第16話 勝手知ったる女神様

教会聖門。ここは祭事や神事に使われる、神聖な場所である。広く整えられた空間は青々とした草は萌え、周りには木々が騒めいて心地よい風が吹いている。その場に、高位神官および5人の教皇が祭事と同じように整列していた。内心誰しも高ぶる気持ちを押し殺していることだろう。いくら教会で生活し、女神アルヘイラを信仰していたとしても、そのお声を聴くことすら一生に一度なく、しかし信仰心に揺るぎなどないというのに。これからお声はおろかお姿まで拝顔叶うというのだから、信者たちが浮足立つのも仕方がなかった。


初日の少年の様な恰好から、女性らしい軽装に姿を変えた大聖女様は、服装で何が変わるわけでもない。終わり次第出立するから。との理由で、軽装のまま身を整えられて、聖門にあらわれた。


広い広場の真ん中に立つ、巨大な白亜の門。神の住む間と人の住む世を繋ぐとされる繊細な彫刻が施された門は固く閉じられ、開くことはないという。その門の前に大聖女様は進み出でて。正面に並び立つ我々、何より最前に並ぶウォンカ様へ目配せをすると、花がほころぶように美しく微笑まれた。


瞬間、身体に突風に似た衝撃が襲い、驚き耐える。周りの者達も驚き呆然と大聖女様を見ては、言葉を失っていた。皆の視線の先、聖門が、開いていた。白亜の門に絡まるように光が走り、開いた扉の向こうは真白に潰れてなにも見通すことができない。人成らざる者の力にゾクッと鳥肌が立ち身体が震える。


風に騒めいていた木々は恐ろしいほど静寂を保ち、だというのに大聖女様の黒髪は軽やかに風に遊ばれている。この場に満ちる、重々しくも清らかな空気。大聖女様から発せられる神聖力に、誰からともなく膝をつき女神アルヘイラ様へ祈るように、手を組んでいた。


そんな私達を一瞥して、両の手を空中へ差し出すと、


「アルヘイラ。久しぶり。」


《うふふ、楽しんでくれているかしらぁ。》


その手を取りながら、女神アルヘイラ様が、ご降臨なさった。天から降り注ぐような、頭の中に直接響くようなお声に、息を飲む。


「そうだね。今のところ半々かな。」


《あらぁ、そうかしら。私から見ると、とっても楽しそうだけれど?》


「…覗きは良くないと思う。」


美しい金糸の髪。全てを見透かすような金の瞳。慈愛に溢れる唇は弧を描き、白磁の如き肌は絹の薄布を纏っては神聖力に靡いている。あまりの神々しさに言葉を失う。しかし魂の底から、この方が、このお方こそが女神アルヘイラ様なのだと理解する。歓喜に震え、ぼたぼたと涙が溢れては萌える草々に落ちていった。


《貴方達も、久しぶりねぇ。》


ふわり、とこちらへ身を向け、ロックス殿とウォンカ様へ視線を送る。


「お久しぶりでございます。無理をお聞き入れ下さり、大変ありがたく感謝いたします。」


頭を下げ、祈るように傅くウォンカ様と、大聖女様の隣で膝を着き礼を尽くすロックス殿に微笑んで。


「まぁ、見ていたなら知っていると思うけど、アルたんの信者さんがね。会いたがってるから呼んじゃった。」


大聖女様の言に、そう、と、空気に溶ける様な声が


《かわいい子たち。貴方達の祈りは、ちゃんと私が受け取っているわ。いつもありがとう。》


そっと頭を撫でる様に、通り抜けて。腹の底から湧き上がってくる感情に、唇を噛んで耐えようと試みるも、ボロボロと涙が後から後から流れ落ちては頬を濡らしていく。まるで母の胸に抱かれる赤子に為ったかの様な、慈愛と安心感に包まれて。ゆるく過ぎる時に周りからもすすり泣く声が上がっては消えていく。


《それじゃあ、リン、また会いましょうね。》


「うん、また。」


くすくすと声をあげて、大聖女様と笑いあうと、アルヘイラ様は門をくぐる様に溶けて消えてしまった。そして、瞬き一つで、まるで今までが夢であったかのように、聖門の扉は閉ざされていて。ただ濡れた頬と胸に満ちる充足感だけが、アルヘイラ様の存在を証明していた。


