第5話 蕩ける私

「もっとキスして」

「愛して下さい」

懇願しながら腕を伸ばすと、彼は静かに微笑んでくれました。

そして再び唇が重なり合い、舌と舌が絡み合い唾液を交換していきます。

「んっ、ちゅっ」

やがて、彼の唾液が流れ込んできました。

それをゴクリと飲み干すと、体が熱くなっていくのを感じました。

まるで何かを飲んだかのように全身が疼き始め、もう止まりませんでした。

今度はこちらから積極的に攻め立てることにしました。

舌を絡ませながら相手の口内へと侵入させていくと、歯茎や上顎など様々な場所を刺激していきます。

そうすると彼も負けじと同じように返してくれるようになり、いつの間にか立場が逆転してしまいました。

息苦しさを感じながらも夢中になって求め続けます。

そしてようやく唇を離す頃にはすっかり蕩けた表情に変わっており、トロンとした目つきで見つめ合っています。

お互いに息が荒くなっており、呼吸音がはっきりと聞こえてきます。

(あぁ……私は今、彼と一つになっているんだ)

その事実だけで胸がいっぱいになり涙が溢れそうでしたが、

「もっと、して」

とねだられて、 再び唇を重ね合わせました。

それから暫くの間、何度も口づけを交わし続けた後、ゆっくりと口を離しました。

お互い唾液まみれになっておりましたが、そんなことは気にせずにそのまま抱き合い続けました。

(幸せだなぁ)

ずっとこのままでいたいと思いつつも、彼の身体から離れるのが名残惜しい気持ちもあって複雑な心境のまま、

私達は夜道を歩いていきました。

私は彼に後ろから抱きしめられているような形で密着しており、

緊張しつつも何とか平静を装おうと頑張っていますが、心臓の音がバクバク鳴っている状態なのでバレていないか心配です。

(うぅ〜恥ずかしいよぅ〜)

そんな私の思いをよそに彼は落ち着いた様子で歩いているのですが、

時折思い出したようにこちらの様子を窺ってきている気配を感じます。

どうやら私のことを心配してくれているようで嬉しくなってしまいます。

「大丈夫ですから! 気にしなくて、大丈夫ですよ!」

と彼の方を向いて笑顔を向けます。

そうすると彼も微笑んでくれましたのでホッと一安心しました。

その後も特に会話を交わすこともなく、ただ黙って歩いていましたが不思議と気まずい感じはなく、

むしろ心地良い沈黙でした。

それに彼の温もりに包まれているような感覚があり安心感を与えてくれますし、幸せを感じずにはいられません。

(もう、このままずっとこうしていたいな)

そんな願望を抱きながら歩き続ける内に段々と眠たくなってきましたが、

彼がしっかりと支えてくれているため倒れる心配はありません。

その為安心して身を委ねられる状態です。

そんな状態で、ウトウトしていると、不意に唇が触れ合いましたので慌てて目を見開きましたが、

それでも彼は止まらずにキスを続けてきますので自然と受け入れてしまいました。

(あぁ……だめなのにぃ〜)

「もっと、キスして」

とせがむと、彼は素直に聞き入れてくれました。

今度はお互いに舌を絡め合わせていきます。

唾液を交換し合うような濃厚な口づけでしたが、それでもなお満足できず求め続けました。

そしてそのまま激しい運動に突入いたしますが、それでもやはり物足りなさを感じてしまいますので、

もっともっと激しくして欲しいという気持ちが高まります。

(お願いだから!)

心の中で懇願するものの、彼には全く届きませんし、寧ろ焦らされているように感じます。

しかしそれにもどかしさを覚えながらも必死に堪えていましたので遂に我慢出来なくなり自分からキスをしてしまいました。

最初は触れる程度の軽いものでしたが段々とエスカレートしていき、最終的にはディープなものへと変わっていきました。

そして何度目かのディープな口づけの後にようやく解放されたのですが、

「愛して、下さい」

と告げた瞬間に再びキスをされてました。

(あぁ……もう駄目かもしれない)

頭が真っ白になりそうになりながらも必死になって耐えましたけれど、

限界を迎えて意識が薄れていきました。

次に目が覚めると見慣れた天井が見えてきました。

慌てて跳ね起きると同時に昨夜の出来事を思い出し、

身体中に汗を搔いていたことに気がつきました。

(あれ?  私は昨日何をしていたんだっけ?)

