#2 獲得、そして対話

 奏向かなたは、森の中を進んでいた。



「もう30分は歩いたぞ。」



 なのに、ずっと同じ光景が続いている。

 広すぎだな。真っすぐ進んでるはずなんだが。

 それともあれか?ヘンゼルとグレーテルみたいになんか印つけてくか?



「もともと体力はある方だったはずなんだがな。」



 30分でバテるほどの体力は持ち合わせていないはずだったんだけど。

 あと走ったならまだしも、歩いただけでバテるのはやばくないか?


 あと、若干歩くスピードも落ちてる。

 あのクソ雑魚【ステータス】が関係してんのかな。

 だとしたら、【ステータス】早めに上げないと不便だな。

 上げ方わからんけど。









「やばい、ほんとに途方に暮れそう。」



 結局あれからも探索を続けたが、収穫はゼロ。

 ずっと同じ木だけの光景が続く何もない森だ。

 それにしても広いな、この森。

 結構真っすぐ歩いてるはずだから、小さい森なら、もう抜けても良いんだけど。



 もう歩けなかったので、そこらへんにあった岩に腰掛けて、休むことにしたけどお腹が空いて仕方がない。

 ここに来るまでで、食べられそうな木の実やキノコはいくつかあったが、もし毒だったらと考えて、何も口にできずにいた。

 誰か有識者がいれば良いのだろうが、生憎そんな人間、というか生き物すら見ていない。



「……誰か助けてくれよ。」



 そんなときだった。

 俺の脳内になにかの音声が流れ込んできた。



[ 再構築が終了

  『万能者』の所有者 《天海奏向》の音声を確認 適合開始

  ……成功 【スキル】『万能者・極』を獲得 ]      



「うわっ!」



 マジでびっくりした。

 何なんだこの声……


 とっさに身構えてしまったが、声の正体がわからない以上、何もできずにいる。



[ 答 『万能者』によるものです

    再構築が完了し マスターとの会話が可能となりました ]



「!!………へー、そーなんだ。」



 うん、答えてくれてる。なんか驚きすぎると声が出ないって本当なんだな。

 

 前世でもAIと会話する機会はあったが、こんなスムーズなものは触れたことがない。



 ……え?ちょっと待って。

 今、俺声に出したっけ?声の正体に疑問を持ったこと。



[ 答 私は マスターの【スキル】として存在しています

    体内に含まれた とでも解釈していただけるとよいでしょう

    また マスターの思考を読み取ることが可能です

    ですので 私と対話する際は 頭の中で念じるだけで結構です ]



「お、おう。」



 なんか、急にめっちゃ喋りだしたぞこいつ。

 俺の【スキル】って言ったか?

 でも俺の【スキル】って、「なし」なんじゃ?



[ 『万能者』の再構築が完了したため 【スキル】『万能者・極』を獲得しました

  性能を確認しますか? ]



 再構築が終わったから獲得したのか?

 まぁ、そういうことにしとくか。 


 あと、しれっと「極」になってるし。

 まだ、使ったこともないし、【スキル】の内容さえ知らないぞ……。




 もう情報がいっぱいで整理しきれねぇ。


 でも、なんかずっと気になってること教えてくれそう。


 『万能者』の正体は、この世界に来てからずっと気になってることの一つだ。



「おう、頼む。」



[ 『万能者・極』 『万能者』の上位互換

  その名の通り 万能の能力を持つ 

  その中の1つとして【スキル】『万能者・極』との対話が可能になる ]



 ……すっげぇ抽象的だった。

 

 まぁとにかく、俺はこの『万能者・極』と話せるようになったってことだよな。

 なんやかんやで独りは寂しいし、話し相手ができたのなら嬉しい。



「よろしくな!……えーと、…………………」



 名前とか無いよな?

 『万能者・極』って呼ぶのもなんか可哀想だしな。

 なんかこういうのはわかりやすくて、愛着が湧くような名前がいいよな。



「……よし!お前は今日から《イフォ》だ。」



 この世界に転生しての初めての有識者かつ情報源だったから、インフォ(info)から取ったけど単純だったかな?



[ 了 ]



 怒ってない…よな。うん。

 これで、俺のネーミングセンスをボコボコに批判されたら泣いてた自信がある。

 なんか仲間が増えるって良いな!…【スキル】だけど。

 俺の知らないこともたくさん知ってそうだし、途方に暮れることはなくなったかな。





 こうして約2名の探索が始まる。






 一方その頃、〈王都〉ではまだ見ぬ英雄を、人々が探し求めていた。


 この世界を救う、〘予言の勇者〙を。





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