第13話 推し活と同衾と紫の教皇


「シンジョウッ!」


お腹の圧迫感は人の腕で、回された腕を辿ると険しい顔のゼロさんがいた。え、なんで?何故ここにいるんだい?そんな疑問と湧き上がってくる安心感に言葉が出なくて、むしろ涙が出そうになって唇を噛んだ。


「大丈夫か?…怪我はないか?」


「っ、ないです。大丈夫。」


お返事の声が震えたせいで、向かい合わせで矯めつ眇めつ眺められて覗き込まれた。心配ってデカデカと書いてある青い瞳に思わず笑えば、肩で息をついて笑い返してくれた。わかり易く安心したって顔のゼロさんになんだかムズムズ…って、いやいやラブコメごっこしている場合じゃないわ。じゃあさっきの声誰よ。知らぬ声だったよ?そう聞く必要もなく、ゼロさんが私を背後に庇い、誰かを睨みつけている。


「こんにちは、聖女様。そして、騎士様。」


ねっとり纏わりつく様な甘い声が、耳を舐める。その声に肩が跳ねて、ぞわぞわと鳥肌が立った。さっきの男の声だ。目の前には黒紫の髪にアメジスト色の瞳を輝かせる薄幸美人。おっふ…入れ墨凄いな。本体が儚い系美人なのに腕と顔半分にガッツリ入れ墨が彫られていらっしゃる。


ついさっきまで慣れない暴力に冷や汗をかいて震えていたのに、目の前の見知らぬお兄さんも浮浪者ももう怖くなくて。ゼロさんがいるだけで落ち着いたチョロい自分に呆れて笑いが漏れた。


「はぁあ、素晴らしい…なんて愛らしく美しいのでしょうか。貴女はまるで女神です…。」


「おっとぉ、変人さんか…」


恍惚とした表情で突拍子もない賛美を私に贈ってくるお兄さん。あれ、なんだ?この声、何処かで聴いたことがあるような…というか、なんで距離を取っているのに声が耳元で聞こえるんじゃ。魔法か?


「ああ、そんなに警戒しないでください。私は聖女様の味方…いえ、忠実な犬です。」


「えっ、きmゲホゲホ」


態々言い直して片膝をつく男に、思わず声が漏れた。あぶね、初対面のお兄さんにキモイはダメだわ。紅潮させた頬と潤む瞳が私を映していて、まるで恋する乙女なお兄さん。あいだにゼロさんが割って入ってるからゼロさんとMK5マジで恋する5秒前にも見える。ホモが嫌いな女子なんていないけれど、こんな不審な男に覚えは無い。恰好だけ見れば紫の神官服で、神殿関係者なのはわかる。それからお兄さんが現れてから浮浪者からの攻撃が止まって、視界の端で派手なローブのおっさんが狼狽えているのも見える。


「シンジョウ?どうした、何かされたのか?」


「いえ、なにも…ただ、何だが…、」


どこかで聞いた声だった。それだけが引っ掛かって煮え切らないんですが、何処で聴いたんだろう?ゼロさんと出会ってから、では無い。出会う前?出会う前なら、元の世界で聞いた事になる。


いつ聞いたんだろう…。子供みたいな甘さと大人の低さを混ぜた不安定なこの声を


「聖女様、どうか私のことは『デュオ』とお呼びください。」


「…っ、」


懇願する様はまるで物語の王子様。ふ、とその瞳と視線が絡まると、蕩ける様に微笑まれた。そして、思い出した。


「シンジョウ様…?」


ゼロさんに庇われているまま、私の少し前に困惑顔で立つファタさんとファルマさん。に、見つめられる私の顔は大層赤く染まっていることだろう。


「でぃ、デュオさん…。」


「はい。お呼びですか?」


確認のために名前を呼んでみた。嬉しそうに返事をするデュオさんの声、は…うぉああっ!ダメだ!ダメだこれっ!心臓が爆発四散しそうだっ。落ち着け私、こんな不審者にっ、イヤでもチャンスでは?ええい静まれっ!静まれいっ!


