#12 呪い

 奏向が、〘魔王〙を倒すことを決意したとき、世界はまた動き出していた。

 ミンクから南に位置する帝国〈グレムス帝国〉。

 あの、奏向とスニアを襲った男は、ここの人間だった。



 帝国の上層部は、あの男が、「ネーヘン」という階級であったが故に、捜索隊の知らせを聞き、「Ⅸ」を倒した男について討論していた。


「やはりあんなリスクを犯してまで、「Ⅸ」を暗殺者に指名する必要はあったのか?」


「また、優秀な人材が1人減った。

 少し前までの《ミンク》、いや違うな。

 との戦争で、すでに何人もの戦士や、宮廷魔法使いを失っておったのに。

 この代償はでかいですぞ、帝王よ。」



〘帝王〙と呼ばれた五十代後半かと思われる男は、幹部の言葉に答えず黙っているままだった。



「そもそも、「Ⅸ」ともあろうものが、要塞都市の門すらくぐれなかったとは。

 階級ランクの基準がちと低いのではないか?」


「何を言う、「Ⅷ」以上の階級の人間の、能力を見たことがないのか!

 あ奴らの、能力はまるで《魔物ディスターバー》じゃ。

 それも、姑息で人間の知能も兼ね備えておる。

 敵からしたら十分脅威じゃ。」


「しかし、それは我々にとってもだろう?」


「あぁ、いち早く対策をせねば。」


「まぁ、今回負けて帰ってきた者も『』と言っておるしのう。」


 すると、先程〘帝王〙と呼ばれた男が重い腰を上げ、どこか落ち着かないような、か細い声で言い放った。



『今回、「Ⅸ」を倒したとする人間を、「C」ファイニストとし、要注意人物として対策を講じる。』





 世界はまた動き出していた。

 彼の障害は、増え続ける。

 敵は、〘魔王〙だけじゃないのだと。












 一方その頃、奏向たち。


「の、呪いかかってんの?俺。」


 せっかく〘魔王〙を倒すって決めたのに、なんかタイミング悪いな……。


 え?でもいつ呪われたんだ。

 あの空間か?


 あそこで起きたことは魂に記録されるため、現世の体にも影響が出るらしい。


 イフォ、あの空間で俺って呪われたのか?いつ?



[ 答 『險俶?縺ョ譬ケ貅』で呪われた記録はありません

  

  また 実際に殴られていないにも関わらず 殴られたような痛みが残っている点の解析が完了しました

  原因としては 感情や元々の現世の記憶に強く残っていたから

  または 現世に戻ってくる際の「ラグ」の2つが考えられます ]



 この全身の痛みは、おそらく前者が原因だろう。

 決意した今でも、やはり脳裏に焼き付いていないといえば、嘘になるからな。



 まぁ、それはさておき。

 あっこで呪われてないとしたら本当にどこだ?

 寝てる間か?


 ………スニア知ってるかな?

 ダメ元で聞いてみるか。


「スニア、この呪いっていつかけられた分かるか?

 あと、どんな呪いかも知ってたら教えてほしい。」


「えーと、スニアが倒したグレムス帝国の男がいたじゃない?

 あの男を倒したあとに、奏向が気絶したのは呪いをかけられたせいなの。」


「あいつか。

 でも、いつ呪われたんだ?

 そんな素振りあったか?」


 なんか相手も無詠唱で魔法を使うことに驚いてたし、詠唱するのが普通なら、儀式みたいなのしなくていいの?

 それこそ、魔法陣みたいなやつ。


「覚えてない?

 あいつが最初にかけてきたこと。」



 ……最初?

 なんか言ってた気はするな。

 たしか……………………………………


「『神のために、貴様らの生命いのちを差し出せ。』だったっけ?」


「それが、呪いよ。」



 ……は?

 俺出会い頭に、呪いかけられてたの?

 気付くかそんなもん!!



「相手が失敗したのか、私は呪われてないんだけどね。

 元々、呪いは神聖な〘神〙の魔法だったのよ。

 だから、『神のために』って言ってたの。

 でも本来、呪いをかけるのには、長時間の詠唱が必要。

 遭遇してすぐのことだったから、あいつはあらかじめ詠唱してたってことね。」



 そんなに、ヘイト高かったんだ。

 仲間とかだったらどうしてたんだ!

 まぁ、もしそうだとしたら分かるか。


「まぁ、でも解呪方法もあるから、次はそれが目的ね。」


 うーん、もう悔やんでも仕方ない。

 スニアの言う通り、解呪方法を探さなきゃな。



「で、結局どんな呪いなんだ?」


「………えーと、これまたすごい呪いをかけられてるの。」



 なにか制限されたり、状態異常になったりするのか?

 不便そうだけど、覚悟するしかないか。



「どうにかして解呪するから教えてくれ。」


 俺が真剣な顔つきで尋ねると、気圧されたのかどこか申し訳無さそうに口を開いた。


「奏向、あなたがかけられたのは、『絶対能力制限』アビリティ リミット

 【ステータス】の低下や、【スキル】が使用不可になるといった、相手を弱体化させる呪いの中では一番の呪い。

 あなたは、それをもろに食らったのよ。

 だから、【ステータス】はおそらく激低。

 【スキル】に関しては、何も使えなくなってるはずよ。



 ………残念だったわね。頑張って一緒に解呪方法を探しましょう。」





 想像以上だった。

 遥か上を来たな。





 ここに来て、転生してからの唯一の頼みの綱がなくなった。



 俺、ほんとに〘魔王〙倒せんのか?

 本当に勇者なのかも、不安になってきた。





 驚きと不安、そして情報を処理しきれずに俺はまた気を失った。













 少しでも面白いと思っていただけたら、応援・コメント・フォローしていただけるとありがたいです。

 ★のレビューを送っていただくと、この作品がより多くの人に読んでもらえます。

 作者のモチベーションが爆上がりしますので、ぜひお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る