そんな私達を見渡すと、大聖女様は低く落ち着いた声で、


「さて、君達の私に対する疑いははれたかな。私が聖女として君達に命令することは、一つ。『仕事はするからほっといて。』だ。君達の政治や派閥争いはどうでもいい。私に過分な力があることも、それにより何がなせるかもわかっているつもりだ。ただ、私はその力を使う心算がない。私の身に、がある場合を除いて。アルヘイラに頼まれているし、聖女へのお布施はきちんと受け取っている。その分の仕事浄化はしっかり果たすよ。それは君達のだろう。個人間の争いに、私を巻き込む、あるいは私の名前を出した場合、相応の覚悟があると受け取る。見ているから、気を付けるんだよ。」


そう、警告してきた。全てわかっている上で、昨日までの事はなかったことにしてやる。これから身の振り方を弁えない場合、持っている力でもって処罰する。そして、嘘偽りは、大聖女様の後ろ盾である女神アルヘイラ様によって暴かれる。それはつまり、教会からの追放。もしくは死を以ってしても清算されることのない罰を与えられることとなる。神の手によって。そう、仰っているのだ。


跪いたまま、誰も一言も発することなく、大聖女様のお言葉を噛み締めていた。中には恐怖に青褪め、震えるもの。うっとりと恍惚とした表情で見つめるもの。面白いと言わんばかりに笑って頷くもの。困ったように笑う者。三者三様の反応に、満足げに微笑んだ大聖女様は、


「それじゃあ、行ってきます。」


それだけを告げて、ロックス殿の元へ歩いて行った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「今日のひとこと!慣れないことをするもんじゃない。」


十分に教会から離れて、叫んだ。メンタルがね、疲れたのだよ!ご想像ください。大神官とか高位神官って沢山修行したり徳を積んでる人がなれるんだよ。つまり年齢層が高いわけだ。平均年齢50代なおっさん達総勢200名余りが、声を圧し殺して歓喜に咽び泣く様を特等席で見ていたわけだよ。


そしてさらに親とそう変わらない歳の方々に、偉そうに命令と脅しをかけて、すたこらさっさとオサラバしてきたのだ。や、遣り辛いことこの上ないわい!でもやらないと、黄の神官みたいに暗殺者とか向けられたら困る!怖い!それよりはマシだと思って、めっちゃ頑張った。褒めて頂きたい。ので、ゼロさんに癒されようとお洋服引っ張って訴えてたら伸びるから止めろって手を取られたので、これ幸いと振り回してるなう。いや、緊張してたから。ゼロさん抵抗しないからつい。


「で、なぜにゼロさんはそんなに赤面しているのか、聞いてもいい奴かい?」


ちょっと速足なゼロさんの横について覗き込むと顔を逸らされた。だが甘い!教会にいる間ミトラ様から筋トレ教えて貰って少し体力がついたのだ!追いついて会話するのもお茶の子さいさいだぜ。ふっふー!教会の門を出た辺りから、じわじわ赤面し始めて、いつツッコむか悩んでたんだよね。そろそろいい?


「…いや、その。見られていたのかと、思ってな。」


ぼそぼそと覇気なく呟くゼロさん。おお、なんだね。何か恥になるようなことしちゃった?こっそりやらかしちゃった?それをアルたんに見られてたかも…ってことだよね。それはそれは。気になってついソワァ…ってなるけれど、いやいやちゃんとプライベートはそっとしておくよ!


「でもアルたんから見て楽しそうだったんでしょ?」


ゼロさんにも声をかけてたし、怒ってるわけではなかった。なら心配しすぎなだけだから、きっと大丈夫だろう。まぁ、私の見解ですが。


「…楽しんで…、そう、なのか。」


片手で顔を押さえて目をそらしててもよどみなく歩くし、顔を覗き込もうとして避けられてるけど体幹ぶれない辺り流石ですね。そんなことを考えながらゼロさんを見ていたら眼があって。なんぞや?と首を傾げたら、眼を塞がれて立ち止まる。


