手をつないだ兄妹 1
入学式、当日。
写真のお父さんとりっかちゃんにあいさつして、私は家を出た。朝だけど、春になって空気があたたかい。どこかからお花のあまいかおりがする。
これから通うのは、星川学園中等部。小中一貫校になっていて、私はりっかちゃんといっしょに初等部から通ってきたの。
だから、これから会うクラスメイトもみんな初等部からの知り合い。通学路も変わらない。入学式というよりは、始業式に向かうみたいだ。
でも、中等部に入れてうれしい。
私は道路で立ち止まった。制服の袖を鼻に近づける。まだ新品のにおいがするよ。これからの中学生活が楽しみだな。
そんな、うっとりする私に。
ぼふっ、とだれかがぶつかってきた。
「きゃっ!」
新しい制服、ころんでよごしてなるものか。私は、ふんっ、と足をふんばった。
何だったんだろ、と足元を見おろす。
目のまえでしりもちをついていたのは、小さな女の子だった。栗色の長い髪をまとめてツインテールにしたその子は、同じく栗色の瞳で、きょとんと私を見上げている。子ねこみたい。
着ているのは星川学園初等部の制服。デザインは中等部と同じだけど、ブレザーとスカートの色は黒。
歳は、りっかちゃんが生きていたときと同じくらいかな。
「あい、大丈夫か!」
かけよってくる人がいた。私と同じ星川学園中等部の制服を着た男の子だ。背は私と同じくらい。髪の色も目の色も女の子とそっくり。色白の肌に整った顔をしていて、目元もやわらかい。やっぱり子ねこみたいで、この子も、なんかかわいい。
でも……
「きみって、だれ?」
私は初等部から星川学園に通っているけど、この男の子は見たことない。説明会にもいなかったと思う。もっといえば、私にぶつかった女の子も。
「きみは……ごめん、ちょっとまって」
男の子は女の子に手をのばした。
「さあ立って。服はあまりよごれていないな。いたいところは?」
男の子は女の子の制服をはたきながら気づかっている。妹なのかな。
「ううん、へーき。ケガしてない」
「よかった」
にこっ、と男の子が笑った。ずきゅん。いやされる。小さい女の子とセットだから、もっといやされるよ。
「でも、あやまらないと」
女の子は言って、私に目を向けた。栗色の瞳に、私がうつる。
「ぶつかっちゃって、ごめんなさい」
――いいよいいよ、ぼんやり立っていた私が悪いんだし。
言おうとしたけど、私の口から言葉が出なかったのは……
後ろの男の子が、手をふったり頭を下げたりして、必死でジェスチャーしていたからだ。たのむ、ゆるしてやってくれ、といったところかな。
親バカならぬ、兄バカだ。
「お姉さん?」
妹に首をかしげられて、私ははっとした。
「私もへーき。びっくりしたよね。ごめんなさい」
「「よかったー」」
女の子と後ろの男の子が声を合わせた。
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