第10話 コーポ・シーフ!!

 美味しい依頼を受けた。

 報酬Gゴールドが多く、難易度もさほど高くない。

 それは、ある個人を暗殺せよという話だった。

 死亡即、リスポーンも可能なゲームなので(Gは多めに掛かるが)、暗殺そのものにそこまでの意味はない。

 要するに、長くつきまとってそいつの行動を妨害しろ、ということらしい。

 暗殺のターゲットは。比較的大手の企業連合の裏切り者らしく、財産を奪ったり破壊したりして逃げたそうな。

 企業泥棒コーポ・シーフは、さほど珍しくもない話である。傭兵の僕は、受けた仕事をやるだけだ。

 一回殺すごとの固定報酬制で、プレイヤーの所在地はお金を払えばすぐに特定できる。

 ターゲットは企業から奪ったカネで傭兵を雇っている可能性もあるが、まあ状況に合わせてきめ細かく対応する。

 最近のターゲット周辺の地域の戦闘ログはかなり活発であり、周囲を実効支配している感じがする。あるいは、他のプレイヤーも同じように傭兵として雇われて、暗殺作戦やら紛争やらを展開している可能性もある。

 雇い主の企業側も、あまり多くの事情・背景は寄越していない。妙な人間関係のいざこざは避けたいので、これで良い。

「やばいな」

 どこからでも銃声や砲撃の音が聞こえてくる。巻き起こる爆風。

 ターゲットに近付く以前に、この紛争地帯で生き延びる道を探ったほうが良さそうだ。

 自分はソロ。

 連携を誘われてもよほどのことがない限り共闘はしないし、いつでも寝首を掻くつもりだ。

 裏切りとか、知ったことではない。

 コンタクトがあった。この紛争地帯では無視するところだったが、宛先が自分だった。

 コーポへの勧誘だった。形だけは気前の良さそうなリクルート文(英語)が並んでいる。

 勧誘側の社長が、そのターゲットだった。

 ふむ、裏切るか。僕は勧誘に乗った。入社完了。

 即座に周囲のパーティに勧誘され、入る。装甲車部隊に加わったようだ。まずは装甲車を探さないと。

 『味方』へは生体ナノマシンの設定で発砲できないようにされるが、ロックの段階を解除すればどうとでもなる。

 こちらに走って合流してきた装甲車は、敵らしいバリアブルと交戦中だった。

 歩兵戦闘車の三十五ミリ機関砲の大きな音がする。

 迂闊うかつに近付いていたバリアブルが、ただの装甲車に粉砕される。珍しい光景だ。

「やるじゃないですか」

 笑顔で言うと僕は、ナノマシンに備わったセーフティ機能を無効レッドに変更。

 バリアブルにさっきまで向けていたマルチ・ミサイルを装甲車に撃ち込み、周囲の歩兵ごと吹き飛ばす。

 市街地で、即座に武器を用意していた軽機関銃に持ち替えて発砲をし続ける。

 近場のコーポの兵士は皆殺しにできたが、狙撃を受けたので、移動。

 反撃でややダメージを受けたが、全身のナノマシンが数秒で肉体を再生させる。

 できるだけキルして回り、一回だけ社長もキルできていたようだ。

 安直にも、最初に爆発・炎上させた装甲車に乗っていたらしい。

クソ野郎F◯ck、裏切り者』

 その後、追加でメッセージが来ていたことに気が付いて、僕は笑った。

『Thank you for your donation!』

 そう僕は、不慣れな英語で送信しておいた。

 しばらく居座っても良かったが、敵さんにどうにも本格的に嫌われたらしいので、コーポ・シーフはほどほどにしておく。

 さようなら、カモさん。

 最初の依頼を終了させ、僕はさっさと他の場所へと移動することにした。

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ワールズエンド・ダンスホール 書い人(かいと)@三〇年寝太郎 @kait39

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