「ええと、聖女様、こちらの方は紫の教皇様です。」


「教皇…。」


おもわず真剣に聞いてしまった私に、敬虔な方で…とフォローしつつ言い淀んでいる。そっか、教皇戦隊シンデンジャーの内の一人だったのか。


言い淀んでるのは、私が赤面しているからですね。うう、すみません。まだちょっと衝撃から立ち直れない。火照る顔に手を当てて冷まそうと試みるけれど、一向に熱が引かない。恥ずかしくて涙出て来たぞい。


「聖女様に拝謁叶いましたこと、心より嬉しく思います。先程、私の部下が聖女様付き神官と行き会いまして。話を聞いたところ、救助要請を受け参上した次第です。」


にこにこ膝をついたまま話すお兄さんの言葉を裏付けるように、デイジーさんとアンネさんがこちらへ駆けてくるのが見える。隣には一緒に駆ける紫のラインカラーが入った神官服を着ている男性。


「…それはありがとうございました。この人達に突然襲われまして、困っていたんです。」


なんとか真面目に返事をする。私は上司、今は仕事中!しっかりしろ私。デュオさんが話す度、跳ねる心臓を手で押さえて、無理矢理落ち着かせようとの試みる。うーん、無駄な気がしてきた。


「そうでしたか、それはさぞ恐ろしかったことでしょう。聖女様の身が危険に晒されるなどあってはならないことです。しかし、ご安心ください。私の方で、この不届き者達の処罰を行いましょう。もちろん、聖女様がお望みであれば、いかようにも。」


その不届きもの中に金色を纏う神官が混ざっているんですが。それに気が付かないはずはないのに、表面上いない者としてお互い話を合わせていた。うぐぐ、派閥争いとか勘弁して。


「いいえ、お任せします。然るべき様に、罰してくだされば。」


この国の法律とかわからんしね。私に罰し方を聞かないでたもれ。投獄でも島流しでも好きにしてくだしあ。ため息とともに吐き出した声は存外重くてメンタルにキているのが自分でもわかる。ああ、早くデュオさんから離れないと何かやらかしてしまう気がするでやんす!


「お任せください。騎士様もいらしたことですし、この後はどうぞごゆっくりお休みくださいませ。」


「ありがとうございます。」


立ち上がり胸に手を当て礼をとる紫の教皇に、軽く会釈を返して踵を返す。くるりんぱ!成り行きを見守っていたアリアさん達を促して、ゼロさんの手を取って、私は早々にその場を後にしたのだ。


この時の私の反応が、あらぬ誤解を生んで、広がるとは思ってもみなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はぁあっ、遂にお会いできた…っ!なんて素晴らしい神聖力の輝き…っ。毎日毎晩毎秒想像していたよりも、本物はなんと尊く、私の想像を軽く超えてしまうのでしょう。」


恍惚とした表情で歌うように、踊るようにくるりくるりと回りながら天を仰ぎ、賛美を並べ立てながら彼の人は嗤っていた。


孤児として生まれた彼は教会で育ち、早々に才能を見出された。希少な神聖力と魔力、両方の力を使いこなし幼いながら浄化を行えることがわかった為だ。


すぐに始まった英才教育は教育者の想像を遙かに超え、彼は一人巣立ってしまった。彼の信仰は教育者の手に負える物では無かったのだ。


「はぁあッ!聖女様、大聖女様ッ、お目通り叶うだけで無く言葉を交わせるなんて夢のようです。貴女様の願いは私がすべて叶えてみせますからね。ああ、勿論安全は騎士様が御守りすると古から決まっていることですから、私は出しゃばったりしませんとも!あああ、なんて幸せなんでしょう!教皇になってよかった!」


紫の教皇デュヴァル・オルタンシア。彼は俗に言う、


「ああ、貸し一つですよ。愚かにも尊き大聖女様に暴言を吐き剰え手を上げようなどと。万死に値します。しかし、貴方は腐っても黄金教皇の駒ですから、腕一つで許して差し上げます…が、次はと同じ道だとわきまえて下さいね。」


「勿論です、ありがとうございます!」


失禁し、ガクガクと恐怖に震える黄金の神官。青ざめ、穴という穴から全てを出し尽くす彼の片腕は無く、自らの回復魔法で閉じたのか醜く潰れていた。


血溜まりに転がる腕は、何に干渉されているのか。めきめきとひとりでに肉塊へと形を変えていく。震え、地に頭を擦り付ける彼の視線の先には、暗がりに蠢く何か。


くるりと優雅にまわるオルタンシアの足下は雨でも降ったかのように濡れ、ぴちゃぴちゃと水音を立て。蠢き脈動する肉塊は、元の形を忘れか細く高い産声を上げるのみ。


「ああ、またお会いできる時を楽しみにしております、大聖女様。」


消えた浮浪者、産声を上げる肉塊。平伏する黄金の神官。機嫌良く歌い踊る刺青の男。


彼は、元の世界で言うところの、『超強火過激派男敬虔なる狂信者』だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