記憶を辿りながら昨日のことを思い出すと、徐々に思い出してきましたが、

余りの恥ずかしさで布団に潜り込んでしまいました。

(うわぁぁぁぁ〜!  なんであんなことしたのぉ!  馬鹿じゃないの私ぃ〜!)

そして暫くの間悶えた後、ゆっくりと立ち上がってシャワーを浴びるために浴室へ向かいました。

脱衣所で服を脱いで素肌になると、鏡に自分の姿が映り込んでいるのを発見しました。

そこには一糸纏わぬ姿で立っている自分が映っていて思わず溜息が出てしまいます。

(はぁ……どうしてこんなことになったんだろう)

と思いながらも、これから先のことを考えて期待している自分もいて複雑な心境になっていました。

その後、頭から熱いシャワーを浴びると身体を洗い始めますが、

その際昨日の出来事を思い出してしまうのでその度に胸が締め付けられるような思いに駆られてしまいました。

それでも何とか耐えきった私は浴室を出てタオルを手に取ると全身を拭き取ります。

それから服を着てからリビングへ向かい、朝食の準備を始めようとキッチンに立ちましたが

そこで力尽きて倒れ込んでしまったのです。

(ああもう駄目〜体が動かないよ!)

情けないとは思いつつも再び布団に入ってしまいますと直ぐに眠りに落ちたのでした。

そして数時間後、起きると今度はお腹が減ってきたので、

何か食べ物を求めて冷蔵庫を開けるとそこには弁当が入っておりました。

(あれ?  私、料理は作ったことないはずなんだけど……)

不思議に思いながらもそれを取り出して蓋を開けてみると中には美味しそうなおかずの数々が並んでおりました。

(まあいっか、食べるの面倒臭くなったらおにぎりにして食べればいいし)

と思い早速一口食べてみるとその美味しさに感動しました。

(美味しい〜!)

そして夢中で貪りつくように食べている内に全て平らげてしまったので慌ててキッチンへ戻り、洗っておきます。

その後は再びベッドで横になります。

ウトウトしているとインターホンの音が響いてきて目が覚めました。

時計を確認するとお昼近くだったので慌ててベッドから飛び出し、

着替えを済ませて玄関へ足を運ぶとドアスコープを覗きます。

そうするとそこには彼の姿がありましたので、鍵を開けて迎え入れました。

そして部屋の中で彼と二人っきりになった私は緊張してしまい、上手く会話ができませんでした。

それでも何とか気持ちを落ち着けようと深呼吸を繰り返していましたが、中々落ち着きません。

そんな私の様子を察してか彼が話しかけてきてくれます。

「そう言えば、この前は大丈夫だった?」

その言葉を聞いた瞬間、顔から火が出る程に真っ赤になり俯いてしまいました。

しかし彼は全く気にする様子はなく、私に対して優しく微笑んでくれています。

その笑顔を見た瞬間に安心感を覚えてしまい、自然と頬が緩んでいくのを感じました。

(ああもう! なんなのこれ!?)

今まで経験したことのない感情が次々と溢れてきてしまって制御不能に陥ってしまいそうですが、

何とか抑えようと必死でした。

ただ一つだけ言えることがあるとするならば、私は彼のことが大好きであるということです。

「可愛いな、本当に。キスしようか」

「はい、お願いします」

私は迷うことなく受け入れて、目を閉じます。

そうすると彼はゆっくりと顔を近づけてきて唇を重ねました。

最初は触れる程度の優しいものでしたが、次第に深いものに変わっていきました。

お互いに舌を絡め合わせながら唾液を交換し合い、

そして徐々に激しさを増していき最終的にはお互いの口内を犯しつくすかのような勢いに圧倒されてしまいます。

(ああ……気持ちいい)

私は無意識のうちに彼の背中に手を回して抱きついていましたが、

彼もそれに応えるようにして強く抱きしめてくれたので離れることができなくなりました。

このまま時間が止まってしまえばいいのに、と思ったのですが残念ながら終わりが来てしまいました。

「ごめん、これ以上は抑えられないから続きはまた今度ね?」

と言われてしまい、少し残念でしたが仕方ないと諦めました。

ですが、一つだけお願いしたい事があったので勇気を出して伝えてみました。

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