分けられる。


 ……かつて、その階級にも収まらない実力者が出た際に、が作られたと聞いたことがあるが、こんな私みたいな弱いやつには縁のない話だろう。


 では、そんな私が、なぜ「Ⅱ」トゥウェーの階級にいるのか。


 それは、たまたま、他の冒険者から逃げ出してきたのか、負傷していた”ネビルバット”というD級の魔物を簡単に討伐できたため、「N」ヌルから「Ⅱ」トゥウェーに昇格しただけであり、この階級に見合う実力はないと言える。


 魔物との戦闘経験は3〜4回ほどしか無い。


 ……そんな私が奏向のためにできることは、彼の足手まといにならず、戦闘面以外でのサポートをすることだと考えた。


「〘魔王〙を倒す、唯一の希望を失う訳にはいかないわ。」


 彼女なりの決心が固まったのだった。










 ミンクに着き、急いで自宅にポーションや他にも食料などを取りに行く。

 荷物をまとめて、すぐに奏向のいる森に戻ろうと玄関を出る。


 すると、ミンクの中心部の方から人々のどよめきが聞こえた。


 何かあったのか気になり、周りの人間に尋ねる。



「あの、すいません。

 中心部の方で、何かあったのですか?」


 優しそうな雰囲気をまとう男性は答える。



「知らないの?

 今朝、近くの森に狩りをしに行った初心者の人達が帰ってこないんだって。

 《冒険者協会》が、調査隊も送ったんだけどおそらくその人達も全滅。

 そんなことを急に言い出すもんだから、いま中心部は荒れてるよ。」


「帰って来ない?」


「魔物に襲われたんだと思う。

 もしかしたら、高ランクの魔物が出たのかな?」



 もしそれが本当なら、今、奏向のいる森は危険だということだ。


 そんな場所に、呪われている奏向を置いてきてしまった。



「嬢ちゃんも、魔物狩りに行くみたいな格好してるね。

 近場の森はやめときな。」


「………っ!」



 気づいたら私は一目散に森に向かって走っていた。


 化け物のいる森に自ら向かうことが、どれほど愚かなことなのか頭では理解していた。

 しかし、体はすぐに動き出していた。

 

 なぜなら、そこには世界の〘希望〙そのものがいるんだから。



「どうか無事でいて。」
















 一方、その頃。

 ミンクから南に位置する帝国〈グレムス帝国〉。



「では、早急に「C」ファイニストへの策を講じましょう。

 このままでは…………。」



 帝国の上層部は、「Ⅸ」ネーヘンを倒したとする男について話していた。



「この男に加え、魔物の動きが活発化しているとの報告もはいっている。

 こちらについても、対処しなければならない。」


「そっちは後回しだ。

 今は、「Ⅸ」の働きにより、「C」が弱体化しておる。

 今のうちに叩かんと、手遅れになるぞ。」


 すると、銀髪の男が立ち上がり、何か企むような笑みを見せこう言った。


「………では、私の部下を二人向かわせよう。

 どちらも、「Ⅹ」ティーンに値するほどの実力者だ。

 もう少しで、「Ⅸ」から昇格するであろう有望な部下たちだ。」


「うむ、「Ⅹ」を二人相手にするのは、呪いがある状態では苦しいだろう。

 いくらあの「C」といえどな。」



 こうして、奏向に新たな刺客がおくられた。










しかし、奏向はこれらのことを知るよしもなく、着々とスライムを討伐するのであった。

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