今日は大変でしたね。と、あわあわのお風呂に沈み込む私に、デイジーさんが声をかけてくれる。アリアさんはウォンカさんに報告に行ったよ。ゼロさんは道中も心ここに在らずな感じで、部屋に帰って行った。何回か柱とかドアにぶつかっていたけど大丈夫かな?


「お買い物は凄く楽しかったよ。ありがとう。」


「ふふ、お役に立てて良かったです。」


「折角ですから、新しいナイトウェアに致しませんか?」


「賛成!」


私が寝るときに下着で寝ていたのを見かねて、有能神官なアンネさんがナイトウェアを準備してくれた。それが、こう…凄くよき。まず、生地がうるうるサラサラ。さらにふわふわに柔らかくて、アンダーバストでリボンが巻かれて女子力高め。胸下で結ばれているから寝ていても結び目が当たらず痛くない優秀さで、歩きやすい膝丈なのだ。


「楽しかったけど、明日は今日あったデュオさんか黄の教皇と会うんだよね…。」


ちょっと不安になって髪を拭かれながら言葉にすると、アンネさんもデイジーさんも優しく労わってくれた。うう、好き…。


「私達は、ウォンカ様の命にてシンジョウ様にお仕えさせて頂いております。…ですから、望んで頂ければシンジョウ様の正式な補佐役となれるかもしれません。」


「そっか、じゃあ今回みたいに教会のお世話になる時は、世話係をアリアとデイジーとアンネにして欲しいって、ウォンカ翁にお願いすればいいんだね。」


それならいくらでもお願いする!皆凄く優しくて気を遣ってくれて、本当に助けて貰ったから。そういって笑うと、胸のリボンを結びながらアンネさんも笑ってくれた。


「それでは、下がらせていただきます。」


「うん、また明日ね。おやすみなさい。」


明日のことは明日の私に任せようそうしよう。ベットに腰かけたまま、にこにこ笑顔でアンネさん達を見送る。そのまま10分ほどたっただろうか…そっと立ち上がりドアを開く。うむ、誰もいないな。気になって眠れないから護衛とか立たせないでって初日にお願いしてあるからね。隣室がゼロさんのいる護衛室だから要らんじゃろ。


ということで。


「ッゼロさん聞いて!!!」


ドバーン!とは流石に人が来るからしていないけれど、気持ち的にね。それくらいの勢いでドアを開けたのさ!この興奮を少しでも発散させねばならぬ!!


「…っし、シンジョウ?!なんだ、どうしたんだ?」


「すごいんだよやばいごいりょくしんじゃうあばばば」


丁度寝ようとしていたのかわからないけれど、ベッドサイドに立っていたゼロさんにタックルを決める。そのまま押し倒しちゃったけどベッドだから怪我してないしいいよね?ゼロさんもお風呂出たところだったのかホカホカですな!タッチダウンだ!


「…ッんん゛!ちょっとまて、落ち着けっ!離れろ!」


「これが落ち着いていられるか!否!」


ゼロさんの手が両肩に乗って押されているけど、無駄だ!その程度で私の興奮が落ち着くとでも思っているのかね?甘く見られたものだ!マウントを取っているのは私なのだよ!


「ゼロさん聞いて聞いて、他に話せる人がいないんだよ!」


はよはよはよはよ話を聞いてくりゃれもう無理ですもう喉のここまで、舌の根まで出かかってるんだよぉ!叫ぶのは流石にまずいと分かってるから、代わりに籠る力をゼロさんにぶつけて、ぎゅうぎゅうに抱きしめた。いや、どうせゼロさんにダメージいかないしね。セーフ!ノーカン!いややっぱまずいか?セクハラかこれ。


「ダメ?おねがいゼロさん…。」


やっべ、流石に絞め落とそうとしたのは不味いわ。っていってもゼロさんのマッスルボディ分厚過ぎて背中に腕が回らなかっただけなんだがな。胴体だけでも解放しておこう。馬乗りなのはもう手遅れだからいいや。精一杯困ってるんだぜ、構ってほしいんだぜっ!って空気が…でるかな。届けこの電波!そして話を聞いて!


