第7話 まずい、やちゃった!
「ねぇ、どうかしたの?」
そうすると彼女は顔を上げるとこちらをじっと見つめた後、意を決したように話し始めた。
「実は、最近彼氏と上手くいってなくて、それで相談に乗ってほしいんです」
成程そういうことかと納得した私は、とりあえず話を聞くことにしたのだが、
その内容というのがかなり衝撃的なものだったので驚いてしまった。
何と浮気されていたというのです。
しかも相手は会社の上司だというのだから驚きです。
(これはまずいことになったかも……)
と思いながらも話を聞いていると、どうやら彼女はまだ別れるつもりは
ないらしい事が分かったので一安心しつつ、今後の対策を考える必要があると感じたのだった。
それから暫くの間話し合いを続けた結果、やはり別れるべきという意見で
一致した私達は早速行動に移す事にしたのである。
まず最初に行った事は証拠集めである。
彼女が持っていた写真や動画を片っ端から集めていったところかなりの量になったため、
これらを全て印刷して保存しておくことにした。
次に相手の身辺調査を行い、住所や電話番号、勤務先などを調べ上げ、
それらをメモしておくことにした。
そして最後に別れ話を切り出したのだが、中々上手くいかず難航していたところに、
思わぬ助っ人が現れたことで事なきを得たのであった。
それは、彼女の友人である。
彼女は事情を聞くなり協力してくれることになったのだ。
それからというもの、三人で作戦を練り上げていった結果、ようやく別れることに成功したのだった。
その後二人は意気投合し仲良くなったようで、今ではよく一緒に遊んでいるようです。
(やれやれ……)
と思いながらも微笑ましく見ていると不意に声を掛けられた私は驚いてしまったが、
何とか平静を装って返事をすることができたのでホッと胸を撫で下ろしたのであった。
(それにしてもあの二人は本当に仲が良いなぁ……羨ましい限りだよ)
そう思いながら二人の様子を見守っていると不意に目が合ったような気がしたので
慌てて視線を逸らしたが、その後もずっと見られているような気がして落ち着かなかった。
(なんだろう? 何か変だな……)
不思議に思っていると、今度は向こうから話しかけてきたので、
思わずビクッと反応してしまったが、何とか平静を装って返事をしたところ、
特に変わった様子はなかったようで安心した。
その後暫く雑談をした後、私は帰宅したのだった。
家に帰ってからも、彼女のことが頭から離れなかった私は悶々としていた。
(どうしてだろう? 何でこんな気持ちになるんだろう?)
そんな疑問を抱きつつも答えは出なかったが、一つだけ分かった事があった。
それは、彼女の事が好きだということである。
しかし、その気持ちを伝える勇気はなかったし、そもそも彼女が私の事を
どう思っているのかも分からない状態で告白したところで玉砕するのは目に見えているため、
今はこのままの関係でいるしかないと思っていたのです。
そうしていると私のスマホに愛する彼から連絡が来るのです。
その内容とは、今度一緒に食事をするというものだった。
私は喜んで誘いに乗り、当日を迎えることになりました。
約束の時間になると、彼が車で迎えに来てくれたので、早速乗り込んで出発した。
道中では他愛もない話で盛り上がり、あっという間に目的地に到着したのでした。
着くなり入ったお店で、ワインを飲みながら談笑して楽しい時間を過ごした後は、
綺麗な夜景が見える場所でディナーを堪能し、心ゆくまで堪能したところで帰路に着くことにしたのです。
しかし、途中渋滞に巻き込まれてしまったらしく、中々車が進みません。
そんな状況でも彼は余裕の表情を浮かべており、私の気持ちを落ち着ける為に
会話をする事を忘れずにいてくれた事に嬉しさを感じつつも、次第に睡魔に襲われていき、
眠ってしまった私を見て彼は笑みを浮かべつつ頭を撫でてくれるので嬉しく感じるのですが、
次第に意識が遠のいていきます。
「おやすみ、良い夢を」
優しく囁く声が聞こえる。
私はそれに返す事なく、夢の世界へ旅立つのだった。
そして翌朝、目を覚ました私は隣で眠っている彼の温もりを感じつつ、改めて幸せを噛み締めました。
こうして私達は帰路に着いたのですが、途中で小腹が空いたと言う彼が
言い出したので近くのお店で食事をすることになったのです。
(こうして彼と一緒に過ごす時間を大切にして行こう)
そう思いつつも、幸せなひと時を過ごすことができた私は満足感を抱きつつ、
帰り道も他愛もない会話に花を咲かせるのであった。
そして数日後、いつものようにオフィスに向かった私は、先輩である桜谷涼花の姿を探していたのだが、
何処にも見当たらなかったので不安に駆られていたところ、メッセージが届いた事に気づいたので確認すると、
それは彼女からだった。
内容はたった一言だけ書かれており、そこには、今すぐに来て欲しいと書かれていた。
(何だろう?)