「なにゆえ!?無罪を主張する!」


「んん゛、五月蠅い。ちょっと待て。」


まだ怒られるような事してません!って言ったらあんまりにも死にそうな声でお返事されたので、優しい私はちゃんと待って差し上げるんだぜ。しかたないなぁ。そんなことより、これから向かうダンジョンですよ。怪我するの嫌だし、やっぱりモンスターとか怖いから特製ミサンガを編んでみた。職業系転生によくあるよね。で、試しに作ったら大成功だった。やったぜ。


案の定、回復系しか付与できないんだけどね。仕方ないね。ないよりマシ。ううぬ。所詮チートに成れぬ雑魚という事か。今のところ、虎の威を借る以外にしてませんからね私。…切ない。ほろっと来ちゃう。


「んぅ?」


そんな明後日な方向に頭を働かせていたら、口になにか押し当てられた。ざらついて、ちょっと固くて暖かいなにかに驚いて肩が跳ねたけどほんの一瞬で。え、何々怖い怖いゼロさん?おもわず人の視界を奪い続けているゼロさんの手を剝がそうと手を伸ばしたら、先にゼロさんの手が離れて行った。外の眩しさに目がチカチカするでヤンス!


「…え、なんでさっきより顔が赤いんだい。」


手が離れて行ったと思ったら、耳まで真っ赤なゼロさんがいた。体調不良?熱中症?どっちだね。というかさっきのなに。一瞬過ぎて白昼夢な気がしてきてるのに、ゼロさんが赤面しているから気の所為にならないんですが。目の合わないゼロさんは、なにも言わずに歩き始めてしまって。でも、手は繋いだまま離されなかったから、指だった可能性が消えてしまった。。


「…そのうち、知らされるんですかね。」


報連相大事だと思うよゼロさん。聞いてる?これが本当に私の勘違いだったら、私はかなりヤバい奴で。わずかでも期待したら、それが外れてたら立ち直れなくなってしまう。それは怖くて悲しいから、私は何も気が付いていない事にしたい。


万が一が、あれば。私はどうしようか。はじめは信じられることが何もないから、自分を守る為にこの人から逃げようと思っていた。そのうち優しい人だと知って、面白くて仲良くなりたくなって、いまは…側にいたいと思っている。


勘違いだったら辛いな。そう感じている時点で、私はきっとゼロさんが好きだ。好意か恋かはわからないけれど、なにかが変わってしまう気がする。そうなったらやっぱり逃げてしまおうか。それとも、そうなる前に消えてしまおうか。


傷付きたくないな。でも、傷つけたくないな。優しく掴まれているのに繋がれている手が振りほどけない。引っ張られるくらい速く前を歩くゼロさんを追い越す気になれない。赤くなっている耳が見えて安心している自分がいる。


頼る者が居なくなる不安なのか、世界に一人取り残される恐怖なのか。…それよりも、ゼロさんに嫌われる事を想像すると、心臓がぎゅっと苦しくなる。ああ、だめだなぁ。落ち着け私、思い上がるな私。護衛対象に好意を寄せられるなんて、可哀想だよ。


一言聞けばいいだけなのに、聞けない自分が情けない。さっきのは悪戯だったのかな。気の迷いだったのかな。揶揄われたのかな…それは、辛いなぁ…。なんて、そんなわけがないんだから、考えるのはやめよう。何も知らない。何もわからない。


「ゼロさん、ダンジョンって遠いの?」


「…そうだな、途中で何度か街に寄ろう。それから――、」


ほら、何も変わらない。いつも通りって奴だ。はい、おしまい。





「Fランク任務って、本当に薬草採取から始まるんだね!」


「ん?えっと、小さい村だと家の手伝いとかの方が多いぞ。皆がやりたがらないから、薬草採取が一番人気なんだ。」


「へぇ~」


ダンジョンに着くまでに冒険者の基礎知識を覚えよう!っていう目標を立てまして、現在先輩冒険者の少年少女から薬草採取を教わっております。ゼロさんはどこに行ったのかって?