「あああやわらかいいやおちつけしんじょうにそんなつもりはないはずだいやわざとかわざとおれをためしているのかなんでだやわらかいわかっているのかこんなじかんにおとこのへやにというかなんだそのかっこうはそんなうすぎでこのじょうきょうをわかっているのかさそっているのかこいつはおれにおそわれてももんくはいえないんだぞわかっているのかあああおちつけかわいいしいいにおいがちがうしっかりしろおれ」


「ぜ、ゼロさん?」


目が合った瞬間、バチーン!と結構な勢いで両手で顔を押さえたかと思ったらモゴモゴと何か言ってる。でも聴き取れぬ。こもりすぎててわからん。念仏とモールス信号の狭間みたいな音がしているんだが、ど、どうしたんだいご乱心?過労による乱心なの?


「…降りて、離れろ。」


「ひょあっ…、ご、ごめんなさい…。」


目元を押さえたまま、ものごっついため息?深呼吸?を吐き出したと思ったら、注意されたでござる。こ、怖…ッ怒られるトーンだこれは…!


すぐさま絨毯に正座して謝罪の意を表明する。やっぱり締め上げたのがまずかったんだっ!いや、こっそりくんくんしたのがバレているのやも!お風呂上りで良い匂いだったからつい…どうしよう!


「う、やっぱり部屋に戻ります、おやすみの邪魔してごめんなさい…。」


オタトークを共有できない事よりゼロさんに怒られる方がダメージ大きいからね。しょんぼりしたまま立ち上がって踵を返したら、ぐん、と腕を引かれて後ろに尻もちをついた。onゼロさんの膝の上。…おお?


「で、何の話だったんだ。」


「え、いや、大した用では…、」


ないので、と立ち上がろうとして、お腹に回っている左腕が重くて立ち上がれない。何とかゼロさんの腕をどかそうと奮闘するも、ビクともしない。いや、丸太かよ。どういうことなの。


「俺にしか言えない話なんだろう。…どうした?」


さっき迄とは違う、優しい声色に迷う。うう、くだらなすぎて怒られるんじゃ?うんうん唸っていたら、暇なのかゼロさんの右手が私の右手を握ったり撫でたりして遊んでいる。新感覚スクイーズじゃないんやで?なにが楽しいのか。


振り返ってツッコミを入れようとして、背中がぴったりとゼロさんにくっついていて振り向くのは無理だと気が付いた。おお、とても暖かいなり。筋肉の発熱パワー凄いな。お風呂上がりで効果倍増なのかな。お腹に回されている左腕も適度に重くて暖かいからちょっと眠くなってきた。…癒し効果凄いな?!


「ええと、今日、沢山お買い物できて楽しかったです。」


ひとまずジャブとして、当たり障りのなさそうなところからいこう。マジックリングとバックも買いました。と続けると、そうか、良かったな。と返事が返ってくる。うむ、成功。


「カッコいい服とか青色系の下着とか、皆に見立ててもらったので着るのが楽しみです!あ、旅中に便利な道具も買いました。それも使う楽しみが出来たから、早くダンジョンに行きたい!」


「んん゛、…た、楽しみだな。」


ダンジョンに行く予定だと女性冒険者向けの店主さんに言ったら、ファイヤースティックとか面白い物を沢山見せてもらった。私は神聖力ごり押しの回復魔法しか使えないからね。便利道具、大事。


「それから、助けに来てくれてありがとうございました。よくあの場所がわかったね?」


「ああ、通りから入って直ぐだったからな。」


それでわかるのが普通の事かは判断が付かないけれど、おかげさまで私のメンタルは保たれたから大いに結構である。うむうむ。良き働きじゃ。


「それで、本題なんですが…。デュオさん、いたじゃないですか。」


「…ああ。」


ぎゅう、とお腹に回されている腕に、力が入って引き寄せられた。いやいや…、もう無理だよゼロ距離だもん。そんなことよりも重大な話だから本当に真剣に聞いてほしい。私のそんな心意気が通じたのか否か、背後のゼロさんから真剣な空気が伝わってくる。私も気付いた時は時が止まる衝撃だったのだ。


