#11 使命と障害

 神はもう一度チャンスをくれる、とか言うことは今まで信じていなかった。

 いじめられていた当時、そんなものにすがる気力さえなかった。


 だが今は、そんな偶像のような存在も信じられる。

 俺に使命を与えたのは、きっとそういう奴らなのだろう。


 俺は、〘魔王〙アトラを倒すために転生した。

 それは、俺に与えられた最初で最後の使命。


 必ず果たす、この命が果てようと。

 もう、『くだらない正義感』とは言わせない。

 








 スニアから、説明を受けたあと、一時は興奮してしまったが、今はもう落ち着いていた。


 目標が無謀だ、討伐の可能性は極めて低いなどの、ネガティブな感情は不思議となかった。

 逆に、ことの大きさ、今までの自分を変えるチャンスが回ってきたんだとゾクゾクしていた。


「あのさ、スニア。

 俺、〘魔王〙を討伐しに行くよ。

 きっとそれが俺の使命だから。」


 先程、スニアも俺の能力を踏まえた上で望んでいたことだ。

 喜ぶと思っていたんだが、予想は見事に外れ、申し訳無さそうな表情を見せた。

 理由を尋ねるとこう言った。


「ごめんなさい。

 あなたが〘魔王〙を倒しに行ってくれることはとても嬉しいの。

 だって、それがもう唯一の希望となったから。

 でも、私は決してあなたを強制的に魔王討伐に向かわせるつもりはなかったわ。

 気を使ってくれたのだとしたら、命を落とすかもしれないのに、命の恩人にそんなことさせられないわ。」


 俺が、スニアの話を聞いて、気を使ったのではないかと心配していたのだ。

 ほんといいやつだな。


「安心しろ、自主的な判断による希望だ。」




 そして、俺は〘魔王〙を倒すことともう一つ、決心したことがあった。




「スニア、俺は転生者だ。」




 もう、こいつに隠す必要はない。

 人柄もとてもいいやつだとわかったしな。


 ちなみに、先程のことを話したときは、前世での記憶については一切触れてない。

 あくまで、あの空間の情報についてだけだ。


「今まで、隠していてすまなかった。

 俺は、お前とあったあの日、あの森の中に転生した。

 記憶を失った状態でな。

 でも、さっき話した空間で少しだけ記憶を取り戻したんだ。

 詳しくは話せないが、それが〘魔王〙を倒す決意のきっかけだ。」


 スニアは驚きを隠せず、ぽかんと口を開けている。

 無理はない、転生者などとほざいてるやつがいれば、俺も正気か心配になる。


 どうせ信じてもらえないと思っていると、スニアが口を開いた。

 いや、元々開いてたからの方がいいか。


「やっぱり、あなたが………」


「?」


 やっぱり、あれバレてたのか?

 だとしたらこの告白はダサすぎる!

 うわぁぁ、やっちまった〜。


 しかし、そんな心配はいらなかった。


「やっぱり、あなたが〘予言の英雄〙だったのね……っ。」


 涙を流しながら安心したような顔でいる。

 なんだ、バレてたわけじゃなかったのか。


「ん?〘予言の勇者〙ってなんだ?」


「えーと、……まずこの街について覚えてる?」


先程、ここがスニアの自宅で、ミンクの中にあることまでは教えてもらっていた。

倒れた俺をここまで運んでくれたらしい。


「あぁ、要塞都市ミンクだろ?

 さっきはここまで運んでくれて感謝してるよ。」


「そうだけど、そこじゃないの。

 王都の守りの要って言ったの覚えてる?」


えーと、要塞都市って言われてる理由だったよな。

俺は、頷く。


「その王都にの国王は、代々特殊な【スキル】を生まれつき持っているの。

 しかも、全員同じ【スキル】。

 でも、その王家の人たち以外は手に入れられないの。

 その【スキル】は、『予見言』フューチャ−

 その名の通り、未来を予見・予言することができるの。」


すげぇなそれ。

予知する瞬間まで指定できたら、戦ったら全ての動きを読まれるってことだろ。

反則だな。


「まぁ、ある日突然【スキル】が発動するから、特定のものを指定して予知できるわけじゃないんだけどね。」


あれ?心読まれた?

一瞬で俺の考察は否定された。

まぁ、俺が言うのも何だけど、そんなのチートすぎるしな。






「そして、ちょうど2週間前、国王がある予言をしたの。」



« この世界を救う勇者現れ この世界に安寧をもたらす »

« 突如 産み落とされし  〘勇者〙 〘魔王〙を討つ » 



「この予言に、国民は歓喜の声を上げたわ。

 «産み落とされし»の部分から、赤ちゃんの中に勇者がいるんだと考える人も多かった。

 でも、いつ来るのかもわからない勇者に、喜べたのは一瞬。

 3日後には、みんな諦め、〘予言の勇者〙という偶像への希望を捨てたわ。」


そりゃそうだ。

形のない信仰ほど脆いものはない。


「でも……あなたが現れた。

 私は、転生者って意味だと確信したのよ。」


なるほど、«産み落とされし»の部分か。

たしかに、異世界から産み落とされたって表現もありか。








やっぱり、俺の使命はこれだったんだ。







「じゃあ、決まりだな。

 俺は〘魔王〙を倒す。

 〘予言の勇者〙なんて、大層な肩書きも、もらったんだからがんばるよ。

 どんな障害も、乗り越えてみせるさ。」


だいぶカッコつけたが後悔はない。

俺には『万能者・極』があるという、大きなアドバンテージがある。

勇者だとわかった理由になるくらいだから、そうと強いものなんだろう。きっと


スニアは嬉しそうに頷く。




……じゃあ、魔王討伐の準備でもするか。


実は、ずっと横になったままだった体を起こそうと力を入れる。

寝たままあんなこと話すとは俺も思わなかった。


……やはり全身の痛みは引いてない。また横になってしまった。

まだ無理か。

でも、このままでは起き上がれないな。


……あ、そうだ『身体強化』使ったら良いんじゃない?


そう思い発動しようとするが、一向に効果が現れない。

ん?イメージが曖昧なのかな?

今度はしっかりイメージして……『身体強化』!



やはりだめだ。

なんでなんだ?


その原因はすぐにわかった。

ベットの上で試行錯誤する俺に気づいたスニアはこう言った。


奏向かなた、今呪われてるから無理しない方がいいわよ。」






…………魔王討伐への第一の障害だった。










ー★ー

てぃらです。

些細な違いかもしれませんが、この小説は横読み、文字の大きさ「小」を推奨しています。

読みやすさや、作者のちょっとした工夫を味わいたい人がいれば試してみてください!


最近、★のレビューやフォロワーが増えて嬉しいです。

目標である、ランキング上昇の基準にもなるらしいのでね……。

してくれた方。

本当にありがとうございます!

実際、日に日にランキングが上がっています。感謝!


では、また。

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