第二章 【魔界へご案内】

第13話 なんだか「不穏」だ……

更新遅れてすみませんでした!

どうぞお納めください!

次回の更新は3/7になります!



──────────────



「そういえば、なんだけどさ。マリウスって、魔界と魔族のこと……どれくらい知ってるの?」


 同棲を始めて、一週間が経った頃。

 どこかそわそわした様子で、ナルはそう聞いてきた。


「……昔の本にちらっと載ってたくらいで、詳細は知らないよ? っていうか、急にどうしたの?」


 あまりにも突然だったので、理由を尋ねる。 

 そしたら、ナルはしどろもどろになりながら答えた。


「ええっとね………その………私が、その……マリウスにどう思われてるか、知りたくて……その本には、なんて書いてあったの?」


 ――どう思われてるか、ってなんだ?


 なんだか、質問の意図と内容が一致していない気がした。

 まあ、聞かれたからには答えるけど。


「魔族は『殺戮や戦争を好む残虐な種族』。魔界は『地獄』って書いてあったかな。でも……ナルはそんな、本に書いてあったような通りの魔族には見えないよ」


 僕はそう告げた。

 だって、ナルはナルだ。

 それが人間とは違う種族であれ、魔族がどれだけ凶悪だった種族であれ。


 こんなに心優しい女の子が、バケモノ呼ばわりされて差別されるなんて・

 そんなことが、許される訳ないんだ。

 そう思って、言った。


「……! そっ……か……! ありがとう、マリウス! 大好きっ!」


 すると、ナルはいきなり僕に飛びついてきた。


「あははっ、そんなにひっついてこなくてもいいでしょ」


「ううんっ! こうしないと気が済まないのっ! えへへ~」


 そして、これみよがしに胸元に頭を擦り付けてくる。

 ……まるで子犬みたいで、本当に可愛いな。


「もう……。少しだけだよ? そろそろ農作業に出掛ける時間だし」


「分かってるって~! えへへ~」


「ほんとかなぁ……?」


 『少しだけ』といいつつも、僕はナルを優しく抱きしめていた。

 本当のことを言えば、ずっとこうしていたいから。

 

 けど、時間は止まってはくれない。

 そうこうしているいうちに、出発する時間になってしまったから。


「はい、おしまい。……ほらナル、時間だよ。離れて?」


「うぅ……っ、嫌だよ! 行かないでマリウスーっ!」


「……やっぱりそうなるか。ああもう、困ったなぁ………」


 時間になっても一向に離れようとせず、ぐずるナルに対して、僕は対応を困っていた。

 無理やり引き剝がすわけにもいかないし、こうなったら本当に止まらないし……。


 そんな中、途方に暮れる僕を現実に引き戻すように、戸を叩く音がした。


「マリウスくーん、呼びに来ましたよー」


「ほら、サリーさんが呼んでる。……ねえナル。僕がこうやって農作業を手伝っているのは、この村へのせめてもの償いなんだ。それももう少しで終わるから、手を放してくれないかな? そろそろ、魔界にも行けると思うし」


「……っ、わかった。………行ってらっしゃい、マリウス」


 そして必死に説得した結果、ナルは僕の説得を聞き入れてくれた。

 とはいっても、彼女は不満そうに服の袖を掴みながら、僕を上目遣いで睨んでいたけど。


「帰って来たら、また撫でてあげるから。……それに、大事な話もあるんだ。だからいい子で待っててね」


「ふんっ。子ども扱いしないでよ!」


 最後に僕がそう言ったら、ナルはそっぽを向いてしまった。

 ……拗ねちゃったか。


「あはは、ごめんって。……じゃあ、行ってくるよ」


「ふーんだ! マリウスなんか知―らないっ!」


「遅れてごめんさない。今開けますね、サリーさん」


「無視するなーっ!!」


 ナルに挨拶した後、僕はドアを開けてサリーさんと合流する。

 なんだか怒られたような気もするけど、気のせいでしょ。


 うん、そういう事にしておこう。



 その後、しばらく農作業を手伝って。

 日が暮れる頃になって仕事が終わり、家に帰って来た。


「ふぅ……今日も疲れたな。ただいまー……って、あれ?」


 そして家の戸を開けた瞬間、僕は違和感を覚えていた。

 その違和感の正体は、一目見てわかるほどに大きなものだった。


 それは、黒い穴。

 文字通り……家の壁に大きな「穴」が開いていたのだ。


 辺りが歪むほど、異質で膨大な量の魔力を放つそれを解説する文字が、脳裏に表示される。

 

 その通告は、異質なものであった。


『オブジェクト:異界への扉を検知。アドミニストレータに危険が及ぶ確立は0.22%。対象:ジャアク=ナルが異界への扉を通過した確率……97%』


 と。

 それは、僕を驚かせるには充分すぎる内容だった。


「なんだって!? オーエス、本当なのか!?」


『可能性は高いです。いかがなさいますか、マスター』


「助けに行くに決まってるだろ!? もし罠だとしても、君の力を借りれば乗り越えられる! 行くよ、オーエス!」


 どころか、この時の僕は冷静な判断ができなくなっていた。


『……承知いたしました。ただちにスキル発動の準備をいたします』


 オーエスがそう告げると共に、僕は異界の扉へ飛び込むべく助走をつける。


 どうして、こんなことになったんだろう。


 あの時……朝にもっと、話を聞いておけばよかった。


「待っててくれよ、ナル……!」


 僕はそんな後悔を抱きながら、少しずつ縮小しつつある異界への扉へ、真っ先に飛び込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る