#6 街、そして異常

「ところで、ミンクってどんなところなんだ?」


 俺は、さっき助けた美少女スニアと、ミンクという街に向かっていた。


「えーと、さっき要塞都市とは言ったんだけど、正確には『元」なの。」


「ん?じゃあ、今は何なんだ?」


「普通にこの辺りでは栄えてる街って感じかな。

 少し前までは、ここらへんは紛争地帯でね。そのときに、ここから北にある王都の守りの要として、活躍してたんだ。

 でも、やっと戦争が終わって、条約まで結ばれたの。

 だから、要塞都市としての役割はもうないの。」


「なるほど。」


 まだ、この世界に来てばっかだから知らなかったけど、やっぱこの世界でも戦争はあるんだな。

 前世でも、原爆やらのニュースを見るたび、胸が締め付けられた。

 どこに落とされたんだっけ?

 ……えーと、広島だったっけ。

 戦争でなくなった人には、俺みたいに転生して幸せな人生を送って欲しい。


 広島?どこだっけ。

 お好み焼きがうまいところだ!

 日本人ならではだよな、あの美味しさを知ってるの。

 ん?日本!

 そうだ、元の故郷は日本だ!


 なんと、お好み焼きで記憶を取り戻した。

 なんかやだな。

 まぁ、記憶が戻ったことはシンプルに嬉しい!

 他にも戻んないかな……。


 記憶が戻った嬉しさでニヤニヤしていると、スニアは若干警戒したような顔を見せた。

 俺は、すぐに真顔にもどる。

 また、その切り替えの速さに引かれる。


 なんか俺ヤバイヤツ認定されてそう。悲し






「あ!ミンクが見えてきたよ!」


 あれから少し歩くと、いきなりスニアが教えてくれた。

 たしかに、前方にはレンガのような色をした壁が見える。

 城壁か。でも、この距離であれって結構でかいよな。

 見える範囲だけでも、3kmぐらいはありそう。


 やっと街だ。 





 すると、目の前から黒いローブをまとった男がこちらに歩いてきた。

 よく見ると、手には刃物を持っている。


「……っ!」


 俺はとっさにスニアの前に立ち、臨戦態勢を取った。


 突然、男がこちらに向かって不気味な笑みを浮かべた。

 顔は若く見える。二十代後半くらいか。


「神のために、貴様らの生命いのちを差し出せ。」


 それだけ言って、こちらに突進してくる。


 それを見て、完全に敵だと認識した。

 逃げてもいいだろう。俺の今のスピードなら。

 でも、スニアは?

 ……やっぱり倒すしか無いか。



『身体強化』


 こいつの実力がわからない以上、迂闊に手を出せない。

『身体強化』は発動しておいて損はないだろう。

 こいつも、能力があったりするのか?


 男が至近距離に迫ってきた。

 ガチで殺しに来ている。目が、イってる。

 

 俺は、『身体強化』の効果により、軽々と相手の攻撃を避けた。

 あのまま動かずにいたら、心臓を刺されて死んでいただろう。こわっ


 


 …今回の戦闘でいつもと違う点、それはスニアを守りながらという点だ。


 魔物ディスターバーとサシでやるなら、周りを気にせず好きな魔法や攻撃が可能だが、今は違う。

 流れ弾が当たったり、攻撃範囲が広すぎて、あの男以外にも危険が及んだりする可能性がある。



 なら、ここは威力よりもコントロール重視だ。

 

 森での練習で、水属性の魔法はコントロールしやすいということがわかっている。

 水の性質からか、質量やスピードなどの、イメージの再現度が高い。


 俺は、即座に集中し、魔法のイメージをする。


 相手を戦闘不能にするだけの威力があればいい。

 この距離なら、そこまでのスピードじゃなくても避けられないだろう。

 狙うのは、頭。

 威力が足りなくても、少しでも視界を悪くして時間を稼ぐ。


 男は、俺に隙が生まれたと感じたのか、もう一度こちらに向かってくる。


「女より先に、逝かしてやる。」


 あいつは、勝ちを確信したように、また不気味に微笑む。




 …だがもう遅い。

 俺の魔法はもう発動可能だ。


 俺が、念じた瞬間、目の前に無数の水滴が出現。

 辺り一帯に広がる。


 男はそれに気づき、驚いたような素振りを見せながらも、勢いを落とさずこちらに向かってくる。


 次に、その水滴は一つの球体の水となった。

 大きさはソフトボールくらいだ。


 そして、プロ野球選手の投球のようなスピードで、男に向かって発射される。


 次の瞬間、男の顔にが直撃、すべてをもろに食らった男は、後ろに吹き飛ばされる。

 そして、呻くように、かすれた声で男が喋った。


「なぜだ!詠唱はしてなかったはず……。

 しかもこの威力の魔法、「Ⅸ」ネーヘンの冒険者並みだ…!

 こんな若造にそんな芸当はありえない………!」


 あれ、結構セーブしたつもりなんだけどな?


「詠唱は、とある【スキル】によって不要なんだ。

なんか、すまんな。」


 男は、それを聞き、絶望したような顔を見せてから気絶した。


 思ったより弱かったな。

 攻撃も単調。なにか特殊な能力があるわけでもない。

 まぁ、倒せてよかった。


「…か、奏向かなた?」


 声のした方を振り向くと、スニアが信じられない物を見たかのような顔をしてこちらを伺っている。


「え?どうした?

 あ、それより無事だったか?」


「う、うん。怪我はないわ。奏向がまた助けてくれたから。」


 ならよかった。

 というか、ほんとにあいつ何者だったんだ?

《神》とか言ってたよな。宗教とかかな?こわ


 俺が男の正体の手がかりがないか、男の持ち物を物色していると、スニアがこちらに近づいてきた。

 すると、持ち物の中のペンダントうを見て、引きつった顔をした。


「こいつ、グレムス帝国の人間よ!!」


 ん?どこそれ。また新しいとこ?

 ぽかんとした俺にソニアは説明を続ける。


「さっき話した、戦争の相手国よ!

 でも、数ヶ月前に結んだ条約で、この領土でこの国の人間を襲うのは禁止されているはず!

 なのに……。しかもこいつ、結構な実力者よ。階級ランクが高いわ。

 これは、異常事態ね!!

 急いで、国王親衛隊に報告よ!」



 異常とともに、運命の歯車は回りだす。

 そして、俺は原因不明の頭痛に襲われ、その場にうずくまる。

 ソニアが、心配してこちらによってくるが何を話しているのか聞き取れない。

 …………そこで意識が途切れた。



      






   幸せが崩れるときは、いつもどこかが痛む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る