そして私は、桜谷先輩の元へと急いで向かうのだった。
「おはよう、朝早くに呼び出して悪かったわ」
そう言って微笑む先輩の表情はいつも通りに見えるのですが、
私は何処か違和感を感じたので尋ねてみる事にしたのです。
そうすると、先輩が取り出した物は手紙だったのですが、
その封筒に見覚えがある事に気づいた私は、すぐに事態を理解したのです。
(これはまさか……)
そう思って慌てて駆け寄り奪い取ろうとしたのですが、
ひらりと避けられてしまい摑むことができず、
そのまま床に叩きつけてしまう形になり、中身をバラ撒いてしまいました。
落ちた写真を拾い上げていく内に、全て小枝愛子の写真であるという事が分かったのです。
私はそれを見て絶句してしまう程衝撃的でした。
何故なら、彼女が撮影したであろうそれらの写真には、私の姿が映っていたからです。
しかも、かなり近距離から撮影している物まであり、
明らかに隠し撮りされたものだと分かりました。
「これは、どういう事ですか?」
私は怒りを押し殺しながら問うと、彼女はあっさりと白状したのです。
「ああ、それね、私が撮ったのよ」
あっさりと答える先輩に対し、私は呆れてしまいました。
先輩は私に好意を抱いていると言っていたけど、まさかここまでするとは思わなかったからです。
「先輩、これってれきっとした犯罪行為ですよね、何故そこまでするのですか?」
「え、だって、貴女と特別な関係になれるチャンスなんでしょ?」
などと開き直ったかのように発言している彼女に対して、私の中で何かが切れるような音がしました。
そして気が付いた時には、彼女の顔を平手打ちしてしまっていたのです。
パーンという大きな音が響くと共に、彼女が床に倒れ込む姿を見て我に返りました。
(まずい、やっちゃった!)
先輩の顔を見てみると、信じられないといった表情を浮かべており、
やがて泣き出しそうな顔へと変わっていきました。
「いや、あの、その」
どうすればいいか分からず狼狽えていると、騒ぎを聞きつけた同僚達が駆けつけてくれたので
助かったと思いきや、この状況を説明できる気がしなかったのです。
結局その日は体調不良を理由に早退する事になり、帰宅してから自己嫌悪に陥りましたが、
どうしてあんな行動を取ったのか自分自身にも理解できなかったんです。
私は一体どうしたいのか、どうするべきなのか。
悩みながらも答えを出せるはずもなく、その日は寝込んでしまったのです。
そして次の日には、何事も無かったかのように出社しましたが、
先輩の方は姿を見せませんでしたし話しかけても来ません。
どうやら避けられているようですが、私の方にもその方が良いという気がしており、
暫くの間は一人で過ごしていく事にしたのですが、そんな私の元に一通の手紙が届いたんです。
手紙の差出人は先輩で内容はこう書いてありました。
(この度はご迷惑をお掛け致しまして申し訳ござい ませんでした。
つきましては、直接お話したいと思いまして連絡させて頂きました次第でございます。
お時間宜しいですか?)
と書いてあるのを見て、私は正直乗り気ではなかったんですが、断る事もできず、渋々承諾しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます