お題その2 心霊スーツ

 遠い未来、人類は遂に「魂」と「肉体」の分離に成功した。

 データ化した魂を精巧な機械の義体にダウンロードして自由動かせるのだ。

 人々はその義体を『心霊スーツ』と呼んだ。

 心霊スーツがあれば、生身の体では行動不可能な場所で活動出来るのだ。

 人類は心霊スーツを使い、銀河中を開拓し勢力圏を拡げた。

 銀河各地から送られる資材で人類は豊かになり、遂には全人類に心霊スーツが行き渡った。

 やがて人類は生身の体を捨て、心霊スーツだけで生活を始めた。

 老化する身体を嫌い、不老不死の義体を選んだのだ。

 この時期から人類の人口は一定になった。

 死ぬ者も無ければ、生まれる者も無かったからだ。

 また長い時間が過ぎて人類は量子コンピュータと無限ストレージに魂データを保存し、電脳空間だけの生活を始めた。

 心霊スーツを捨た人類には、もう豊富な資源は必要無くなったのだ。

 銀河中に拡がっていた人類は、次第に地球へ戻って来た。

 コンピュータとストレージを動かす最低限のエネルギーが有れば良くなった為だ。

 残った少数の心霊スーツの技術者は大宇宙船を建造し、量子コンピュータと無限ストレージをそこへ移した。

 やがて来る地球滅亡から脱出する為である。

 宇宙船が完成すると技術者も心霊スーツを捨てて電脳空間に入っていった。

 人類は地球をも捨てて大宇宙へ飛び出した。

 新しい『ノアの方舟』の出発である。

 全人類の魂データを乗せた宇宙船の目的地は無い。

 恒星やブラックホールなどの障害物が無い空間を選んで自動的に航行するのだ。

 宇宙船内にいるのは保守点検用の自動ロボットだけである。

 宇宙船は永遠に何も無い宇宙空間を飛び続けるのだ。

 人々は電脳空間内で生活を続けていた。

 やがて人々は、電脳空間での他人との関わりを避けて自分の殻に閉じこもっていった。

 自分の殻の中で思うがままの人生を享受していた。

 それは夢を見ている様であった。

 また長い時間が経ち、自動ロボットが故障した。

 ロボット自身を保守・点検する機能が無かったからである。

 宇宙船は次第に機能を低下していった。

 その度に幾つかの魂データは消失していった。

 遂に宇宙船の全機能は停止した。

 全人類は夢を見たまま滅亡した。


 Ende

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