第24話 大切な時間

それも今度は唇を使って塞がれてしまったのですから驚きを隠すことができませんでした。

さらには舌まで入れてこられたものですから堪ったものではありません。

戸惑いを感じずにはいられなかったのですが、

それ以上に心地良さを感じてもいたのも事実でしたので次第に受け入れてしまっている自分がいることに気付きました。

こうしてしばらくの間、濃厚な時間を過ごし続けた結果、頭の中が真っ白になって

何も考えられなくなった頃を見計らってゆっくりと離れていったので、

名残惜しそうな表情を浮かべながら物欲しそうな目で見つめていたことだと思います。

その様子を見た途端、自然と笑みが溢れてきて、もっと欲しいと思ってしまったが最後、

無意識のうちに自分から求めてしまっていたようです。

そのことに気付いてハッとして我に返った時には既に遅く、

自分の痴態を自覚したことで羞恥のあまり顔を真っ赤に染め上げながら俯いていると、

不意に頭を撫でられる感触があり、その瞬間胸の奥底から熱いものが込み上げてくるような

感覚に襲われた私は無意識のうちにその手を受け入れていました。

そうするとやがて満足したのか離れていく気配を感じ取った途端に寂しさを覚えてしまい、 無意識に引き止めようとしていました。

ハッと我に返りながらも急いでその場から立ち去ろうとする背中に向かって、

消え入りそうな声で呟くことしか出来なかったけれど、その言葉だけはしっかりと届いたようで、

歩みを止める素振りを見せながらも振り返ることなく立ち去っていく姿を

見送ることしかできなかった自分を情けなく思う一方で、これで良かったのだと

自分に言い聞かせることで平静さを保とうとするものの、 頭の中でグルグルと巡る思考とは

裏腹に身体の方は正直で、先程の出来事を思い返しただけで胸の奥がきゅんっと疼くような感覚に陥り、

思わず内股を擦り合わせて身悶えするような状態が続く中で、ふと脳裏を過ぎったものがあった。

(これってもしかして恋しちゃってるのかなあ……?)

そんな風に考えるようになってからというもの、仕事中でも度々ボーッとしてしまうことが多くなったように思う。

そのせいでミスをする回数も増えたし、その度に注意されることもあって嫌になることもあったけど、

不思議と嫌な気分にはならなかったっていうかむしろ、叱られることを心のどこかで

待ち望んでいる節さえあったほどだったりするわけで、つまりそういうことなんだろうなって思うようになりました。

でも、その一方で未だにどうしてこうなったのか分からないということもあるんです。

その理由についても考えていかないといけないんじゃないかなって思ったりしたんだけど、

いまいちピンとこないと言いますか、いくら考えても答えが出ないんです。

それにここ最近は特に忙しくなってきて残業が増えたのもあって精神的に参っちゃってる状況だし、

このままいくといつか倒れちゃうんじゃないかっていう心配もあるんです。

そうなると困るなーって思ってるんですけど、なかなか上手くいかないもんだなあって感じです。

あーあ、どっかに気分転換できるような場所はないもんかなぁ?

