第14話 「虎穴に入らずんば」なんとやら

「ナルっ!!」


 僕は真っ先に、異界への扉へ飛び込んだ。

 壁に向かって飛び込んでいるはずなのに、扉をくぐると視界が暗転して、落ちているような感覚に見舞われた。


 すごく気分が悪くなるその感覚は、馬車から放り出されて追放されたあの感覚に似ていた。

 体が宙に浮いたと思ったら、落下して。


 このままじゃ、地面に身体を強く打ちつけて死んでしまうんじゃないかと思ってしまうくらいには、落下時間が長くて。


 呻き声どころか、口から内臓すらぶちまけてしまうんじゃないかと思えてしまう。


 と思ったら、暗かった視界が一気に開けた。

 

 遠方には、いかにも“魔王城”と称するに相応しい、禍々しい城が聳え建っていた。


 ガラドシアの王宮の倍ほどはある、その城の大きさに圧倒されていたら、とつぜん大きな衝撃が僕の脚を襲った。


「うぎゃあああっ!?」


 今回は、平原に放り出しされた時よりもっと酷い声が出た。

 しかし、出たのは声だけだ。


 内臓をぶちまけなくてよかった。

 死ななくてよかった、とも思った。

 

「「「なんだぁ!?」」」


 と思ったら、周囲から野太い声がした。


 あのゴロツキたちの比にならないくらい低い声。


 そして……ゴロツキたちが泣き出して逃げ出すレベルの巨体を持った魔物たちが、そこかしこから現れた。


 数にして三体。


 二足歩行の大柄な牛男と、翼を生やした大きなトカゲ男と、ナルによく似た人型の魔物。


「う、うああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」


 それを見て、たちまち僕は腰を抜かしてしまった。

 いや、なんなのこいつら。


 真ん中の人型はともかく、両端のは大きいよデカすぎるよ強そうすぎるよ。


 それに、二足歩行で喋る魔物なんて絶対魔族だよ。


 なんなの、こいつら?


 どれだけスキルが人間界で強かったとしても、魔族に通用するかまでは分からない。


 いくら聖剣を呼び出して、果敢に立ち向かったとしても。


 魔族たちにとっては、なまくらを超えた木の枝同然のおもちゃかもしれない。

 ぽきっと、折られてしまうかもしれない。


 そうなった時を考えると、すごく怖かった。


「あぁ? こいつ、人間じゃねえか? どっから迷い込んできやがったんだ?」


「へっへっ、腰抜かしてやがんじゃねえか。可愛いねえ」


「あ……あああああぁぁぁ……」


「おいおい、怯えてるじゃねえかよ。怖がらせてやるなって、タロー」


「なっ!? それは酷いですぜ若!! どうかんがえてもザドーのせいじゃないんですかい!?」


「へっへっ。俺は違いますよねえ、クード坊ちゃん?」


「……その口調に悪人面だし、ザドーも大概なのかもな」


「へぇぇ!? そ、そりゃあないですよ坊ちゃん!」


 と思ったら、なぜか知らないけどこの三人は揉めだした。

 ……なんか、コントしてない?


 これって、逃げれる隙あるんじゃない……?


 ――賭けてみる?


「うおおおおおおお!!!」


 そう思って、僕は一縷いちるの望みにすがるように逃げ出した。


「「「あっ!?」」」


「オーエス! 【重力操作】を使って僕の体を軽くして!! 早く!!」


『承知いたしました』


 そして、オーエスにスキルを発動するよう指示を出す。


 脳内にオーエスの声が響くなり、僕の体はすごく軽くなった。

 走る足取りもふんわりとして、走るたびに体がどんどん加速していく。


「逃げろおおおおおおお!!」


「おい、待ちやがれ! 逃げるなって!」


 僕は全速力で逃げた。


 ごめん、ナル。


 君の行方を探すのは、もう少し後になるかもしれない……。


 そう悔やみながら、僕は全速力で魔族たちから逃げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る