「…どうだった?」


「ソラちゃんのお母さんの得意料理を教わりに行く約束をしました!」


「なぜそうなるんだ…、」


ギルドで待ち構えていたゼロさんから、呆れのため息と眼差しを頂きました。だって薬草採取中は真剣にやるけれど、森までの道中は見晴らしのいい原っぱで、普通に採取のコツついでに雑談が始まっちゃうよね。


「ずっとここで待ってたのかい?」


「ずっとではない。早く終わったから先に居ただけだ。」


「ほぉん。」


ほんのりツンの気配を感じる。キャラ変なの?単純にちょっと不機嫌かな。わけわかめ。


「これからも待ってもらう事になるかも…。高ランク者は低ランクの依頼を受けられないから仕方がないね。」


「…そうだな。低ランク側に行く機会が無かったから俺も知らなかった。すまん。」


「だいじょーぶい!お陰でおやつとごはんのレパートリーが増えてるぜ!」


「冒険者の知識も増やすんだぞ?」


「まっかせろり!」


低ランクの依頼を高ランク者に独占されると、低ランク冒険者の生活に関わってくるからっていう至極当たり前なルールだった。逆はお勉強ってことでOKなんだって。ただし安全は高ランク者任せになるから、無茶は厳禁だし誓約書も準備しなきゃいけない。想像よりもしっかりしたルールがあるし、破ったら捕まっちゃうって聞いてドキドキです。


「おっちゃんさぁ、ねぇちゃんにもっと基本的な事教えた方が良いと思うぜ。」


「…また何かやらかしたのか。」


「な、何もしてないよ?!」


頭痛が痛そう(誤字ではない)なゼロさんに慌てて主張するけれど、リクくんの残念なモノを見る視線が突き刺さってくる。


「ウソだぁ、だってお姉ちゃん荷物全部指輪に入れてたよ?」


「え?!ダメなの?!」


「だからさ、そんな高級品をFランクのねぇちゃんが持ってたら目ぇ付けられるじゃん…。」


「で、でも子供しかいなかったから、」


薬草採取はほとんど子供のお仕事で、今日もリクくんとソラちゃんの他にちらほらと子供がいたのは覚えている。だから特に気にしていなかったんだけれど…、


「悪い大人にお姉ちゃんの事話しちゃう子がいるかも…」


「それに子供でもスリはいるしねぇちゃんより足も速いぜ?指切り落として逃げられたらどうすんの?」


「あ、そっか、ああああごめんなさい…」


「リクもっと優しく言いなよぉ、お姉ちゃんきっと人を疑ったりしたことないんだよ。」


「ぅぐっ、そんなことは、」


「子供相手に警戒出来てない時点で、ねぇちゃんに反論する権利ないから。」


「ハイ、反省してます。」


報酬を分けてくれていたソラちゃんにまで迎撃されて、大人しく白旗を振る。うぐぐ、大人に対する警戒心はあるけれど、子供に警戒するのは難しいんだよ…ッ!


「子供が危害を加えてくるっていう思考がなくてですね…、」


「ねぇちゃん本当はお姫様のお忍びなんじゃって噂になってるぜ?」


「違うよ、お金持ちのお嬢様がおじちゃんと駆け落ちだってママが言ってたよ。」


「ほぁ?!」


「まぁ奇声あげるお姫様なんていないよなって、納得して終わるから安心して。」


「ねー。」


「それはそれで複雑…ッ!」


とんでもない噂が生成されてた!/(^o^)\ナンテコッタイ とりあえず勝手に生まれた噂は私の言動で沈下されているようなので放置しかないよね…。訂正して回るのも違う気がするし。


「じゃあ、またなんかあったら呼んでね!絶対他のパーティーにすんなよ!」


「わかった、ありがとうね。」


リクくんとソラちゃんに手を振ってお見送りすると、良い笑顔で振り返してくれてほっこりする。


「さて、私はいつも通り二階の図書館に行くけど、ゼロさんはどうする?」


「俺も行く。いいか?」


「もちろん!わかんないところ教えて?」


「ああ。」


ソフィラの町はダンジョンに近くて、それを目当てにやってくる冒険者で賑わっている…と思いきやそうでもなかった。単純な話、ドロップ品に旨味がないらしい。


「ダンジョンにも種類があって、通常は上から下に降りるタイプ。他は洞窟型で一階層が広いものと、高ランクダンジョンによくある転移タイプがある。なお、階層の多いダンジョンにはもっぱら転移魔方陣がついている。」


