第4話 ワッフル、元気にしてやるからな

 ワープの魔法を使い、暗黒オウムのヨールキ(今はミニサイズ)と奴隷として買った狐人族の娘ワッフル(瀕死)をつれて『秘密基地』へと帰った。


 秘密基地と言っても、庭と畑のある木造の民家だ。


 場所はマサヒコ領内の森の奥だ。

 木に囲まれており、空気はうまい。


 一応マサヒコ領内でもあり対魔結界の力が及んでいるためS級の召喚獣ヨールキは魔力を抑えている。

 ちなみに無理に魔力を開放すれば、大ダメージを受けるか、遙かとおい所へ吹き飛ばされてしまう。



 さてさて、早いところ呪いで瀕死状態のワッフルを治療せねばならない。

 まずは、根本原因の呪いを解かねばならない。


 今はフカフカの布にくるみ、木の床に寝かしたワッフルに【解呪】の魔法をかけてみる。


 パッカーン。

 魔法は跳ね返される。


 むっ、駄目か。

 やはり並みの魔力では効果がないようだ。


 ならば。

「うおおおおおおおおっ」

 魔力を最大限に開放する。

 ガタガタ……木造の民家は魔力の力場に耐えきれず崩壊をはじめる。

 ヨールキはパタパタと窓から外へ一時避難していく。


【回復】【防御力強化】の魔法を家にかけて崩壊を防ぐ。


「もう一度いくぞっ! 解呪!」


 閃光が周囲を照らすと、ワッフルを覆っていた禍々しい気がスッと抜けてゆく。

 部屋の中の雰囲気もとたんに良いものになった。


(よし、呪いは解けた! ぐっ、しかし体と精神がきついぜ)


 何事でも全開フルパワーで能力を使用すると反動がくる。

 残された魔力で【浄化】【除菌】【化膿止め】【痛み止め】の魔法を彼女にかけて、俺はバッタリと倒れた。


 現在 MP 0/999 って状態。


 天井を眺めながら、ふうっと息を吐いた。

 ワッフル、すまないが治療開始は、すこし休んでMPが回復してからだ。



 どんな目的かはわからないが、相当に腕のたつ魔法使いが彼女に呪いをかけていたのだろう。

 まあしかし、悪魔から授かった俺の魔力のほうが強かったようだ。


 おや?

 横を見る。


 ワッフルを包んだ柔らかい布が規則的に動いている。どうやら、呼吸をする能力を取り戻したようだ。

 今まではかろうじて細胞が呼吸していたにすぎなかった。

 呪いが解けたことで、自己再生能力も強く働き出したのかもしれない。


 こいつの秘めたる魔力は鑑識したところ俺より強い。

 悪魔がくれた『最強の魔法能力』より強いってどんだけよ、と思うが……細かい事は考えないでおこう。


 

 ああ、ダメだ、眠たくなってきた。




 = = = = 王都、とある魔法使いの屋敷


 「……!」


 わずかに青みがかった銀髪、ゆるいウェーブヘアの青い目をした女魔法使いメリッサ。

 年齢は人間の見た目で二十歳くらいであろうか。


 ベッドで男とむつみ合っていた彼女は、木棚に置いてあった一つの黒水晶が砕け散ったのを確認する。


「メリッサ、どうした?」

 

 男は、白くスレンダーな彼女の背をなでる。


「黒水晶の寿命が尽きたようです、グレイヴスターン伯爵」

「あの黒水晶は、たしか」


「ええ、五年前、狐人族にかけた呪いに用いたものですわ。さすがにもう狐人族は、誰ひとりとして生きてはおりませんでしょう」

「王国の脅威となる存在は、些細なものでも潰しておくに限る」


 メリッサの怪しく切れあがった青い瞳が、グレイヴスターンと呼ばれた男を見つめる。


「王国の脅威ではなく……でしょう? うふふ」

「ふむ、頼りにしておるぞ、メリッサ」


 男は強く両腕で、女魔法使いを抱きしめる。

 メリッサの瞳が閉じられると、男の体へと深く沈みこんでいった。




 = = = = ふたたび主人公ケルアックの秘密基地


気づいたら朝だった。


一休みするつもりが、一晩熟睡してしまったようだ。魔力(MP)を使い果たすとここまでダメージがくるものなのか。


思いっきり腕を伸ばす。

熟睡したおかげで良い目覚めだ。

MPをゼロまで消費したのは初めてだったので、良い経験になった。


ヨールキが何度も往復して運んでくれた木の実(リンゴ、オレンジなど)をジュースにして飲んだ。


「甘くて美味い!」


ワッフルの体が回復したら、彼女にも飲ませてあげよう。



ワッフルをくるんでいた布をひろげ、彼女の状態を観察する。



頭部にキツネの耳と、お尻に尻尾があるのがわかる。

そして、骨と皮だけになった体のあちこちが腐りっている。ひどい所は腐り落ちている。

臓器もかなりダメージを負っているようだ。


(可哀そうに……)


【腐敗止め】【再生力強化】【細胞正常化】の魔法をかけると、ワッフルの体がわずかに輝く。

いいぞ、彼女の魔力そのものが反応して、本能的に生きる意志がわき上がっているのだ。


すこし時間をおいてフルパワーで【四肢再生】【臓器再生】の魔法をかける。


「はああああっ!」


我ながら少々やかましいかな、声を出さずに出来るようにしたいな。


また魔法力場の影響で家がガタガタ崩壊しそうになった。

しかし、昨日の反省をふまえ家の弱いところは木材で補強しておいたので、倒壊することはない。


キラリ。


ワッフルの体の所々がさっきより強く輝く。

彼女のもつ魔力の放つ輝きと、細胞自体が体を再生するときに放つ光ってやつだ。


「ぐふっ」


またも、魔法フルパワー開放のダメージが来たようだ。

木の床にぶっ倒れる。

かなり、眠いぜ。


ワッフルの所まで這い、彼女に柔らかい布をかけてやる。


(がんばるんだぞ、ワッフル!)


家の周囲はヨールキに見張ってもらっている。危険が近づけば起こしてくれと伝えてある。


俺はまた、深い眠りに落ちた。


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