#7 記憶

 気付くと俺は、どこか懐かしさを感じる空間を漂っていた。

 体は動かせる。意識もある。

 どうしてこうなっているのか、思い出せない。


 温かい、心の傷を癒やすようなオーラを感じる。

 ……魔法を打つときにも似たような感覚があったはずだ。

 魔力なのかこれは?


 憶測だが、この空間は特殊な魔力で満たされている。


「ずっとここにいるわけにも行かないし、脱出する方法を探そう。」


 スニアを、あの男から助けたところまでは覚えている。

 たしか、そこから急に激しい頭痛が………っ!


 突如、俺をあのときと同じ痛みが襲う。


 やばい、意識が飛ぶっ……!


 ……でも、あのときと違う。

 持続的な痛みじゃなく、周期的に激しい痛みが来る。

 それも、頭だけじゃない。体中に。

 頭痛じゃない、そう確信した。


 すると、痛みを堪え、うめき声も出せない、俺の目にある光景が映った。



 男子生徒4人が、少し体格の小さい男子生徒を好き放題している。

 ある者は、顔を殴る。

 またある者は、腹を蹴る。


 そして俺は、暴行を加えられている……いや、いじめられている生徒を見て気がついた。


 あれ、俺だ……。

 今にも泣きそうな悲しい顔をしながら、抵抗できずうずくまっている。

 おそらく、腹を蹴られていたため、呼吸もろくにできないのだろう。荒い息遣いがうかがえる。



 そうだ、俺は前世でいじめられていた。



 原因は……そうだ、なんとも理不尽なものだった。


 高校2年のときだっただろうか。

 高校生にもなれば、各々が自分にあった過ごし方を見つけている。

 俺も……いやも、その例外ではなかった。


 結果、陽キャ集団と陰キャ集団という分類された学校生活が始まる。

 ここまでは、1年のときもそうだった。


 しかし、あの年は違った。


 あの集団の中心人物、……たしか、五十嵐 淳いがらしあつしだったか?

 そいつによって、僕を含めた『陰キャ』と呼ばれる人間の学校生活は狂ってしまった。




 彼によって、陽キャ集団は全員、僕の敵となった。

 その中でも特にひどかったのが五十嵐 淳を含む、先程、僕をいじめていた4人だ。

 アイツラの手口は至って単純。

 暴行、嫌がらせ、パシリ、晒し……など、どれも僕たちに人権など無いとすら感じさせる行動を、悪びれる様子もなく実行する。

 そして、僕が苦しんでいる姿を見てたのしむ。


 さらには、その年の担任は新任で、立場が弱かったためか、五十嵐によってコントロールされていたと言っても過言ではなかった。

 その結果、担任の前で堂々といじめをしていても、何も言わないという、簡単に言えば地獄絵図が完成していた。

 今思うと、あの担任も脅されていたのだろう。

 五十嵐のいないところでは、少しだけこちらに歩み寄るような言動もうかがえた。

 悪いのは、あの人じゃない。


 しかし、が起きるまでは、自分が陰キャだからと考えれば、まだ飲み込める程度のものだった。

 そう、あの日から、いじめの一線を越えた。




 

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