いま読んでいるのは初心者のための優しいダンジョンっていう元も子もない絵本。全編フルカラーの絵がついていて、とてもわかりやすい。ちなみにゼロさんに渡されました。


「いや、子供じゃないんですが?」


「わかりやすさが最優先だろう。」


「たしかに!」


子供向けだからめっちゃわかりやすいね!若干もにょる私のプライドなんてその辺に捨てましょうね。


「高ランクダンジョンからは一攫千金のお宝が手に入りますが、一撃で命を刈り取るほど強力な攻撃を有するモンスターも現れます。自分の力量に見合ったダンジョンを選びましょう。」


ちなみにゼロさんは横で小説を読んでるよ。なんで音読してるかって?ここ、冒険者ギルドの二階にある図書館なんだけれど、資料室って言っても過言ではない小ささでほぼ誰も来ない。文字が読める初心者は本を読まないし、中堅者になるとそもそもこんなところには来ないそうです。過疎の極み!


「近くのダンジョンは初心者用?」


「初心者用ではないが、中・高ランクがわざわざ行きたがる物はでない。その所為で一月誰も入らないこともあってな。定期的にギルドから確認要請が来る。」


「スタンピードだっけ」


「ああ。」


「ダンジョンに現れる魔物はモンスターと呼ばれ、絶命時にアイテムを残し消滅します。しかし新たにダンジョンに潜ると、消滅したはずのモンスターがまた同じ場所に現れるため、このダンジョン特有の現象をリスポーンと呼び、地上の魔物と区別されます。しかしダンジョンに魔力が満ちると、モンスターも共に地上へ溢れ出てきます。これがスタンピードです。」


「スタンピードの詳細な原因はわかっていない。そもそもダンジョンの仕組みも謎が多いからな。シンジョウの浄化でなにが起こるか確認する為にも、人のいないダンジョンはちょうど良いだろう。」


「そうだね。」


そんなわけでソフィラに一端身を置いて、冒険者の知識を身に付ける流れになったのじゃ。右も左もわからない初心者は危なすぎてダンジョンに入れられないからね!なお、私の事である。


「ゼロさん、暇でしょ?なにかお仕事受けてきても大丈夫だよ?」


「いや、問題ない。」


なにが?君がずっとそこで同じ小説読んでるの気がついてるよ?読んでるふりして考え事してるじゃろ。ページ進んでないし。


「一人にさせるのは不安だ。」


「お留守番できない子供かな?」


「子供に心配される大人ではあるだろ。」


「ぐうの音も出ない…、」


主にソラちゃん達に心配されております。ソラちゃん達とは町の外れで出会った。ソフィラについて散策をしていたら路地裏で子供が倒れてて、急いで回復魔法をかけて助けたら仲良くなったんだよね。その子はカイくんって男の子なんだけど栄養失調かと思うくらい痩せてて、聞いたら孤児だって。そこからあれよあれよという間に教会に行き~の子供に囲まれ~のあれやこれや。


「あ、そろそろソラちゃんのお母さんのところに行かなきゃ。」


「…シンジョウ、」


「ん?なに?」


「……いや、俺は依頼を受けてから戻る。気を付けて行くんだぞ。」


「うん。わかった。」


窓の外は夕日に赤く染まって、もうすぐ夕御飯の時間。ソフィラについて一週間ちょっとになるかな?ゼロさんはずっと心ここに非ずで考える人になっている。ある程度は一人行動を許可されて居るので良いんだけれど、たまにこうしてなにか言いたそうに呼び止められては結局話さないのだ。


「そりゃああんた、プロポーズでしょう!」


「いや、そんな関係じゃないんですってば…」


興奮気味のソラちゃんのお母さん、キララさんとキッチンに並んでお料理なう。キララさんは神官さんで、教会の孤児の面倒を一人で見ていた。カイくんに連れられて教会に来たら病気で倒れてるキララさんがいて、心臓が飛び出るほど驚いたよね。まぁそれからはこうして仲良くなって、肝っ玉母さんなキララさんにお料理とか色々教えて貰っている。


