第3話 狐人族の娘と魔族の姫

 そこには大きな建造物をかまえた商店、大小のテントや、布と柱だけの露店が立ち並ぶ。

 

 俺・追放商人ケルアックと暗黒オウム・ヨールキ(今はミニサイズ)が降り立った場所、そこは隠しきれぬヤバい匂いがする街・サンクトヤーネブルグ。


 かつてヨハネと呼ばれる聖者が降臨したといわれる街も、今は『闇商工会』が牛耳っており『闇バザール』が盛大に開催されている。


 ここでは奴隷の売買から、禁止されている薬物や魔法が売りさばかれている。

 かつて俺の掴んだ情報では、国を滅ぼしかねない禁忌(魔導具や魔法生物など)ですら取り扱っているという。


 美人調査官のエレノアも、さすがにこの街には手をだせないだろう。いや、出さないほうが良い。すぐに捕まって極上品として出品されてしまうだろう。


(アイツなら、相当の高値が付くだろうな)

 ふふふ、いらぬことを考えてしまった。


「そこのオウムを連れたお兄さん、遊んでいかないかい?」

 娼館の客引き姉さんに声をかけられる。


「今日は奴隷を買いに来たんだ、安い奴隷を扱っている店を知りたいんだ」

「ぎょっ、お兄さん見かけによらないねぇ、それなら……」

 客引き姉さんは考える素振りをみせるが、チラチラと時折こちらをみる。


(コイツめ、俺が布の服という身なりだから舐めてやがるな)


 俺は、マサヒコ君から貰った銀貨を数枚にぎらせる。

 姉さんの顔つきが変わる。


「そうね、信頼がおけるところならティムティム商会ね。あの青と黄色の旗が立っている建物よ」

「わかった、ありがとう」


 俺は、ふたたび客引きの姉さんに銀貨をにぎらせる。

 この世界では、『ニセ情報なら、お前を殺しに戻って来る』という意味だ。


 □


 青と黄色の旗がなびく建物に入ると、中は吹き抜けの広いつくりになっており奴隷の入った檻がならんでいる。

 かつては聖者が祈りを捧げたであろう建物が、今は奴隷市場の一角となっているのは皮肉な話だ。


 こっそりと【探知】【鑑識】の魔法をとなえ、優秀な奴隷を探す。

 俺が買いたい奴隷は潜在的に魔法の才能に秀でた奴だ。


「なっ!?」


 ふたつの強力な反応を、いきなり探り当てる。


 ひとつ(一人)は魔法の才能はあるが瀕死の状態。

 もうひとつ(一人)は魔力から生命力から特殊能力までほとんどのステータスが、チート級の化け物(人だろうが)……だが強力な力で封印されている、なぜこんな奴がここにいる。


 俺はその化け物(人物)がいるであろう部屋の前へいく。


「これはこれはお客様、この部屋に興味をお持ちとはお目が高い」

 振り向くと、中年の物凄いタレ目の支配人が背後から声をかけてくる。


 かなり制度の高い【探知】【鑑識】で探ったからな。

 並みの魔法使いでは、見つけきれないだろうよ。


「お客様、この部屋にいる奴隷はSSS級冒険者が五人がかりで捕らえた魔族の姫でっせ、見物料が金貨一枚(一万円)かかりますがどうされます?」

「見物料だけでそれかっ」


 しかし俺は興味をおさえきれず、見物料を払い部屋に入る。


 むむっ、これは。


 結界の張られた部屋には、肘と膝から先を切り落とされ、冷凍魔法により凍らされた裸の魔族の姫の姿があった。

 手足・胴・首・股を鎖で柱に固定されており、魔力を封じる札がいくつも貼り付けられている。


「なんでも災厄級の存在とか。強力な魔法で眠らせた上に、呪符で魔力を封じて凍らせています」


 俺は、支配人の説明も上の空に魔族の姫を眺める。

「……美しい姫ではないか」


「ほう、姫のこの姿に気圧されるどころか美しいとは。それに、肩にのせていらっしゃるオウムはS級の召喚獣ではございませんか?

 布の服という外見にだまされませんぞ、お客様は一流の冒険者とお見受けいたします」

「ははは、そういうアンタも一流の闇商人だな」


 支配人の垂れた目がさらにタレる。

 一流は一流を見抜くって話か。


「なあ支配人、この姫の価格は?」


 支配人がぼそぼそと耳打ちする。

 その額……白金貨三百枚(三億円)。


 まあ、それくらいの価値はあるだろう。


「……必ず買いに来る、今は手持ちがない。これはご挨拶と考えてくれ」

 俺は金貨三枚を渡すと、部屋を出て先ほどの【探知】【鑑識】で反応があったもう一人のいる檻へと向かう。


 □


 たどりついた檻の中には、狐の耳が頭部にある人型の腐ったものがあった。

いや、腐ったものではなく狐人族の娘なのだが、実に酷い状態だ。臓器や手足の一部は欠損すらしている。


「支配人、コイツ生きているのか?」

「生きております。ええ、狐人族こじんぞくの娘です、歳は十六かと。数年前に一族ごと体が腐る呪いを受けて生き残った唯一の者なのですが……」


 確かに外見はひどい状態だ。

 しかし、悪魔からインストールされた魔法の知識により、解呪から身体の回復、すぐれた魔法使いへの教育、その過程が俺の頭のなかであざやかに描かれた。


 大丈夫だ、何とかなる。

 殺された相棒クライドにかわり、最強の片腕に育ててやる。


「お客様、まさか」

「その、まさかだ。コイツを買い取ろう」


 支配人のタレ目が見開かれる。

「さすがはお客様、一流の冒険者と見込んだ私の目は確かでした。この娘は強大な魔力を秘めた狐人族のエリートだったのですが、とある魔法使いの呪いのせいでこんな目に……」

 支配人は言葉をつづけた。

「あなた様を見込んでお願いします! どうか呪いを解いて体を戻してやってくださいませ」


「いくらだ?」

「引きとって頂けるなら……奴隷契約料と、今までの食費や生命維持費が、かかっているので、金貨一枚でいかがでしょう」

「安い、買った」


 金貨を支払うと、支配人の持つ魔道具で娘との奴隷契約が結ばれた。

 互いの血を垂らした契約書に互いの名を記し、奴隷契約は完了した。


「狐人の娘、お前の名前は【ワッフル】だ」


 狐人族の娘にはワッフルという名を与えた。


 支配人が用意してくれた柔らかい布で彼女をくるみ、建物を後にする。あと、支配人は着替え用の服もプレゼントしてくれた。


 街の物陰から、暗黒オウムのヨールキと瀕死の状態のワッフルを連れてワープの魔法で『秘密基地』へ飛ぶ。


 待ってろよ、いまから呪いを解いて体を回復させてやるからな。



 

 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 手探り状態で書いていますので★や♥をもらえると本当に嬉しく思います。

 明日は5話まで投稿します。

 フォローして追って頂くと嬉しいです。

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