「…ッマジプリ第四期第16話、『お前らの嫁だろ何とかしろよ!』で敵のモノズキーに魔法で男の子にされてしまったマリカたんの声に、そっくりなんですっ!!」


「…は?」


「だから、マジプリ」


「いや、そこはいい。…声?」


「はいっ!男の子になってしまったマリカたんは魔法が使えなくなってしまうのですこぶるピンチなのですがっ、そんな焦りや不安を押し殺しつつ正義を成そうとするその声を、爽やか好青年ボイスな人気声優様が担当しているんですが、もう凄いんですイメージど真ん中まさにプロ!おんにゃのこのマリカたんはもちろん天使ですが、男の子のマリカたんもそれはそれは素晴らしいショタで甘やかボイスに心臓が鷲掴みで!まさに公式が最大手生まれてきてくれてありがとうオブザイヤー金賞受賞BIGLOVE!はぁあ思い出しただけでも涎がっ!」


興奮を持て余してお腹に回るゼロさんの腕をべちべち叩く。いや、本当にこんなことあるんですね!よく身長が同じだと、骨格が近くて似たような声になるって聞いたことがあるけれどあれはまさしくマリカたん♂の声だった。この世界で、まさか三次元でお会いできるとは!


「…赤面していたのは?」


「声のそっくりさんがいるなら、マリカたんのそっくりさんもいらっしゃるのではないか?などという浅ましい考えが吾輩の脳裏にですね?いやいや拙者わかってますよ?リアルとアニメは別物。わかってますとも。しかしですね、夢を見るくらいならいいかなぁ。なぁんて小生思っちゃったりなんかしてッ!はぁあ、この世界のどこかにマリカたん(似)がいらっしゃるかと思うと、もう、もう!その可能性だけで生きるのが楽しい飯が美味い!」


年甲斐も無くはしゃいで恐れ入りますすみませーんっ!でもそんな夢も見ちゃうよねっだってこの世界、髪の毛はカラフルだわ峰不二子ばりのナイスバディーがごまんと居るわ、顔面良すぎの過密事故だわで、ワンチャン処かスリーカウントとれるよ


「ッはぁあああ…、」


「ゼロさん?」


やべ、一息に捲し立てた所為で酸欠に…つい興奮しすぎて息切れなう。深呼吸しようとして、気付く圧迫感。おや?見れば掴まれている右手と、お腹にまわる腕に締め上げられていた。


「ゼロさんゼロさん、中身でちゃう。」


振り返…れないんだったわ。現在進行形で締め上げられてるサバ折りにされる。結局横向きで停止してしまった私の耳に、


「五月蠅い。反省しろ。」


「えっ、す、スミマセン?」


ゼロさんの重低音ボイスを至近距離で食らって、背中がぞわぞわする。くっ、無駄にいい声しおって。腰抜けたらどうしてくれるんだ!


なんか八つ当たり?されたけど、声に負けて謝罪してしまう。いや、八つ当たりじゃないわ。一般人にキモオタトーク炸裂させてしまったやべぇごめんなさい。マナー違反だわ。


でも、いや、あの、なんだかゼロさんの声が。身体がぞくぞくするんで離していただきたい。


「取り敢えずですね、この感動を共有致したく押し入った次第。」


さっさと締めに入って部屋に戻ろう。一通り話せて少しスッキリしたし。あとゼロさんがぽかぽかですこぶる眠い。ミッション達成なんだぜ。


「ご静聴ありがとうございました。」


「……、」


私の言葉が聞こえていないのか、ゼロさんが黙ってしまって、…え、どうしよう。お腹にまわる腕を外せないか頑張ってみるか?


「へぁっ、」


ぐるん、と視界がまわったと思ったら、ぼすっと間抜けな音を立てて身体がオフトゥンに沈んでいた。


「…ゼロさん?」


うむ、ふかふかであるな。私の部屋のベッドと遜色ないぞ、保証しよう。驚きすぎてとっ散らかった思考回路がショート寸前。


ぎしっ、と音を立てて、ゼロさんの身体が私の身体の上に陰を作る。伸びてきた右手で、頬を撫でられて、そのまま親指の腹で唇も撫でられて。飲み込み切れない状況に、手が大きいなぁなんて、割とどうでもいいことを考えていた。


