第二章 【魔界へご案内】
第13話 なんだか「不穏」だ……
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「そういえば、なんだけどさ。マリウスって、魔界と魔族のこと……どれくらい知ってるの?」
同棲を始めて、一週間が経った頃。
どこかそわそわした様子で、ナルはそう聞いてきた。
「……昔の本にちらっと載ってたくらいで、詳細は知らないよ? っていうか、急にどうしたの?」
あまりにも突然だったので、理由を尋ねる。
そしたら、ナルはしどろもどろになりながら答えた。
「ええっとね………その………私が、その……マリウスにどう思われてるか、知りたくて……その本には、なんて書いてあったの?」
――どう思われてるか、ってなんだ?
なんだか、質問の意図と内容が一致していない気がした。
まあ、聞かれたからには答えるけど。
「魔族は『殺戮や戦争を好む残虐な種族』。魔界は『地獄』って書いてあったかな。でも……ナルはそんな、本に書いてあったような通りの魔族には見えないよ」
僕はそう告げた。
だって、ナルはナルだ。
それが人間とは違う種族であれ、魔族がどれだけ凶悪だった種族であれ。
こんなに心優しい女の子が、バケモノ呼ばわりされて差別されるなんて・
そんなことが、許される訳ないんだ。
そう思って、言った。
「……! そっ……か……! ありがとう、マリウス! 大好きっ!」
すると、ナルはいきなり僕に飛びついてきた。
「あははっ、そんなにひっついてこなくてもいいでしょ」
「ううんっ! こうしないと気が済まないのっ! えへへ~」
そして、これみよがしに胸元に頭を擦り付けてくる。
……まるで子犬みたいで、本当に可愛いな。
「もう……。少しだけだよ? そろそろ農作業に出掛ける時間だし」
「分かってるって~! えへへ~」
「ほんとかなぁ……?」
『少しだけ』といいつつも、僕はナルを優しく抱きしめていた。
本当のことを言えば、ずっとこうしていたいから。
けど、時間は止まってはくれない。
そうこうしているいうちに、出発する時間になってしまったから。
「はい、おしまい。……ほらナル、時間だよ。離れて?」
「うぅ……っ、嫌だよ! 行かないでマリウスーっ!」
「……やっぱりそうなるか。ああもう、困ったなぁ………」
時間になっても一向に離れようとせず、ぐずるナルに対して、僕は対応を困っていた。
無理やり引き剝がすわけにもいかないし、こうなったら本当に止まらないし……。
そんな中、途方に暮れる僕を現実に引き戻すように、戸を叩く音がした。
「マリウスくーん、呼びに来ましたよー」
「ほら、サリーさんが呼んでる。……ねえナル。僕がこうやって農作業を手伝っているのは、この村へのせめてもの償いなんだ。それももう少しで終わるから、手を放してくれないかな? そろそろ、魔界にも行けると思うし」
「……っ、わかった。………行ってらっしゃい、マリウス」
そして必死に説得した結果、ナルは僕の説得を聞き入れてくれた。
とはいっても、彼女は不満そうに服の袖を掴みながら、僕を上目遣いで睨んでいたけど。
「帰って来たら、また撫でてあげるから。……それに、大事な話もあるんだ。だからいい子で待っててね」
「ふんっ。子ども扱いしないでよ!」
最後に僕がそう言ったら、ナルはそっぽを向いてしまった。
……拗ねちゃったか。
「あはは、ごめんって。……じゃあ、行ってくるよ」
「ふーんだ! マリウスなんか知―らないっ!」
「遅れてごめんさない。今開けますね、サリーさん」
「無視するなーっ!!」
ナルに挨拶した後、僕はドアを開けてサリーさんと合流する。
なんだか怒られたような気もするけど、気のせいでしょ。
うん、そういう事にしておこう。
*
その後、しばらく農作業を手伝って。
日が暮れる頃になって仕事が終わり、家に帰って来た。
「ふぅ……今日も疲れたな。ただいまー……って、あれ?」
そして家の戸を開けた瞬間、僕は違和感を覚えていた。
その違和感の正体は、一目見てわかるほどに大きなものだった。
それは、黒い穴。
文字通り……家の壁に大きな「穴」が開いていたのだ。
辺りが歪むほど、異質で膨大な量の魔力を放つそれを解説する文字が、脳裏に表示される。
その通告は、異質なものであった。
『オブジェクト:異界への扉を検知。アドミニストレータに危険が及ぶ確立は0.22%。対象:ジャアク=ナルが異界への扉を通過した確率……97%』
と。
それは、僕を驚かせるには充分すぎる内容だった。
「なんだって!? オーエス、本当なのか!?」
『可能性は高いです。いかがなさいますか、マスター』
「助けに行くに決まってるだろ!? もし罠だとしても、君の力を借りれば乗り越えられる! 行くよ、オーエス!」
どころか、この時の僕は冷静な判断ができなくなっていた。
『……承知いたしました。ただちにスキル発動の準備をいたします』
オーエスがそう告げると共に、僕は異界の扉へ飛び込むべく助走をつける。
どうして、こんなことになったんだろう。
あの時……朝にもっと、話を聞いておけばよかった。
「待っててくれよ、ナル……!」
僕はそんな後悔を抱きながら、少しずつ縮小しつつある異界への扉へ、真っ先に飛び込んでいた。
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