入学式 5
私とお母さんは、校舎を出た。玄関の前で、お母さんはバッグからスマートフォンを取り出した。私の写真をとってくれる。
「制服、にあってるかな」
「当然でしょ。とってもきれいよ」
お母さんは言いながら、もう1枚とってくれた。
「そうだよね」
りっかちゃんがもし生きていたら、よろこんでくれてたはず。
「次の場所、行きましょう」
「桜の木はこっちだよ」
私が指さした先では、立派な桜の木が花びらを散らしている。校舎の3階まで届きそうなほど、とても大きい。
「律歌の入学式を思い出すわ」
「そうだね。りっかちゃんもあの桜が好きだった。花びらで遊んだりしてたし」
よく桜の花びらを空に向かって投げて、ひらひら舞わせては、はしゃいでいた。
私とお母さんは、桜の木の根元まで来た。お母さんはここでも、私の写真をとってくれる。
「ねえ、せっかくだし、お母さんもいっしょがいいな」
何枚かとってもらったところで、私は言った。
「そうね、でも誰かにとってもらわないと」
「あの、でしたらとりましょうか」
知り合ったばかりの子の声が聞こえた。
ほだかくんだ。
「あら、あなたはC組にいた……」
「鈴森ほだかです」
「七川めぐみです。ええっと、初めまして、よね。初等部の卒業式では見かけなかったけど」
「鈴森くん、引っ越してきたばっかりなんだよ」
私が教えてあげる。
「七川さんには、通学路でまよっていたところを案内してもらったんです。学校のことも教えてもらいましたし」
ほだかくん、大人にものおじしないのかな。初対面の私のお母さんに、こんなに堂々と話せるなんて。
「朝にそんなことが。えらいわね。困っている子を助けるなんて」
お母さんにもほめられた。えへへ。
でも私は、ほだかくんがひとりなのが気になった。
「お母さんといっしょじゃないの?」
「母さんなら、先に初等部の校舎に行ったよ。あいを迎えに。ちょうど見かけたから、朝のお礼をって思ったんだけど」
「わかった。じゃあ、お願いするわ。画面の下の丸いボタンを押したらとれるから」
お母さんはそう言って、ほだかくんにスマートフォンを手渡した。
「このボタンですね」
私とお母さんは、となり同士で桜の木の下に立った。
「じゃあ、とりますよ」
カシャ、という音が、桜の木の下でひびく。
妹思いでやさしいほだかくんにとってもらった写真なら、いい思い出になるよね。
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