「…心配した。」


「ごめんなさい。」


不可抗力だけどな!悪い奴がいきなり襲って来たから、私は悪くないよ!とは思うけれど心配させた事実は変わらないので、素直に謝罪する。間髪も入れぬわ。


「お前はもっと危機感を持て。」


「面目次第も無い…。」


ごめんて。いや、むしろ私大分危機感あると思うよ?その証拠にマリカたんボイスのデュオさんについていかなかったしね!人生の最推しボイス相手に理性を保った自分を褒めてあげたい。


「…似合うな。」


「うん?」


「服が、…その、よく似合っている。」


ドレスの時はあんなに無反応だったのに、しどろもどろでも自分から話題にして褒めてくれるとはおもわなかった。目をそらしているゼロさんに、照れてるのかなぁなんて思ったらお腹の底がむずむずして、嬉しくて笑ってしまう。


「…んへへ、ありがとう!」


そうだろう似合うだろう!だってアリアさん達が凄く真剣に選んでくれたんだ。私に似合うものをって。だから、第三者から見ても似合うよ!っていう太鼓判というか、皆の努力が褒められているみたいで、余計に嬉しいのだ。


「…っ、お前は、」


「うん?なんだい?」


褒められてご機嫌な私に、何か言おうとしては金魚みたいに口を開けたり閉じたりを繰り返してるゼロさん。ふむ、なんだろう。


ネクストコ〇ンズヒント!

①内容・言い辛そう

②場所・ゼロさんの部屋のベッド

③時間・夜


はっ、わかったぞ!私が平成初期の漫画だったら、頭の上に豆電球が光り輝いていることだろう。ふっふっふ!超名推理!名探偵と呼んでくれてもいいのだよ!


「一緒に寝る?」


「………はっ?なんっ、おまッ?!」


「あれ、違う?一緒に寝たいのかと思った。」


お、ノット名探偵だったかな?なかなかの名推理だと思ったんだけど。でもゼロさん心配になるくらいお顔が真っ赤ですぜ。図星じゃないかね?


「ゼロさん不在時に不審者が出たから、心配?目の届くところに居た方が安心だから一緒に寝たいって話だよね?」


「……は?」


「うん?」


はよ寝ろってお布団にダイブさせられたんだと思ってたんだけど。そう言ったら動かなくなってしまったゼロさんに首を傾げる。え、まじでノット名探偵か工藤…。ホームズとは行かなくても、エルシャールかポアロくらいにはどうですかね。じっちゃんの歯牙にもかけない感じですか。


「おま、お前の中で男女が同じ部屋で寝るのは、当たり前なのか?」


「必要とあれば?原稿締め切り友達が修羅場の時とか死屍累々で雑魚寝してたけど…というか、ゼロさんも野営で一緒に寝てるよね?」


それを気にするのは今更じゃない?最初は思う所が無かった訳ではないけれど、身体もメンタルも疲労困憊でぐっすりおやすみだったから過ぎたことである。


「いまゼロさんは大聖女の騎士だし、普段の世話焼きっぷりは真面目に『ど』の頭文字がつくから、寧ろ疑うのは失礼かなと思っている!」


そんな可能性を考えるのも無礼かなってさ!ドヤ顔で言い切ったら、なんだか喉に物が支えてる様な、可哀想なモノを見るような顔をされた。解せぬ。いつも私に世話が焼けるとか犬っぽいって言って子供扱いしてくるのは、ゼロさんの方ジャマイカ。ゼロさん視点おこさまな私とアダルトなことになんてならないでしょ。


「…そうか。じゃあ、一緒に寝ろ。」


「いいよ!」


上に乗っていたゼロさんが居なくなったから、私もいそいそとオフトゥンに潜り込む。なんだ、やっぱり名探偵だったじゃないか。ゼロさん過保護だからな!


ふふん、と得意気でオフトゥンに包まっていると、ふかふか具合に負けてすぐに上瞼と下瞼が仲良しこよしのフォーリンラブになってしまう。


今日は色々あって疲れたし、久し振りに供給された萌を語って大満足だった。さっきゼロさん分も補給したからね。


ああ、でもちゃんとおやすみなさいって、いわないと


ベッドが軋む音がする。意識が溶けて吸い込まれる間、頬を撫でられる感触がして、瞼にも、唇にも柔らかさが降ってきて、ゼロさんは撫でるのすきだなぁ。なんて。起きた頃には綺麗さっぱり忘れていたけど。

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