「そんな関係じゃないならどんな関係で男と旅なんてしてるんだい?」


「だから冒険者でパーティーを組んでるんです。」


「BランクがわざわざFランクと組むなんて、惚れた腫れたに決まってるじゃないか!」


「暴論!」


シチューをかき回しながらオーバーリアクションで話すキララさんが面白すぎて、ほぼ毎晩ご飯を教わりに来て雑談してしまう。それと、


「ねーちゃ、ごはんよぉ?」


「そうだね!もう皆を呼んできてくれる?」


「あい!」


子供が可愛すぎてついつい構いにきてしまうのです。十歳以下のちびっこが10人、わちゃっと集まっているところを想像してほしい。純粋なる可愛さの極み。たまらんな!


「いやぁあんたが来てくれて本当に助かってるよ。いままでは手が回らなかった場所がどんどん綺麗になるし、明後日には人手が増えるしね。」


「それは良かったです!」


キララさんを助けて、急いでウォンカ翁に相談したからね。直ぐに男手と女手を送ってくれる約束をしてくれて、それまでは猫の手だけれどお手伝い。


「…本当に、ありがとうね。」


「どういたしまして。」


たぶん、キララさんは気がついてる。私が人手神官を呼んだこと。私が何者かはわからなくても、それが出来る地位にいること。でもなにも聞かないで下らない話をして、一緒にご飯を食べてくれる。それがむず痒いのに心地良い。


「ゼロさんも一緒に食べたら良いのに。」


お迎えに来てくれたゼロさんには、キララさんからお裾分けして貰ったシチューを出す。教会では小さい子達と食べるから、ご飯の時間が早いんだよね。追加でパンとお肉を焼いてフルーツソースをかけてみた。サラダはミモザだぞ!


「いや、俺は…遠慮する。その、泣かれるからな…」


「思いの外傷ついてた…」


若干煤けてるゼロさんに苦笑い。カイくんに連れられて教会に行ったあと、別行動だったゼロさんと合流したらゼロさんを見たちびっこ達が8人泣いて2人が漏らしてしまったもんね。しかも泣くちびっこにすがり付かれて、私は動けず宥めるしか出来なくて、結局ゼロさんが離れたら皆泣き止んでくれたんだけれど。


「ええと、ゼロさん大きいしお顔険しかったからしかたないさ!熊をみたら大人だって戦くよ!」


「慰めているつもりか…?」


「もちろんさ!」


ちょっと面白がってはいるけどな!小さい子供に弱いゼロさんが可哀想で可愛いんだもん。


「皆がお昼寝してるときに教会の修繕している辺り、徳が高いと思ってるよ!」


「その場しのぎだ、明後日には修理屋が来る。」


「でも、お陰で寒さがましになったってキララさんが喜んでたよ?」


「……そうか、」


うむ、うれしそうですな。パンをむしりながら遠くを見てるゼロさんの口角が上がってらっしゃる。


「ゼロさんは子供が好きなの?」


「そういうわけではないが…、まぁ、俺も似たような生活をしていたからな。」


「なるほろ。ちなみに私は子供が好きだ!小さくって可愛いよねぇ。」


柔らかもちもちほっぺとか、小さい手足とか、くりくりな眼とか。ぎゅって抱き締めたくなるしふわふわ柔らかで暖かくて、笑顔が可愛いよね!一生懸命知ってることを教えてくれたり、舌ったらずなのも愛らしさポイントが高いよ!


「ん?なんだい?なんで無言でこっちを見て…ハッ!だ、大丈夫だから!私は紳士だからやましいことはしてません!健全です!」


子供の可愛らしさを熱弁してたら視線を察知。見ればゼロさんにめっちゃ見られてた。ひぃい冤罪なんですお慈悲を!YESロリータ!NOタッチ!断じてぺドではございません!


「…その理屈で言えば、俺も子供が好き…なのか?」


「え、うん?そうなんじゃない?」


「いや、違う…そんなつもりでは…ッ、」


「なにごと…?」


それはダメだとか子供じゃないとか唸りだしたゼロさんが面白い。どうしたのまさかロリコンに目覚めてしまったの?なんて聞くもんじゃないし、お悩みみたいだからそっとしておこう。

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