暴力系ヒロインはまだまだ現役です!
バリー・猫山
可愛ければよかろうなのだ
――理不尽暴力ヒロイン。
「――ねえ、山中君。ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな……?」
「俺で良ければ」
それはスケベでおっちょこちょいな主人公を暴でもって制裁していた、古き良きヒロインの姿。
「実はね、ダイエットしようと思ってるんだけど……」
「なるほど! じゃあ一か月で確実に痩せれるトレーニングメニューを――」
しかし、時代が進むにつれヒロインの暴力は過激化!
時に理不尽に暴力を振るわれる主人公!
「――うっ……こんなメニューこなせる気がしないよぉ……もっと簡単なのを」
「だったら『コマンド―中村』の『世界一楽なトレーニング』がおすすめかな? 毎日十分くらいで簡単に続けられるよ!」
この大コンプラ時代にそんな理不尽暴力ヒロインはそぐわず、暴力ツンデレ属性は次第に廃れていった。
「ありがと~! 試してみるね!」
しかし、令和の時代でありながら、圧倒的暴力を振るうヒロインが存在した!
「――翔太郎! 何なのよあの女ッ!」
「え? クラスメイトの正岡さんだけど」
かつてのツンデレヒロインを思わせるミニマムな少女、
彼女は令和において絶滅危惧種な『暴力系ヒロイン』だった!
「むぅ~! 何よ何よッ! 可愛い子に話しかけられたくらいでデレデレしてっ!」
「おふ」
制裁っ!
某ファイナンスを彷彿とさせる理不尽制裁がマッチョマン、
ミニマムな体から繰り出された渾身の右ストレートがバッキバキの腹筋に突き刺さるッ!
「そう妬くなよ。俺は愛梨のことが好きだって、この間伝えたばかりだろ?」
だが山中少年は動じないッ!
輝かんばかりの真っ白な歯を見せ、ハッ! と微笑む。その姿、ボディビルダーのごとし。
「だったら他の女と話さないでよっ!」
「はっはっはっ!」
ポカポカポカっ!
如月少女が握り拳をハンマーのように振り下ろすッ!
だがしかし、山中は笑顔! まるで子猫を見つめるような慈愛の笑顔ッ!
もしや、この少年、そっちの趣味でもあるのか!?
――否、それは断じて否!
「帰ろうか」
山中 翔太郎。
身長189cmから絶賛成長中、体重93kg、体脂肪率脅威の一桁代!
優等生のようなさわやかフェイスにボディビルダー顔負けのマッチョボディを持つ高校生!
「……ふんっ! 好きにすれば?」
如月 愛梨。
身長140cm――に限りなく近い139cm、高校生らしからぬロリ少女!
日本人形みたいな黒髪につり目、口を閉じれば八重歯が少し出てしまう典型的なツンデレフェイス!
背も小さけりゃぁ乳もちいせぇ
「――信じられないわっ! 私に告白しておいて他の女と話すなんて」
二人は俗に言う幼馴染。
幼稚園から高校まで、たまたま偶然必然同じでありもはや兄妹同然の関係。
その関係が変化したのはひと月前、2年に進級して間もない頃。
山中は幼馴染に大胆告白!
いいのか? 暴力ヒロインだぞ?
「その程度で愛梨への気持ちは変わらないって」
「嘘よッ! だってこの間おっぱい大きい子見て鼻の下伸ばしていたじゃない!」
如月少女、三度制裁っ!
容赦のない張り手が山中少年を襲う!
だがそれでも彼は笑顔! 愛はゆるぎない!
それもそのはず――
「隣の芝は青い、って言うだろ?」
「貧乳で悪かったわね!」
――全然痛くないのである。
叩かれようと殴られようと、全然痛くない。
それもそのはず、如月少女は驚くほど非力なのである! 体力測定は小学生顔負け、親戚の
そりゃ、殴る蹴るの絵面はあまりよろしくない。が、別に子猫が飼い主にじゃれていて不快感を覚える者はいないだろう。
可愛らしい子猫が猫パンチしようが猫キックしようが、微笑ましく見守れるはずだ。
要するに、彼女がいくら理不尽暴力を振るおうとも微笑ましい。
ちょっと不機嫌な小動物程度の愛らしさなのだ。
「大丈夫! 大胸筋のトレーニングをすればバストアップできるさ!」
「嫌よっ! 筋肉じゃなくて脂肪の塊が欲しいのッ!」
まるで巨人と小人。大人と子供。
知らない人が見たら通報してしまうかもしれない。
└( 'ω')┘マッチョッチョ
暴力系ヒロイン、如月 愛梨には少ないながら友人がいた。
「とど、かない……!」
ミニマムな彼女は友人と共にクレープ屋に来てもカウンターに手が届かない。
まるで小動物な姿は実に母性本能を擽る。
「ほら、こぼさないように気を付けなよ?」
「こっ子ども扱いしないでッ!」
彼女の友人、
ツンツンしていながらも弱々な姿は世話好きギャルな佐藤少女の母性本能を大いに刺激した!
