第21話 別れは辛い

「おはようございます」

と挨拶をした時に、 彼は笑顔で応えてくれました。

そして、 そのまま朝食をいただくことになったのですが、

その際に彼が私の口元についていた米粒を取ってくれたんです。

それがとても恥ずかしかったんですけど、同時に嬉しくもあったので複雑な気持ちになりました。

でも、そんな私の様子を察してか、彼は笑いながらこう言ってきました。

「お前って本当に可愛いよな」

と……その言葉にドキッとした私は、思わず俯いてしまいましたが

それでもなんとか平静を装って返事をすることができたのは我ながらよくやったと思います。

それからというもの、彼とのデートはとても充実したものになりましたし、

何より彼の優しさに触れることでますます彼のことが好きになっていったのです。

ただ、一つ気になることがありまして、

それは彼が時々見せる寂しそうな表情が気になっているんです。

何か悩み事でもあるのでしょうか?

もしそうだとしたら力になってあげたいと思うのですが……なかなか聞き出せなくて困っています。

そんなある日のこと、いつものようにチャットで会話していた時に突然彼からこんな提案をされました。

その内容というのがこうである。

(今度二人でどこかに出かけないか?)

というものだったのだ。

もちろん断る理由などないので二つ返事で了承したわけだが、

問題はどこに行くかということである。

というのも私はあまり遠出をするようなタイプではないので近場で済ませるつもりでいたのだが、

そこはやはり彼も同じだったようで、特に行きたい場所があるわけではないということが判明したのである。

しかし、そうなるとどこに行けばいいのか全く分からないため、

とりあえず私が行きたい場所を聞いてみることにした。

そうすると彼はしばらく考えた後こう答えてくれたのである。

(実は俺さ、ずっと前からお前のこと好きだったんだよ!)

と……それを聞いた瞬間頭が真っ白になってしまったのと同時に顔が熱くなるのを感じました。

まさか彼が私のことを好きだったなんて思いもしませんでしたから、

驚きと同時に嬉しさが込み上げてきたんです。

それからというもの、私たちは毎日のように連絡を取り合っていたのだが、

ある日、彼からこんな提案をされたのです。

それは、今度二人で旅行に行かないかというお誘いでした。

しかも海外旅行だと聞いて更に驚いてしまったのですが、

それでも彼の好意を無駄にするわけにはいかないと思い了承することにしたんです。

そして当日になり空港に到着した後は手続きを済ませた後、

飛行機へと乗り込み目的地へと向かいました。

到着までの間ずっとドキドキしっぱなしで心臓が爆発しそうでしたけど、

なんとか耐え抜くことができたのは我ながらよく頑張ったと思います。

そうして無事に到着した後はホテルにチェックインした後観光名所を巡ることにしたんですが、

そこでも様々なトラブルに見舞われてしまったんです。

例えば、道に迷ってしまったり、財布を落としてなくしたりと散々でしたが、

そんな時に助けてくれた人がいたんです。

その方は親切にも道案内までしてくれて本当に助かりましたし感謝の気持ちでいっぱいです。

また、食事中にもトラブルがあって、注文した料理とは違うものが

運ばれてくるという事態にも遭遇しましたが、

その際にはお店の人がわざわざ謝りに来てくださったので怒るに怒れませんでした。

そして、最後の夜には彼と愛し合ったわけですが、

その時のことはあまり覚えていないというのが正直なところです。

まあでも、とにかく楽しかったということは覚えています。

「ありがとうございましたー!」

と言ってお見送りしてくれた店員さんに手を振りながら店を出たところで

時計を見ると午後7時を少し回ったところだった。

夕食を食べるために近くのレストランに入ったのだが、

店内はまだ混み合っており空席を探すのに苦労するほどだった。

結局カウンター席しか空いていなかったためそこに座るしかなかったのだが、

正直言ってあまり良い気分ではなかったな〜と思いながらメニューに目を通していたところ、

隣の席から何やら話し声が聞こえてきたので耳を傾けてみると、

どうやらカップルのようだということがわかってしまったのである。

しかも聞こえてくる内容から察するに彼氏の方が彼女を口説いている真っ最中のようだったので、

見ているこっちが恥ずかしくなるくらいにイチャイチャしていて、思わず目を逸らしてしまいたくなったほどだ。

「なあ、いいだろ?」

とか言いながら彼女に迫っているような声が聞こえてくる度に

ドキドキさせられてしまうというかなんというか、

とにかく落ち着かない気持ちになっていたんだが、

それでもなんとか食事を済ませた後、店を後にすることができたのでホッとしたものだ。

そうしてホテルに戻った後は明日に備えて早めに寝ることにしてベッドに入ったわけだが、

なかなか寝付けずに困っているうちにだんだん眠くなってきたのでそのまま眠りについたのだった。翌朝、目が覚めると隣に寝ていたはずの彼がいなくなっていたことに

気づいた私は慌てて飛び起きると部屋の中を探し回ったもののどこにも

姿が見当たらないことがわかったため、ひとまずフロントに連絡を入れてみたところ、

彼は既にチェックアウト済みだということが判明して愕然としてしまったものである。

つまり、彼にはもう会えないかもしれないということだからだ。

そう思うと急に寂しくなって泣きそうになったものの、

ここで泣いていても仕方がないと思ったので気持ちを切り替えてから

荷物を纏めると部屋を出て行くことにした。

その後はロビーを抜けて外へ出たところでタクシーに乗り込んだ後で

行き先を告げると出発した直後に涙がこぼれてきて止まらなくなってしまったのだ。

それほどまでに彼に心酔していたということなのだろうが、

今となってはどうすることもできないという思いが強かったため諦めるしかないだろうと

思っていたところに思わぬ形で再会を果たすことになったわけである。

というわけで、今現在私が何をしているかというと、

目の前にいる男性に対して必死にアピールをしているところだ。

というのも、この人は私が以前付き合っていた元カレであり、

最近偶然再会したばかりなのだが、どうも様子がおかしい気がするんだよね?

どこか上の空っていうか、まるで何かを隠しているかのような感じがするんだけれど……でも、

それを問い詰めるような勇気はないわけでして……どうしたもんかなと

思っていた矢先の出来事だったものだからつい反射的に声をかけてしまったのだけど、

結果的にはこの選択が正解だったのかもしれないと思う今日この頃であります。

「あの……ちょっといいですか?」

思い切って声をかけてみると、その人は驚いたような顔でこちらを

振り向いたかと思うとハッとしたような表情を見せた後、すぐに笑顔になってこう言ったのである。

「はい! なんでしょうか?」

と元気よく返事をしてきたことから察するにおそらく年齢は30代後半といったところだろうか?

身長は180cm近くありそうで細身ではあるが筋肉質に見える体格の持ち主であった。

顔は中性的であり綺麗な顔立ちをしていた。

特に目が印象的であったため吸い込まれそうになるような感覚を覚えたほどだったが、

それはさておき、私は意を決して話を切り出すことにした。

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