#10 倒すべき敵

 気がつくと、俺は知らない場所のベットに寝ていた。



 薬品の匂いがする。医務室かな。



 体を起こそうとすると、体の様々な箇所が痛み、反射的にまた横になってしまう。

 このままでは周りを見ることすらできない。

 ……この痛み、あいつらに殴られたあとの痛みみたいだ。

 ………………いや、



 けれどこのままではいけない。

 頑張って起き上がろうとするも、まともに動くことすらできない。

 痛みに加えて、疲労感もひどかった。

 全身が気だるく、まるで長時間運動したあとのような疲れだ。


 加えて、声も枯れ、思うように声が出せない。

 喉がひどく乾く。


 また、先程まではまだ完全に覚醒していないためだと思っていたが、視界がぼやけている。

 それもずっと。

 視力が急激に落ちたのか?


 その瞬間、頬を冷たいものがつたった。


 涙!?




 ここで俺は確信した。

 あの空間で起きたことは現世に戻った体にも共有される。


 いや、でも待てよ。

 イフォが、たしか〈意思〉を転送するって言ってたよな?

 そのままの意味だと、こっちの体にも反映されるのは、感情とか記憶じゃないのか?

 ………だとしたら、泣き叫び続けた疲労感や喉の乾き、加えて、実際にあの時殴られていないのにも関わらず、体中が痛いというのはおかしくないか?



[ 『万能者・極』の

  続いて 対話機能の起動 成功


  マスターの『險俶?縺ョ譬ケ貅』からの帰還を確認しました ]



 おぉ!イフォだ!

 体感3時間ほどだが、こいつと喋れないのは結構寂しかったりした。


 ……あと、やっぱ聞き取れないところがあるな。

 あの空間の名前、わかんないままだ。



[ 答 先程のマスターの質問にお答えします

  『險俶?縺ョ譬ケ貅』で起きたことは 全てマスターの〈意思〉に記録されます

  〈意思〉とはいったものの わかりやすく言えば 人間の核となるに根強く結びつくため 現世に戻った際の身体にも影響が及んだと考えます

  それには 痛みや疲労感 さらには感情まで 全てが含まれます

  しかし 実際に殴られていないにも関わらず 全身が痛むことについては 原因が不明となっています

  現在 解析中です ]



 なるほど、たしかに俺は殴られている記憶を目にしただけで、実際は殴られていない。

 それなのに、殴られた痛みが発現するのはおかしい。

 原因不明か……。こわっ



「奏向っ!目が覚めたのね。」


 スニアがこちらに寄ってきた。

 俺が目覚めてからまだ間もないということは、意識を失っている間ずっとそばにいたのか。

 ほんといいやつだな。


「あぁ。おかげさまで。」


「あの男にやられたのは大丈夫?」


「?」


 俺は、あの男からノーダメで勝ったはずなんだが、なにか攻撃されて気絶したと思ってたのか。


「あぁ、それなら……………………………」


 俺は、あの空間のことを話した。

 流石に過去のことまでは話さなかったが。


「……ってことがあったんだ。」


 スニアは理解できないようにいる。

 まぁ無理ないか。

 いきなり別の空間に意思だけ行ってましたなんて言われても、信じられんだろ。


 それよりも気になることがある。

 それは………


「スニア、俺そこから現世こっちに戻ってくるときに、すげぇ強そうな魔物ディスターバーが、人を貪り喰ってるのを見たんだ。

 そいつが何者なのか知らないか?」


「それって、褐色の仮面を被った魔物のこと?」


「あぁ。口のところだけ喰いやすいようにか、欠けてたよ。」


 だから、あの化け物の目は見ていない。

 いや、見えていないというのが正しいか。


 するとスニアは、覚悟を決めたように真剣な顔つきで話し始める。


「そいつは、アトラという魔物。

 この世界では、〘魔王〙と呼ばれる、最低で最強の魔物。」


 あ、あいつが〘魔王〙!?


「普通、この世界の魔物は人を喰うことはしない。

 殺すことだけを目的としているの。

 でも、〘魔王〙だけは違う。

 あいつの能力は『魔力吸収』という【スキル】。

 そして、その圧倒的な力。

 あいつは、その【スキル】を使用することで、人間から魔力を吸収し、自分のものにすることができる。

 そのため、人を喰らうの。」


 なんとも、極悪非道なやつだ。


「これまで、何千万という人間たちが喰われたわ。

 結果、あいつは絶大な魔力を手にし、誰にも止められなくなっているの。

 実際、これまでも〘魔王〙を討伐するために、勇者一行が3度も駆り出された。

 でも、3回とも全滅。

 〘魔王〙を前に何もできなかったそうよ。」


 なんてやつだ。

 まるで、自分の欲のためだけに他人を傷つける、あいつらみたいに……。


「……でも!私はあなたが魔王討伐の希望だと思うのっ!

 あんな高度な魔法を無詠唱だなんて、誰にでもできる芸当じゃないわ!」


 あぁ、俺は『万能者・極』を持っているからだろう。





 ずっと疑問に思っていた。

 なぜ、この世界に来たときから、見覚えのない【スキル】を手に入れていたのか。

 なぜ、この世界に来たのか。





 俺は知った。

 俺は、あの〘魔王〙アトラを倒すために転生したのだ。





 運命の歯車は回りだす。

 彼の前世での敵への復讐を催促するかのごとく。









 ー★ー

 てぃらです!

 やっと物語が進んできました。

 前の二話は少しシリアスな話になりましたが、奏向の設定を少しでも明かすことができて個人的には満足しています。

 今後の展開をお楽しみに!


 最近は、フォロワーさんや応援してくれる方も増えてきてホントに嬉しいです!


 自分の作品への反応が通知されるだけでモチベーション爆上がりなので、ぜひ続きが気になるよ!という方は、率直な感想をいただけると嬉しいです!


 また、おこがましいとは自覚していますが、この作品をもっとたくさんの人に読んでほしいので、ぜひ★のレビューをしていただけると嬉しいです。

 まぁ、これからも読んでいただけるってだけで十分なんですけどね。


 オススメに載る、ランキングで百位以内を目指してこれからも頑張りますので、よろしくお願いします!

 では、また。


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