第12話 僕がしたのは「再会と決意」

お待たせしました本編です!

どうぞ!!お納めください!



──────────────



『………タ……。スター……』


「……えっ、誰? っていうか………ここは?」


 どこからか、声がした。

 それは、とても聞き慣れた声だった。

 目の前には、不思議な空間が広がっていた。


 僕はさっきまで、ナルと朝食をとっていたはずだ。


 ……直前の記憶がはっきりしているので、おそらく夢を見ている訳ではない。


 でも、幼少期にいつも似たような場所にいる夢を見ていた事を思い出す。


 それは、今でも思い出せる夢だった。

 ふわりとろりと心地よい、この空間に決まって現れる、少女の夢。


 まるで魔導人工知能オートマタのような、機械的な口調で僕をマスターと呼ぶ少女。


 そんな彼女は、いつも僕の相手をしてくれた。

 彼女はいつも無表情だった。

 そして、いつの間にか僕の目の前には、その見慣れた姿の少女が現れていた。


「………え……………」


 そんな彼女といつから話すようになったか、なぜ会わなくなったかは覚えていない。

 それでも、彼女の名前だけは覚えていた。


 僕は驚きながらも彼女の名前を呼んだ。


「お……オーエス!?」


 と。


『お久しぶりです、マスター』


 対するオーエスは、わずかに微笑みながらそう言った。


「………っ、オーエス、久しぶりっ!」


 僕はそんなオーエスの声を聞いて。

 今まで無表情だった彼女が、笑みを作ったのを見て。

 泣きそうになりながら、彼女へ駆け寄った。


 夢の中とはいえ、何年も会えなかった友達との再会と成長に、思わず嬉しくなったのだ。


『マスター、長らくお待たせして申し訳ありませんでした』


 と、オーエスはいきなり謝りだした。


「え……っ、なんのこと? 謝らなくていいよ、オーエス! 僕はまた、キミに会えただけで嬉しいんだ!」


「それは嬉しいです。……ですがマスター。私は、長らくマスターを独りにしてしまいました。私がスキルを再起動させるまで、長い年月をかけてしまいました』


「えっ……ちょっと待ってよ! どういう事? スキルを再起動って……キミは一体?」


 けどその謝罪を、僕は何も理解できなかった。

 オーエスの言ってることが、よく分からなかったのだ。

 そんな僕の心境を読み取ったのか、オーエスはこう言った。


「……単刀直入にお伝えします。私はOS。マスターのスキルを管理する存在です。マスターが今まで、スキルを発現させることができなかったのは、私が長い間眠っていたからなのです。ですので、マスターの呼びかけに応えることもできず、夢に出てくることもできませんでした。………しかし、私は改めて目覚めました。これからよろしくお願いします、マスター」


 と。

 正直、そう言い直されても意味が分からなかった。


 けど、僕はオーエスが言った「マスターのスキルを管理する存在」という言葉をすんなり信じられた。

 だって、スキルが使えるようになった後にオーエスが出てきたんだ。


 僕は「つまり君は、僕のスキルだったってこと!?」だなんて言いながら、驚いた。


 なんだかバカバカしい気がしなくもなかった。

 けれど、不思議な事が起こりすぎて慣れたというか。


「すごいや、じゃあ………あの時……僕がゴロツキと戦った時に代わりに戦ってくれたのは、君だったの!? それにこうやって君が目覚めたってことは、また夢の中で一緒に話ができるね! すごいよオーエス!」


 僕は感嘆しながらそう言った。


『……ええ。お褒めの言葉、ありがたく頂戴します。マスター』


 そしたら、オーエスはそう返した。


「そういうのはいいって! ……でもオーエス。どうして急に、僕をこんなところに呼び出したの? ここは夢の中とか、そういう感じの場所?」


「……こちらは、マスターの精神世界です。唐突ではありますが、再起動を終えて再びマスターと会話できる状態になりましたので、呼び出しました。現実世界へ戻りたいのでしたら、ここを出るように念じれば戻れるはずです」


「あ、そうなんだ………ありがとう。――じゃあオーエス。今度からはできるだけ、僕をこの世界に呼ぶときは許可をとってね? いきなりここに来ると驚いちゃうから……ね?」


「承知いたしました。食事の邪魔をしてすみません、マスター。……では、再び現実世界へお戻りください」


「ありがとう! じゃ、また夢で会おうね!」


 僕はそう言って、オーエスに手を振った。

 その時……淡々と話すオーエスが、この時はどこか笑っていたように見えた。


「――マリウス!? どうしたの、ねえ! マリウスってば!」


 と、オーエスが見せた意外な表情に驚く暇もなく。

 ナルに呼びかけられて、ハッとする。


「あ……、ごめんナル! ボーっとしてた!」


「………! よかったぁ………! ねえマリウス、私とっても心配したんだよ!? ご飯を食べたと思ったらいきなり放心しだすんだもん! 私のご飯が口に合わなかったのかなって、ハラハラしちゃったじゃない!」


「ご、ごめん! ご飯は美味しいんだよ! でもさ! その……なんか、そう! 美味しすぎてボーっとしちゃったんだよ! 本当に!」


「ええっ、なにそれ!? そんなに美味しかったの!? 嬉しいなぁ~! 将来のためにいっぱい練習した甲斐があったよ! ありがとうマリウス!」


「う、うん! あはは………」


 そして、とりあえずナルをおだてたことで場は収まった。

 おだてたと言っても、ナルの料理が美味しかったことには変わらない。

 だから、ちょうどよかったのである。


 うん。

 まあ、それはそれとして。


 ナルと同棲を始めて、数日が経った。


 あれから僕は、近隣に住む人達に挨拶をして回り、サリーさんや他の民家の窓を割ってしまったことを弁償すべく、皆の畑仕事を手伝っていた。


 村での生活は、色んなものが目新しく見えるし、毎日が刺激的で楽しい。


 それに、数年ぶりにオーエスと再会できたこともあって、とても嬉しい。


 僕は、スキルが使えないからと王家から追放された。


 でも、今は様々なスキルを使えるようになった。


 僕を好いてくれる人にも出会えたし、スキルの力と、魔族との接点を生かすことができれば、この国を変える僕の目標もすぐに叶えられるかもしれない。


 ……だからこそ。


 僕は、魔界に行きたい。

 早いうちに、目標を叶えたい。


 しばらくは村の復興を手伝うけど、それが終わったら、ナルと相談してすぐに魔界へ行こうと思う。


 そして、ナルのお父さんとも仲良くなって。

 どうにかして、魔王の座を手に入れてみせる。

 僕はこの力で、父上を王の座から引きずり降ろす。


 そして、ガラドシアを変える。

 スキルなんかで、人の価値は決まらない。

 その考えは、強力なスキルを使えるようになった今でも変わらない。


 僕は、この力に増長したくないんだ。


 待っていてください、父上。

 僕は、あなたを力でどうにかしようとは思わない。

 でも、王の座からは引きずり降ろします。

 僕のように、スキルのせいで苦しむ人々を助けるために。


 僕は、あなたとは違う方法で成り上がります。

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