第9話 暴力のインフラ

 能力の高低・強弱はさておき、人は徒党を組み、組織となる。

 よく訓練された集団は、似たような規模の敵対的な組織にとっては、非常に大きな脅威となる。

 突出した個人でも、戦いを避けることは多いはずだろう。

 WEDに至っては、専門的な軍事用語などを使う戦いのプロまで居る始末だ。

 暴力のインフラであるこのゲームでは、利権を巡る争いが常に起こっている。そういう趣旨のゲームで、それしかないだろ、というツッコミは置いておこう。

 最近の僕は、派手に動きすぎたらしい。

 どう見てもカモにしか見えない中途半端な企業の装備を追い剥ぎし、このゲームの厳しさを教えていたら、相手は怒り心頭でPMC(傭兵企業)を雇ったようだ。

 ひとまず、普段とは違う装備のプレイヤーを狙撃してキルし、ログを確認してみたところ、有名なPMCだったのだ。

 PMC部隊は確認できる限り、十数人程度でこちらに迫ってきている。少し、まずいか?

 重装甲の乗り物はないようだが、探索用ドローンを飛ばして上空を監視してきた。

 幸い、山林部に逃げ込めた。やれるだけやってみようと思う。相手――PMCが狙うのは自分一人だが、こちらが狙える人数は多いのだ。

 よく生い茂った樹木の上に上り、色を偽装した単発式狙撃銃を相手に向ける。

 発砲、ヘッドショット、ワンキル。相手も樹木に隠れながら移動しているが、身体を少しでも出せば狙撃できる。

 PMC側の反応はスムーズだった。もう一人の腹にマグナム・狙撃弾を叩き込むが、生死確認を行う前に木から降りる。その前後で、何発も弾丸が迫る。みきへの淡々とした着弾の音や、音速を超えるライフルなどの弾丸の空中・擦過さっか音が鳴り響いた。

 僕は、背中に背負っていた中折れ・単発式の四〇ミリ擲弾発射器グレネード・ランチャーを構えて、射出。

 数名の小隊を吹き飛ばしてやった。彼我の距離は、一〇〇メートルちょいか。

 もう一発を炸裂、爆破させる。さらに不用意に近付いていた傭兵の一人に手榴弾を投げ込み、少し後退する。

 相手の被害は数名がデスしたくらいか、的が多いと助かる。

 相手も爆発物を打ち込んできた。なりふり構わず、面制圧気味にこちらを動揺させ、飛び出してきたところを討つ気だろうか。

 僕は大木を盾にし、狙撃銃を手に持つ。SMGの方が戦いやすいが、生成している時間的余裕がない。

 爆風はやり過ごせた。まあ、相手の当て勘が悪いのか、僕の運が良かったのか。

 もう一個の破片手榴弾を放り、下がる相手を即座にエイム。ヘッドショット。

 距離は三、四〇メートル前後だろうか。そろそろこちらの死が見えてきた。

 あとは、お互いに隠れもせずに正面切っての撃ち合いとなる。

 逃げたほうが良いかも知れないが、ゲームだしロクに失うものもない。

 戦闘ログは残り、非公開設定にもしていないのでこちらへの勲章となる。

 次の傭兵依頼も受け易くなるだろう、という打算もある。

 何発も高初速小口径ライフル弾が身体を撃ち抜くが、死ぬまで僕は発砲し続け、PMC戦力の五割か、それ以上を削った。

 ヒット&アウェイを繰り返せば、より多くの損害を敵に与えられた可能性はあったが、自分好みの戦い方ができずに効率だけ求めるのは長期的に見て損だろう。

 培養ポッドに意識を転送された僕は、少し笑った。内心では、大笑いだ。

 所持品は奪われただろうが、戦闘ログの評価は非常に高い実績だったのだ。

 何より、人を殺すのは本当に楽しい。

 あ、ゲームの話です。

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