当然、如月の暴力は対象問わず。友人候補だろうが容赦なく襲い掛かった。
……が、赤子に殴る蹴るされて機嫌を損なう者は少ないだろう。
いやその程度で機嫌損ねんなよクソガキが……などとディスるのはやめておこう。
ともかく、佐藤少女にとって如月の暴力は所詮その程度。チャームポイントの一つに過ぎなかった。
「え~? だってこないだ小学生と間違えられてたじゃん」
「の、伸びてたから! 身長!」
「何センチ?」
「……3ミリ」
「誤差じゃん」
如月少女の願いもむなしく、彼女の身長は全然伸びない。
スタイルも全然よくならない。
悔しくて寄せて上げるブラを買ってみたはいいが、寄せるものが無くてバストはアップできなかった。
二人はベンチに並んでクレープを食べていたが、友人同士というより親子にしか見えない。制服を着てなかったら完全に昼下がりの親子だ。
「――うぇーい! お姉さん一人? この子は妹?」
「ちっちゃ~w いまいくつ?」
クレープを完食し談話していた女子高生二人に忍び寄るチャラ男が二人。
容姿? 描写するまでもない
「……いこ」
「ちょっと~w 無視はひどくない?」
人相の悪い方のチンピラが佐藤少女の肩に手を回す。おい、さりげなく乳を触ろうとするんじゃない!
だが案ずる事なかれ。彼女には暴力ヒロインがついている!
「ちょっと! 何勝手に触ってるのよッ!」
如月少女は腰に手を当ててチンピラを指差す。
堂々とした立ち姿だったが、どうにも小学生が見栄を張っているようにしか見えない。
「はいはい。お兄さんたちは君のお姉ちゃんと遊びたいだけだから静かにしててね~w」
「なっ! 英子は私の友達よッ!」
「えっ……はっ?」
チンピラは想定外の事態に固まっている。
こんな漫画でしか見ないようなロリ少女が現実に居て死ぬほど驚いていた。
「ぎゃはは! まじでそんなロリいんのかっ! 喜ぶのロリコンくらいだろw」
「だよな~ロリは巨乳じゃなきゃヌけねぇ」
辱めを受けた如月は顔を羞恥で真っ赤っかにしている。
佐藤はこの隙にチンピラの腕を振り払い逃げ出す。如月を見捨てて逃げ出した。女の友情とはこんなものだ。
「なっ……なっ――きゃっ!?」
「巨乳じゃないと……て思ってたけど、これはこれでアリ」
なんと、チンピラはロリコンに目覚めた。
ロリコンチンピラは如月少女を高い高いするように持ち上げる。
小柄な彼女はいとも簡単に持ち上げられ足が宙に浮く。
「よし、決めた。この子に一発ヌいてもらおう。話はそれからだ」
「ぎゃはは! マジ?」
「ぇ……ちょっ」
圧倒的恐怖、圧倒的気色悪さ、その二つは如月少女の心をへし折るのに十分だった。
怖い。怖くて怖くて体が動かない。
助けて、そう叫ぶ勇気も湧き上がらない。
体は小学生でも頭脳は高校生。自分がこれから何をされるかなど簡単に想像できる。
「――その子を離してください」
その時、ヒーローが現れる。
「しょ、翔太郎……!」
マッチョマンの高校生、山中 翔太郎は彼女の危機にはせ参じた。
傍らでは佐藤少女がサムズアップしていた。彼女は逃げ出したのではない、助けを呼びに行っていたのだ。
「……おっきい」
「……うそ~ん」
チンピラは体格差に圧倒され呆然としていた。
「俺は今、冷静さを欠こうとしている。早く彼女を放せ」
「あ、はい……」
ロリコンチンピラは思わず言うことを聞いてしまい、如月を優しく地面に下ろしてあげる。
解放された彼女は山中の下へ駆けていく。
「これはあまり関係ないけど、俺はパンチングマシーンを壊したことがある。ところで愛梨を泣かせたのはどっちだ?」
山中のミスマッチな体はチンピラたちをビビらせるのに十分だった。
筋肉、やはり筋肉は全て解決する。
「ひっ!」
「さ、さーせんしたっ!」
圧倒的な筋肉オーラにチンピラたちは恐れをなして逃げ出していった。
筋肉紳士な山中は仕方がないので許してあげた。
「うぅ……翔太郎~! 怖かったよぉ……!」
「よしよし、よく頑張ったな」
如月は山中の胸――は届かなかったので圧倒的腹筋の中で涙を流す。
板チョコもびっくりなバキバキ腹筋であっても少女を落ち着かせるのに効果覿面だった。
「あれ、お巡りさんだ」
そんなカップルを微笑ましく見守っていた佐藤は警官が近づいてきていることに気づく。
「――失礼、女の子が誘拐されそうだと通報が」
「あーそれならもう解決し」
「むっ? あれが犯人だな」
警官は迷うことなく手錠を取り出すと山中の手首を取ってかける。
「――午後1時30分、誘拐未遂の現行犯で逮捕する」
「……はい?」
山中 翔太郎――マッチョマンな男子高校生。
如月 愛梨――ミニマムロリな女子高校生。
しかし、絵面はどこからどう見ても犯罪だった。
「――至急、応援を頼む。犯人は男性、身長は推定190cm、筋肉ムキムキマッチョマンのロリコンだ」
これはマッチョマン高校生と絶滅危惧種の暴力ヒロインによるラブコメである。
暴力系ヒロインはまだまだ現役です! バリー・猫山 @_catman
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