#9 復活

 一時間ほど泣いただろうか。

 その間僕は、声を上げて泣いた。


 あの悲しみ、五十嵐いがらしに対する怒り、自分のしたおせっかいに対する後悔。

 全てに襲われた僕は、この空間が温かく、すべてを受け入れるような心地よさも合わさってか、今までなら、堪えられていた感情が全てむき出しになった。


 声が枯れるまで泣き叫び、自分の中にある憎悪の感情がなくなるまで暴れ回った。


 都合のいいことに、この空間は何もなく、体は浮いている。

 なので、近所迷惑だったり、物を壊したりの、何かしらの害が出ていることはなさそうだった。



「なんで……あのときっ…!うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」



 もうすでに遅い、いや転生してからの遅すぎる後悔だった。









 また一時間ほどたって、ようよく落ち着いた。

 この世界に来て、一人称がからに変わっていたのは、無意識に自分をあの頃とは違う強い姿としていたかったからか。

 それか、あの地獄の日々を思い出さないための本能による自己防衛か………。



 どちらにせよ、もうあんなことはゴメンだ。

 もう僕は変わった。

 天海奏向あまみかなた、第二の人生なんだ。

 しっかり楽しんで生き抜いてやる!


 もう僕は……いや、はあんなことを繰り返したくない。

 少なくとも、この第二の人生の中では………………………………。








 固い決意のあと、俺は脱出する方法を探していた。

 あいにく、イフォとは話せなかった。

 もちろん、イフォとは話すことができないということは、『万能者・極』の能力すら使えないということだった。


 …すでに試した方法を教えよう。


『身体強化』を使って、この空間の中を移動し、出口を探す……………失敗。

 イフォと話して、助けてもらう……………失敗。

 夢のようなものだと思い、自分の頬をつねる、殴るなどして覚醒する……………失敗。


 ……正直もう手詰まりだ。

 本当にどうしよう。




 その時だった。

 転生してすぐから、俺を孤独から助け出してくれた、聞き慣れた声が聞こえた。

 俺は、脱出の方法を教えてくれるのかと期待したが、その願いは虚しく散った。

 かわりに、こんな音声が聞こえてきた。

 いつもと違う、少しくぐもったような声で。



[ 精神異常耐性を獲得 成功

  新【スキル】獲得により 『險俶?縺ョ譬ケ貅』からの 意識の復活を試みます 成功

  現世への 意識の転送を開始します ]



 ん?途中聞き取れない単語があったな。

 他国語かな?



 ただ、そんな俺の疑問は、まばゆい光に包まれていく目の前の光景によって、かき消されていくのであった。








 先程、意識を転送すると言っていた。

 おそらく、その影響か、または転送に必要なことだったのか、とんでもない光景を目にした。




 俺は、とんでもない化け物……いや、本能でわかる……





 ………………おぞましい姿で人を喰らう、魔物ディスターバーの姿があった。


 凄まじいオーラに少し怯えながら観察していると、そいつは、こちら勘付いたような素振りを見せ叫びながらこちらに突進してくる。


 襲われると思い警戒の姿勢を取ったが、すぐにの姿は見えなくなった。






 ………その後、激しい頭痛に襲われ、意識を失うのだった。

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