第9話 彼との旅行

「おはようございます」

と挨拶をしながら部屋に入ると、すでに全員が揃っていたようで、

一斉に視線が向けられました。

皆が一斉に喋り始めるものだから何を言っているのか理解できず、

困惑していると、部長が現れました。

そこでようやく落ち着きを取り戻した私は、彼の言葉に耳を傾けたのです。

その内容は、新しいプロジェクトのリーダーに任命されるというものでした。

驚きながらも承諾の意を伝えると、他の社員たちも喜びの声を上げ始めました。

どうやら私だけに伝えようとしていたようですが、誰かがバラしてしまったのでしょう。

その結果、大騒ぎになってしまったというわけです。

その後、詳しい説明を受ける為に会議室へ向かいました。

そして、そこで聞かされた内容とは以下のようなものでした。

1つ目は、社内で大規模なプロジェクトが発足されたということ。

2つ目は、その責任者として私が選ばれたということでした。

3つ目の案件に関しては、全く聞いたことのない話でしたので、

詳細を聞いてみることにしました。

何でも、大手企業との共同開発なのだそうです。

どのような内容のものなのでしょうか?

気になって尋ねてみると、返ってきた答えは予想外のものでした。

どうやら、人工知能に関する研究に関することらしいのです。

どうしてそんなものを作ろうと思ったのか、そもそもどうして私たちが選ばれたのか等、

疑問が次々と湧いてきましたが、考えても仕方ないと思い、取り敢えず引き受けることにしたのでした。

そして、打ち合わせが始まったのですが、正直言ってとても大変でした。

専門用語ばかりで理解できない部分も多かったですし、

何より相手が何を言っているか理解できなかったからです。

何度も聞き返すうちに相手の表情がどんどん険しくなっていきましたが、

それでも何とか理解してもらおうと必死で努力した結果、少しずつですが、

理解できるようになってきました。

そうして、ついに完成させることができた時には、感無量でした。

それと同時に、自分がやり遂げたんだという思いが込み上げてきて、涙が溢れてきました。

それからというもの、毎日のように研究に没頭していました。

研究室に泊まり込むことも少なくなかったのですが、ある日、突然倒れてしまいました。

過労が原因だったようです。

医師からは暫くの間休養するように言われたため、渋々ながらそれに従うことにしました。

しかし、その間も頭の中は研究のことで一杯でした。

そんな時、ある人物との出会いがありました。

それが、今の彼です。

その日、たまたま病院へ来ていた彼と鉢合わせた私は、つい声を掛けてしまいました。

そうすると彼もこちらに気付いてくれたようで、笑顔を見せてくれたのです。

聞けば彼も同じ病気を患っているらしく、定期的に検査を受けているとのことでした。

そのため、顔見知りになった私たちはすぐに打ち解けることができました。

以来、私たちはよく会うようになりました。

お互いが持つ知識を教え合い、議論し合ったりしているうちに、次第に親密になっていったのです。

それから私達はよく旅行へ行くようになり、今はとある温泉宿へ来ているのです。

「わぁ、すごいですね! 露天風呂まであるんですか?」

部屋に案内された時、思わず叫んでしまうほど興奮していたと思います。

それほどまでに、素晴らしい景色が広がっていたのですから。

海を一望できるロケーションで、潮風が心地よく吹いています。

周囲には緑豊かな木々が立ち並び、色とりどりの花が咲き乱れています。

それらが絶妙なバランスで調和していて、まるで絵画のような美しさを感じさせてくれるのです。

そんな絶景を眺めながら湯船に浸かっていると、自然と心が癒されていく気がしました。

その後も、部屋でのんびり過ごしました。

お茶を飲み、お喋りをし、お菓子を食べたりして楽しんでいるうちに日が暮れてきました。

「さて、そろそろ行こうか」

そう言って立ち上がり、荷物を持って部屋を出ようとした時、彼が声を掛けてきました。

どうかしたのかと尋ねると、真剣な表情でこちらを見つめてきます。

どうしたのかと思って見つめ返していると、彼はゆっくりと口を開きました。

その言葉を聞いた瞬間、全身が震え上がりました。

何故なら、彼から告げられた言葉があまりにも衝撃的だったからです。

私は呆然としたまま動けなくなってしまいました。

そうすると、それを見た彼が心配そうな表情をして覗き込んできました。

そこでようやく我に返った私は、慌てて返事を返しました。

(ど、どうしよう……)

内心で焦りまくっていましたが、それを悟られないように平静を装って会話を続けます。

「そ、そういえば! 今日の夕食は何にしましょうかね!?」

自分でも驚くほど大きな声が出ていましたが、気にしていられません。

とにかくこの場を離れようと必死になっていました。

しかし、それも虚しく失敗に終わりました。

腕を掴まれてしまったのです。

恐る恐る振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた彼が立っていました。

その瞳を見た瞬間、背筋がぞくりとしました。

本能的に危険を感じたのです。

逃げなければと思った時には既に遅く、強引に引き寄せられてしまいました。

そのまま抱き締められると、耳元で囁かれます。

その声はとても甘く優しいものでしたが、同時に狂気じみたものも感じ取れました。

私は恐怖のあまり声も出せません。

そうすると、次の瞬間、首筋を舐められました。

「ひうっ!」

という悲鳴と共に身体がビクンと跳ね上がるほどの快感に襲われ、頭が真っ白になります。

そして、全身の力が抜けてしまい、その場に崩れ落ちそうになったところを支えられました。

しかし、それで終わりではありませんでした。

今度は耳たぶを甘噛みされ、舌が入り込んできて水音が響き渡ります。

その度に、身体が痙攣してしまい、何も考えられなくなるほどの快感に襲われてしまいます。

もう限界だと思ったところで、ようやく解放された頃には、完全に蕩けきった表情になってしまっていました。

それを見て満足したのか、彼は妖艶な笑みを浮かべると、私の手を引いて歩き出しました。

どこに行くのだろうと思っているうちに辿り着いた場所は寝室でした。

「ここで何するの?」

「ただ単に寝るだけだが?」

「そっか、そうだよね」

ホッとして胸を撫で下ろした途端、押し倒されてしまいました。

「急にどうしたのよ」

「いや、別に何でもないけど?

ただちょっとキスしたいなって」

「はぁ!? 何言ってるの、馬鹿じゃないの?」

動揺して、顔を真っ赤にしてしまいました。

そうすると彼は嬉しそうに笑って言いました。

「あれ、もしかして照れてる?」

「ち、違うわよ!」

咄嗟に否定したものの、顔が熱くなるのを感じました。

恥ずかしくて顔を背けると、顎に手を当てられて、強制的に目を合わせさせられます。

至近距離から見つめられてドキドキしていると、唇に柔らかい感触が触れました。

最初は軽く触れるだけの軽いキスでしたが、徐々に深いものに変わっていきます。

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