#8 理由
自分がどんな立場かわかっていても、ときに人間はその立場に見合わない行動を取ることがある。
その理由は、人それぞれだ。
正義感、罪悪感、怒り、悲しみ、好奇心、またもや自暴自棄になった末か。
僕の場合は『正義感』……いや、今となっては『くだらない正義感』だった。
いつものように、放課後いじめられたあと、僕は帰路につこうとしていた。
そこで、運命の悪戯は起きる。
クラス……いや学校のマドンナが、体育館裏で五十嵐に絡まれていた。
彼女は………
もちろん高嶺の花的な存在だったため、関わりはゼロ。
顔と名前すら一致してないだろう、僕の存在すら知らないかもしれない。
その時彼は、僕らをいじめた優越感に溺れていたのか、入学当時よりも自己肯定感の高い、いわゆるオラオラ系に成り果ててていた。
元々の容姿も合わさってか、どこかチャラ付いた雰囲気を醸し出す彼は、モテていた。
そんな自分が釣り合うとでも思ったのだろう。
五十嵐は彼女の腕を掴み、半ば強制的にも見える仕草で、どこかへ連れて行こうとしていた。
表の通路を通るといじめられると危惧した僕は、体育館裏を通るルートで帰宅するのが習慣になっていた。それがいけなかった。
僕は面倒事に関わるのが嫌ですぐにその場を立ち去ろうとした。
しかし、もう遅かった。
彼らの会話を、耳にしてしまった。
「俺と寝れない?誘ってやってるんだから感謝しろよ。
ラブホ代まで出すって言ってんだぞ?」
なんてやつだ。と心の底から憎悪の塊のようなものが顔を出そうとしていた。
僕は、ここで踏みとどまっていたかった。すぐに帰りたかった。
だが、次の一言でその願いは叶わぬものとなった。
「は、離してくださいっ!
私はあなたに好意を持っていませんのでっ!」
彼女なりの勇気を振り絞った抵抗だったのだろう。
普通の男なら、ここまで言われたら引き下がるのではないだろうか。
しかし、五十嵐は怒ったように彼女に殴りかかろうとする。
まさかフられると思ってなく、ちっぽけなプライドが傷ついたのだ。
彼女は反射的に身をかがめる、だがその程度ではあの拳から逃げることはできないし、その後すぐに立ち上がることもできない。
それを知っている僕は、『くだらない正義感』が仕事し、彼女の前に立ち、身代わりとなり殴られた。
「い、いやがってるだろ。」
殴られたあとに僕の口から発せられたのは、今にも消えそうな震えた声。
僕の存在に気づき、今がチャンスだと思ったのか、僕が守った彼女は足早にその場を立ち去る。
その場には、強者と弱者という、なんともわかりやすい構図ができていた。
その後のことは、想像すればわかるだろう。
ボコボコにされる。当たり前だ。
それから、俺へのあたりは強くなった、他のクラスメイトへのいじめがなくなる代償とでも言わんばかりに。
一言で表せば、生き地獄だ。
泣くにも泣けなかった。
ただひたすらに自分のした過ちを呪っていた。
あぁ、全部思い出した。
あの地獄のような学校生活を。
親にはいいだせなかった。
心配をかけたくなかった。
……何故か親の顔は思い出せない。だれだ?
嫌なことだけ思い出せる。
あの事件から4ヶ月後…………
俺は屋上から飛び降り自殺した。
なるほど全て繋がった。
転生した理由はそれか……。
あたたかい空間に包まれながら、未だいじめられていたときの痛みを堪えている僕は大粒の涙を流して泣いていた。
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