カラスのご婦人

@peacetohanage

第1話

真っ黒なスーツに身を包み、今日も店頭に立っている青年は、この喪服店の屋主だ。

彼は毎日新しい喪服を縫い、店頭に並べる。

大きくも小さくも無い町の一角だったが、ぽつりぽつりと客足は時に有った。

ある日、カラスのご婦人が店に見える。

ご婦人は自分に一番似合う喪服を探していると言う。

そこで優しい青年は一着一着、試着を手伝う事にする。

しかしカラスのご婦人はどれもこれも気に入らず、これじゃ無いあれじゃ無いと首を左右に振った。

そうして自分に合った特注の喪服を注文する事に決める…それも最高級の一着を!

青年は二、三日貰うとその一着を縫い上げる事にした。

二、三日後またカラスのご婦人が訪ねて来て、縫い上がった喪服を見るなり、大層気に入る。

とうとうカラスのご婦人は、一着の喪服を買い取った。

後日カラスのご婦人はとある葬式に参列すると、ご自慢の一着を鼻高々に身に纏う。

しかし一緒に参列した者達は誰一人として、ご婦人が喪服を着ている事には気付かなかったのだ。


おわり

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