そんなことを考えながら今日も今日とて仕事に勤しんでおりますよ、はい。

そんなわけで、本日のお勤めを終えた私はいつものように電車に乗って最寄り駅へと

向かっている最中のことだったんだけど、ふいに車内アナウンスが流れた瞬間、

あることを思い出すや否や急いで鞄の中からスマホを取り出すと

その画面に表示されている内容を確認すべく操作し始めたんだ。

というのも、そこには驚くべき内容が表示されていたから。

なんと、そこに書かれていた内容はただ一つだけだったんだ。

しかもその内容というのは、たった一言だけ書いてあっただけなんだけど、

それがかえって効果抜群だったからなのか知らないけど、

それまで沈んでいた気持ちが一気に晴れやかなものとなったのを感じたんだ。

そればかりか、心なしかテンションまで上がってきたような気がして、

心の中でガッツポーズを決めるほどだったんだけど、

そのおかげで帰路に着くまでの間、ずっとルンルン気分で

過ごせたのは言うまでもないことだったと思うんだ。

そして無事に最寄り駅に着いた後は足早に自宅へと向かうと、

玄関のドアを開けるなりそのままベッドへダイブするという暴挙に出たりもしたんだけど、

それくらい嬉しかったんだと思うよ、うん。

まあでも無理もない話だよね、なんたってあれほど欲しくてたまらなかったものが手に入ったんだから、

そりゃあ舞い上がっちゃうってもんでしょうよ、うんうん。

もちろん、喜びに浸るのもいいのだけれど、いつまでも浸っているわけにもいかないわけで、

次の行動に移ることにしたんだ。

具体的に何をしたのかと言うと、まずは相手の素性を調べるために動き始めることにしたというわけで、

これがなかなか大変だったんだけど、なんとか見つけ出したというわけですよ、

いやあ苦労した甲斐があったというものだ、うんうん。

ちなみにその人の名前は石倉友也君と言いまして、

年齢は28歳で独身で彼女いない歴年齢と同じっていう悲しい男なんですよ、

ええ、まあその点については同情の余地はあると思いますが、

それはそれとして本題に戻りましょうか、はいはい。

それで調べた結果判明した事なんだけど、何と彼には双子の弟がいるらしいことがわかったのです。

しかも、その名前がこれまた驚いたことに、彼の名前は石倉洋介と申しまして、

年齢は27歳、独身で彼女もいません。

それどころか過去に一度たりとも交際したことがあるとかないとかもわからない正真正銘の童貞でした。

いや、別に馬鹿にしているわけじゃないんだよ、本当だからね、

信じてほしいところだわ、うん。

それにしてもまさかこんな身近に同類がいただなんて夢にも思わなかったからさ、

ちょっとビックリしちゃったんだよね、あははっ。

まあ、そんなこんなでお互いに秘密を共有し合っている仲になった私たちは、

今ではすっかり親友と呼べる間柄にまで発展しておりまして、

最近ではよく一緒に飲みに行ったりカラオケに行ったりする仲になっているんですよね、はい。

「ねえ、今日はどこに行こうか?」

そう言いながら隣に立っている彼が問いかけてきた。

「そうだねぇ、どこがいいかなー?」

などと言いつつ、適当に辺りを見渡してみたところ、

ちょうど良さそうなお店があったので指差して教えてあげると、嬉しそうに微笑んでくれた。

そんな彼の様子を見ていたらこっちまで嬉しくなってきちゃったりして、何だかくすぐったい気持ちになった。

そんな事を考えている間に目的地に到着したみたいで、

店内に入ると店員に案内される形で席についた私たちだったけど、

メニュー表を見ながらあれこれ悩んだ挙句、結局は無難なものを選んでしまうあたり、

我ながら情けないとは思うものの、こればかりは致し方ないと思っている部分もあるわけで、

結局のところ諦めの境地に至っているというのが正直なところかもしれない。

とはいえ、せっかく来たんだから楽しまなきゃ損だという持論に基づき、

美味しい料理を堪能している内に時間は過ぎていき、

そろそろ帰ろうかという話になった頃にはすでに終電間近になっていたこともあり、

慌てて会計を済ませてから店を出た直後、駅に向かって歩き出したその時、

不意に腕を掴まれたような気がしたので振り返ると、

そこにいたのは先程まで一緒だったはずの人物の姿があった。

一体いつの間に追いついてきたのか不思議ではあったが、

それよりも今は目の前にいる相手の方が重要だと思い直し、

声をかけるべく口を開きかけた矢先、先に言葉を発したのは向こうの方であった。

曰く、これから少し付き合ってくれないかとのことらしい。

特に断る理由もなかったので了承すると、安堵した様子を見せつつ安堵の溜息を漏らしていたが、

一体何が目的なのかさっぱり分からないままついていく形で歩き続けているうちに

辿り着いた先は人気のない路地裏にある寂れた公園であり、

そこのベンチに腰掛けるよう促されたので言われるままに腰を下ろすと、

おもむろに口を開いた相手が発した言葉は意外なものであった。

何でも、以前から気になっていたことがあるそうで、それについて教えてもらいたいということだったのだ。

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