第2話 地下牢獄の悪魔

 魔物だ。


 空から飛来する巨大なオウムは、急降下しながらクチバシを開くと、炎を吐いてきた。


(か、身体からだが反応出来ねえ!)

 俺はギルドを追放されたとはいえ商人であり、戦闘のスキルなど持ってはいない。


 ズシャアッ!


 奴の吐いた炎は、俺の真後ろあたりを直撃する。

 振り向くと一匹の犬型の魔物が黒焦げになっている。どうやら、この黒焦げは背後から俺を襲おうとしていたらしい。


「我が主ともいうものが、コボルド(犬型の魔物)の存在にも気づかないとは情けない」

 巨大オウムが俺の近くまで降りて来て喋る。


「一年ぶりに外にでたからな、油断したんだ。助かったぜ」


 俺の前に着地したのは、人間の二倍ほどの体をもつ魔物【暗黒オウム】だった。


 (ふむ、この場所に現れたということは、対魔障壁の張られた人間領には侵入できなかったのか)


 暗黒オウムは「俺は暗黒オウムのヨールキ様だ、よろしく頼むぜ」と言うと、十センチほどの大きさに変化し俺の肩に飛び乗った。

 ほほう、コイツは自身の大きさも変えられるらしい。


 ―――― この暗黒オウム・ヨールキの正体は、俺が牢獄のなかで召喚した魔物だ(現実的に俺の元へやって来たのは今だが)。



 なぜ、商人の俺が魔物を召喚できるのか?

 まずはそこを説明しないといけないな。



 = = = = 俺が投獄された日


 投獄された牢は、地下牢の中でも一番地下深い部屋だった。


 牢番は領主マサヒコ君の配下であるだけに、俺を丁寧に扱ってくれた。


 暗い牢屋の床をじっと眺めていると、そこにはずいぶん昔に書かれたであろう魔方陣が刻み込まれていた。


(はて、これは一体なんだろう?)


 俺が首をかしげていると、その仕草に気づいた牢番が一枚の紙を『マサヒコ様からの手紙でっせ』と、そっと俺に渡してくれた。


 その紙には、怪しげな呪文が印刷されており

 俺は小声で読んでみた。

 牢番は、気を使ってだろうか、他の場所の見回りにむかった。


 ズゴゴゴォ、パシィ!


 「何だっ?」

 

 昼間に彼からもらっていた宝石がポケットの中で爆発すると、魔法陣が怪しく輝く。



「あわわわ」


 俺は腰を抜かして驚く。

 魔法陣の中から、一体の悪魔が出現したからだ。


 人間の三倍ほどの大きさの直立した黒ヤギが、邪悪そうな眼で俺を見つめている。


 ・地下の牢獄の魔法陣

 ・呪文を読む

 ・宝石が砕け散る

 このシチュエーションから考えて、こいつは『悪魔』で間違いない。


《我はマサヒコの家に仕える悪魔である、我を呼び出すとは彼の生家フジマウント家の危機であるに違いない》


「いやまあ、マサヒコ君は、べつに危機ではないが」


《お前に、チート能力を授けよう》


 俺の言葉を一切無視して、黒ヤギ悪魔はサイコロを取り出すとポイと放り投げた。

 家の危機に呼び出されて、チート能力を授けるのがコイツの仕事のようだ。


 コロコロ……、サイコロは転がる。


【1】


(1だと? くれるモノなら何だって良い、景気の良い能力をクレ!)


《 1 最強の魔法能力 を授けよう 》


 何!

 ありがてぇ! 魔法能力か! 

 これで無一文でも王国への復讐が果たせるぞ!


《ただし注意点として、お前の攻撃力と防御力はゼロに落ちる!》


 ふっ、問題ない。


 魔法には攻撃力や防御力を倍増する奴がある。それに、敵を攻撃する魔法だってあるのだ。

 商人の俺でも、それくらいは知ってるさ。


《あ、言っておくが攻撃力と防御力がゼロになるってのは

 敵に対して『『いかなる攻撃と防御の手段を持てない』』て意味だからな。

 攻撃魔法を敵に向かって使用することは不可能だぞ》


 何!

 それだと、攻撃が出来ない上に、一撃でも敵の攻撃を喰らえば即死ではないか!


