第15話 繰り広げられる「逃走劇」

気を抜いたらすぐ更新が止まります。

私をしばいてください。



──────────────



「にっ、逃げろおおおおおおお!!」


「「「待てェ! 逃げるなァァァァァ!」」」


 後ろから僕を追う声が響いて、その恐怖が逃げる原動力となって、僕は全速力で魔族たちから逃げていた。


 枯れ木が紫色の葉をつけたような、不気味な樹木がまばらに生えた荒野を駆け抜ける。


 そこから景色が変わって、民家や屋台が立ち並ぶ街のような光景が見えてきたので、僕は軽くなった自分の体重を活かすべく時計台の屋根へ跳躍した。


「なッ!?」


「えぇっ!?」


「へェっ!?」


 三者三様に驚きの声を上げる魔族たち。


 そこから僕が翔ぶ様子を真下で見ていたであろう大衆たちの声が加わって、そんな魔族たちが驚愕する様に「してやったり」と思いながら、僕は街の中央に聳える時計台のトンガリ屋根に飛び乗った。


 これは彼らから逃げるのもそうだし、高所からナルを探す用も兼ねてのことだ。


 この時計台からの景色は、壮観だった。


 群がる大衆が視界に収まり、周囲をあらかた見下ろせるから。


 あのトカゲのような魔族だって、いくら翼が生えているとはいえ、こんな高いところまでは追ってこれないだろう。


 けど、一体ナルはどこに行ったんだ?


 急に家の壁に穴が空いたと思ったら、こんなところに繋がっていたなんて。


 本当に、どうしてなんだろう。


 ……なんて思っていたら。


「待てと言ってるだろうよボウズ! 魔族をナメんじゃねえぞ!」


 さっきの会話でザドーと呼ばれたトカゲ男が、背中に生やした翼を大きく羽ばたかせてこっちまで向かってきた。


「いいっ!?」


 僕はそれに驚いて、思わず足を滑らせてしまった。


「あ………っ!?」


 スキルを出して、着地の衝撃を和らげる。

 そんな芸当をやる暇はなかった。


 背中から、地面に向かって落ちていく。


 まずい。

 このままじゃ、死ぬ……っ!


 この高さから落ちたら、確実に。


「ほォら、言わんこっちゃねえ!」


 ……しかし、僕は死んでいなかった。


 さっきまで落下中だったはずの僕は、ついさっきまで眼前に迫っていたはずのトカゲ男に抱きかかえられていたのだから。


「え……っ、えええぇぇぇぇ!?」


 僕は驚いて叫んでいた。


「ッ! うるせーな! 耳元で喚くんじゃねぇよ!」


「い……いや………だって! あんたさっき、僕を追い回してたじゃないか! あれは明らかにとっ捕まえて食ってやるって感じの追いかけ方だったから、怖いんだよ! どうして助けてくれたの!? 降ろした瞬間に僕を食べたりしないよね!?」


「いやいやいや食わねーよ! これだから人間ってのはよぉ! いいかボウズ、俺は心優しきリザードマンなんだぜ! 俺はお前みたいな………何かの拍子で魔界に迷い込んだハナタレボウズがあそこに来ないか、毎日見張ってんだ! それなのにおめえ、あんな不思議なチカラでちょこまか逃げやがってよ! 捕まえるのに苦労したぜ!」


「…………………」


 僕は地上に降ろされた後も、しばらく啞然としていた。


 いや、何それ?

 としか、思えなかった。


 でも、全てが繋がった。


 家の中に突如として現れた、黒い穴。


 オーエスはそれを「異界の扉」だと言った。

 なんなら、ナルが通った可能性だって高いと言っていた。


 それに、ナルはあの時……僕に、不自然な質問をした。


『マリウスって、魔界と魔族のこと……どれくらい知ってるの?』


 と。


 あの質問に、ナルが通った可能性の高い異界の扉に、着いた先が魔界。


 それに、たまにここに人間の子供が迷い込むことがあるというザドーの言葉。


 となると……。


 やっぱりあの穴は、ナルが発生させたものではないのだろうか。


 ナルはあの時、何か悩みを抱えていたんじゃないのだろうか。


それに気づけず、僕が畑仕事なんかに気を取り取られていたせいで……僕はナルの心を、深く傷つけてしまったんじゃないだろうか。


 だから、魔界(ここ)に帰る選択をした。


と、思う。


「あの。だったら、聞きたいことがあるんです。………ザドーさん、でしたよね?」


「あぁ? なんだ急に?」


 だから僕は、この人に聞いた。


「……僕は、『ジャアク=ナル』という女の子に会いたくてここまで来ました。どうすれば、彼女に会えますか? 彼女は、あの城にいるのでしょうか?」


 と。


 そしたら彼は、目を丸くして。


「……坊ちゃん。やっぱり、こいつがナル嬢ちゃんの言ってたフィアンセみたいですね。案内してやってくださいよ」


 そう言った直後に不敵な笑みを浮かべて、後ろを見やっていた。


 その言葉を受けてか、僕らの周囲を取り巻いていた聴衆たちが一気にざわつく。


 彼が向けた視線の先には、大衆に紛れていながらも存在感を隠しきれない大きな牛男と……ナルによく似た、人型の魔族らしき少年がいた。


「……えっ?」


 今の言葉を聞いて、僕の脳内には色んな疑問が浮かび上がってきた。

 

 それは、僕をとてつもなく困惑させていた。

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