第12話IF 「堕落」

こちらは本編で起きるはずだったイベントが発生しない世界線です。

本編は2/28に投稿します!

どんなイベントが起きるのか、お楽しみに!


(ストックが尽きたので本日より二日に一回の定期投稿とさせていただきます。)



──────────────



 ナルと同棲を始めて、数日が経った。


 あれから僕は、近隣に住む人達に挨拶をして回り、サリーさんや他の民家の窓を割ってしまったことを弁償すべく、皆の畑仕事を手伝っていた。


 村での生活は、色んなものが目新しく見えるし、毎日が刺激的で楽しい。


 僕は今、幸せだ。

 僕は、スキルが使えないからと王家から追放された。


 けど、ゴロツキに襲われていたナルを助けたことをきっかけに、スキルを発現させることができた。


 それに、幸運なことに追放された平原の付近にも村があって、おかげで今は住む場所にも困っていない。


 僕を好いてくれる人にも出会えたし、スキルの力と、魔族との接点を生かすことができれば、この国を変える僕の目標もすぐに叶えられるかもしれない。


 でも……。

 こんなに順調で、いいんだろうか?

 と、思う。


 今までずっと、僕は家族に虐げられてきた。

 そんな生活に比べたら、今は天国だ。


 けれど、いずれこのツケを払わなければいけない時がやってくるんじゃないだろうか。


 こんな平和な日々も、長くは続かない。

 そう思えて、ならないのだ。

 仮にその日がやってくるとしたら、いつになるだろう。


 想像するたび、次第に怖くなってくる。

 できるのならば、僕が父と代わって王になった後がいい。

 ……それは百歩譲ってツケを払うなら、という話だけど。


 できるなら、そんなものない方がいい。

 僕は……せっかく手に入れたとても楽しい日々を、手放したくはない。

 僕が、この平穏を守らなきゃ。


 いつでもナルやこの村の人達を守れるように、強くいなきゃ。

 そう思いながら、僕はこの日々を過ごしていた。



 ナルと同棲を始めて、数週間経った。


「――ねえ、マリウスってば!」


「えっ?」


 いつの間にか、僕の目の前には頬を膨らませてぷんすかと怒った様子のナルがいた。

 ……ああ、そっか。


 そういえば今は、朝食の時間だっけ。

 なんだか最近は、色んなことに手がつかずにいるな。

 なんて思いながら、僕は朝食をとる。

 

 ……うん、おいしい。

 やっぱりナルが作ったご飯は美味しいな。


「ねえ、聞いてるの!? さっきからずーーっと、ボーっとして! 私が言ってる事に何も答えないじゃん! どうしたの!?」


 なんて思っていると、再びナルは怒った様子で僕に言った。

 けれど、少し放っておいてほしい。

 だから僕は、いつも決まって同じ事を言う。


「………ごめん。ちょっと、辛いことを思い出しちゃって」


 と。


「辛いことって? ……もしかして、マリウスが王宮にいた頃の話?」


 そしたら、ナルは決まって心配してくれるから。


「……まあ、そうだね」


「――ねえ、さっきから本当に大丈夫? なんだか具合、悪そうだよ?」


「大丈夫だよ。少し思い出してただけだって。……ごちそうさま」


 でも、あまり心配を掛けすぎるのもよくない。


 だから僕は、とりあえずナルに心配をかけないために席を立った。

 本当は、ずっとナルに甘えていたい。

 本当は、農作業の手伝いなんかしたくない。 


 でも、やらないと。

 そう思って、重い腰を上げる。


 最近はずっと、こんな感じだ。



 ナルと同棲を始めて、数ヶ月が経った。

 あれから僕は……少し、思うようになったんだ。


 『本当に、このままでいいのか』って。


 『早く、あいつらに復讐しなくていいのか』って。


 心の中のもう一人の自分が、囁くようになったんだ。

 自分を酷い目に遭わせた父や兄妹たちに、復讐をしたいって。


 そして、ナルやその父である魔王の存在を利用して、僕が魔王になって。

 今度は、僕が家族を虐げてやれよって。


 確かに内心では、僕はそれを望んでる気がする。

 でも僕は……できるならずっと、この村に住んでいたい。


 本当は、魔界に行くのもいいし、ナルと結婚するのも悪くないとも思う。


 でも僕は、魔王になって権力を手に入れた瞬間、調子に乗って皆に酷いことをしてしまうかもしれない。

 それが、嫌なんだ。


 そしたら、いよいよ父上と変わらなくなる。

 認めたくはないけど、僕は父上を恨んでいる。

 だから僕は、そんな人と同じような事をしたくないんだ。


 だから………。


「……そういえば、なんだけどさ。マリウスって、魔界と魔族のこと……どれくらい知ってるの?」


「っ!?」


 ふと、洗濯籠を抱えながら聞いてきたナルの声を聞いた途端に、僕は怖くなった。

 今すぐにでも、ナルに酷いことをしそうになったからだ。


「………マリウス?」


 ナルは怪訝そうに聞いてくる。

 僕はナルをめちゃくちゃにしたい衝動を抑えながら、必死に答えた。


「あ………っ、そ、そうだなあ……。昔の本にちらっと載ってたくらいで、詳細は知らないよ」


「へ、へぇ~。……その本には、なんて書いてあったの?」


「魔族は『殺戮や戦争を好む残虐な種族』。魔界は『地獄』って書いてあったかな。でも……ナルはそんな、本に書いてあったような通りの魔族には見えないよ」


「……そっか」


「うん。ナルは普通」


「………? ………そっか」


 そうだ。

 ナルは、普通なんだ。


 ……元々ナルがこの村で暮らしているのも、魔界から人間界へたどり着いた時に倒れていたところをこの村の人が見つけて、拾ってくれたかららしい。


 とはいえ、家事はある程度一人でできるみたいだったし、魔族だからというのもあって用心棒代わりになっていたとのことだし。


 が、それを聞いて、一つ疑問が浮かんだ。


「……でも、あのゴロツキに殺されかけてたよね?」


 と。

 そしたらナルは、顔を真っ赤にして。


「うるさいっ! だってあいつら、魔道具持ってたでしょ!? それにあの時は、体が重くて動けなかったの! 私はマリウスたちみたいに、スキルみたいな不思議な力

は使えないの! わかった!?」


 と、可愛らしく怒った。

 ……そうなんだ。

 っていうか、そっか。


 スキルといえば……。


 あれから僕、スキルを全く使ってないな。

 だってこの村、平和だし。

 それに、今の僕のスキルなら、父上や兄妹たちなんて敵じゃないはずだ。


 現に、ゴロツキを追い払う時に使った【剣聖】のスキルは、兄が持っていたものだ。


 僕は、好きな時にスキルを奪える。

 前に僕は『人から奪ったスキルで胸を張る資格なんて、僕にはない』と思っていた。


 だけど、そんな綺麗事はもう必要ない。 

 僕は、あいつらに復讐しようと思う。

 そして、僕が築く帝国にナルを住まわせるんだ。


 魔界になんて、帰らせない。


 僕は、この世界を支配する。

 このスキルの力で。

 僕とナルのためだけの国を作るんだ。


 誰にも邪魔はさせない。


 絶対に。

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