 厳密に言うと『生命力(HP)以上の攻撃を食らうと』って話だけど、俺の体力(=HP)は一般人より低い。まともな攻撃を食らったらアウトだ。


 悪魔はニヤニヤと笑いながら俺を見ている。

 マジ悪魔だな、コイツ。


《それにゼロには何を掛けてもゼロだ。よって攻撃力・防御力の倍増魔法も意味がないからな》


 むむう……。


《では、時間がないのでチート付与はサッサとすますぞ、では健闘をいのる》


 ピカピカッ


 一瞬だけ周囲が輝き、黒ヤギ悪魔は姿を消した。


 おおっ!?


 気が付くと、とてつもない量の魔力(MP)が体の奥に湧き出ているのを感じる。また、頭脳には膨大な量の魔法の知識がインストールされている。


 試しに【照明】の魔法を唱えて見た。

 俺の牢獄内が地上のように照らされた。


 す、すげえ!


 しかし、攻撃力・防御力がゼロになるとはどういう事だろうか……?

 試しに、……見回りに来た牢番にお尻を叩いてもらうか。


 お願いされた牢番は変な顔をしつつも、俺のお尻を軽く叩く。


 パンッ、パンッ


「あっ、ぎゃあああああああああああああああ」

 反対の壁まで俺は転がる。

 金玉を蹴られたような衝撃が俺を襲う。


【回復】の魔法を尻にかけて、痛みをやわらげる。

 やべえ、防御力ゼロ……マジでやべえ。



 それから一年間、投獄生活が始まる。

 ワープの魔法を使えば脱獄も可能なのだが、俺を逃がしたことでマサヒコ君が王国から罰せられる恐れがある。


 それでも、正直いって一年間の牢獄暮らしは悪くはなかった。

【照明・清掃・快適温度】の魔法で、室内環境をととのえた。

 マサヒコ君が手を回して、そこそこマシな食事を届けてくれたし、週刊誌や本の差し入れもくれた。

 しまいにはマサヒコ君に頼んで、牢番は俺好みの女に変えてもらった。



 相棒クライドの敵討ちと、王国への逆襲(とりあえずは、あの美人調査官エレノアをヒイヒイ言わす)を心にちかい

 様々な魔法の練習をしつつ、体も鍛えた。


 さまざまな筋力トレーニングを己に課し、その場かけあしで持久力を鍛えた。

 コツコツと努力する俺を牢番の女は応援してくれた。

 多分俺に惚れたにちがいない。

 目標と応援があると人は頑張れるものだと身をもって知った。


 一年がたつ頃には、俺は各種魔法のテストを終え、体も一般人並みに鍛え上げられていた。


 = = = = 話は今に戻る


 てな話だ。

 長い話を聞いてくれてありがとう。



「ところで我が主、名前をまだ聞いておらぬぞ」

 肩にとまった暗黒オウム・ヨールキが渋い声で俺に問いかける。


 傍目には群青色の品のよいオウムに見えるだろう。


「ああヨールキ、俺の名は商人ケルアックだ。まあ商人ギルドからは永久追放の身だから追放商人ってやつかな」

「承知した。で、我が主、これからどうなさる?」


「そうだな最終目標は、この腐った貴族の支配する王国をぶっ倒すことだが、中間目標としてエレノアっていう調子に乗った女をヒイヒイ言わせることだ」

「御意、早速王都へ飛び、そのエレノアって女を捕えてまいります」


 ヨールキの体が巨大化しようとする。


「イヤイヤ待て、王都には極上の対魔障壁が張り巡らしてある。強大な魔力をもったヨールキでは侵入できんぞ」

「そ、そうでした」


「とりあえずは、人間の部下が欲しい。奴隷市場に行ってみるか」

「御意のままに」

「ヨールキは魔力を消して、俺の肩に乗っていてくれ」

「承知した」


 俺は、【ワープ】の魔法を使い、ヨールキと共に『暗黒商工会』が支配する『闇バザールの街・サンクトヤーネブルグ』へと飛んだ。


 とびっきり可愛くて、従順な、俺好みの、何でも言うことを聞く奴隷がほしい。

 ニヤニヤしながらサンクトヤーネブルグに乗り込んだ。



 ■

 

 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 そろそろヒロイン登場の予感です。 

 

 手探り状態で書いていますので★や♥をもらえると本当に嬉しく思います。

 本日は次の3話まで投稿します。

 

 フォローして追って頂くと嬉しいです。

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