第11話 「ど、同棲!?」
「ほら、こっちだよ!」
「ちょっ!? 待ってよナル! どこ行くの!?」
頭痛と吐き気に
「どこって………。マリウスが言ったんでしょ? 『この家を貸してくれた人にお礼を言いたいな』って! だから、サリーおばあちゃんを探してるの! でもおかしいなぁ……。どこに行ってもいないんだよね、おばあちゃん」
「え………ええぇ……っ、なんだよそれ………僕、今すごく頭痛いんだけど………?」
……が、頭痛のせいで走ることが苦痛に感じる。
いくらなんでもこの状態で走り回るのはしんどすぎるので、頭痛に苦しんでいることをナルに伝える。
「あっ、そうだった! ごめんね!?」
「忘れないでよ……。――でも、ごめんナル。その“サリーおばあちゃん”って人にお礼を言いにいくのは、また後でにしてくれないかな………?」
「うんっ、すぐ家に戻ろう! 具合悪いまま連れ回しちゃってごめんね!」
と、ナルは僕の訴えにすぐ応じてくれた。
「……大丈夫。でも、次から出かける時は一言ことわってくれると嬉しいな………」
「ごめんね! 待ってて、おんぶしてあげる! 掴まって!」
「ありがとう……っ、助かるよ………」
それから僕は、ナルに
……相手が魔族だとはいえ、女の子におぶってもらうなんて情けなさすぎる。
なんて思いながらも、僕は倒れるようにベッドに寝転んだ。
その後、しばらく再びナルに看病してもらうことになった。
「うぅ……女の子におんぶしてもらうなんて恥ずかしいよ………。かなり心に来る………」
「あははっ! マリウスって、変なところで意地はってて可愛いね!」
「か……かわっ!? やめて………本当に辛くなるから………」
それだけに留まらず、僕は更なる辱しめを受けた。
「えぇ~? いいじゃん、可愛いよマリウス!」
ベッドの上で顔を隠してうずくまっても、ナルが放つ『可愛い』攻撃に恥じらってしまう。
「待って、その『可愛い』って言うの………本当にやめて……うぷっ!?」
そんな中、僕の胃は突然悲鳴を上げた。
「えっ!? このタイミングで吐きそうなの!? ごめんね、やめる!」
「うん…………ねえナル、桶とかない……?」
さすがにここでぶちまけられたら困ると言わんばかりに、ナルは僕がえずいた瞬間『可愛い』攻撃をやめた。
……逆を言えば、不都合さえ起こらなければまた辱しめの応酬が飛んでくるってことだけど。
気を抜いてしまえば僕の胃はすぐに決壊してしまいそうなので、吐いても迷惑にならないように桶を要求する。
「はいはい、桶ですね。ありますよ。どうぞ」
「ああ……ありが…………」
すると僕の要求通り、目の前に桶が差し出れる。
しかし、それを用意してくれたのはナルとは違う声だった。
「………え?」
疑問に思って顔を上げると、僕の目の前には、優しそうな面持ちでこちらを見つめるおばあさんがいた。
「あ………どうも………こんにちは……」
「はい、こんにちは。ナルちゃんから聞いてると思うけど、私がサリーよ。……村を救ってくれてありがとうね、剣聖様」
「…………! いえ、サリーさん、僕は剣聖なんかじゃ……」
「えっ!? おばあちゃん、いつの間に帰ってきてたの!?」
と、僕たちの会話に突如ナルが割りこむ。
「ついさっきよ。気付かなかったのかい?」
「う、うん! だって! さっき私たち、おばあちゃんを探しに行ったのに! その時はどこにもいなかったから、心配したんだよ?」
「あらぁ、それはごめんね、ナルちゃん」
と、それからナルが話し始めたせいで話が脱線したので、僕は元に戻そうとした。
「あ、あの………」
「あっ! ごめんマリウス、剣聖の話だったね!」
(ちゃんと話は聞いてるんだ………)
「あぁ、そうでしたね。……剣聖様は冗談がお好きなのね。でも謙遜はいけないわ。あなたはこの村を救った救世主なんだから、胸を張っていいのよ?」
「いえいえ! 僕はそんな立派な立場じゃないですよ! ただ困ってる人が目の前にいたから、助けただけですから! 本当にそれだけなので!」
そして僕は、話がちゃんと戻ったことに安心しながら再びサリーさんの言葉を訂正する。
「あら、そうなの。……分かったわ。でも忘れないでね、マリウスくん。謙遜しすぎると、傷つく人もいるものだから」
「あ……はい。それは………ごめんなさい」
しかし、その訂正はまずかったのだろうか。
思わぬタイミングでサリーさんからそんな忠告が飛んできたので、僕は自身を卑下しすぎた事を少し後悔した。
けれど、僕のスキルは剣聖じゃない。
それは事実だった。
僕が持つ【スキル操作権限:アドミニストレータ】は、相手のスキルを奪い、本来なら一人一つまでのスキルを複数保持することができるというスキルだ。
僕が剣聖だと呼ばれる理由は恐らく、剣聖スキルの所持者のみが召喚できる聖剣を使っていたからだろう。
だけどそれは、人から奪ったスキルだ。
【剣聖】のスキルは多分、元々兄のギートが持っていたものだろうから。
僕は、それを知らずに奪っていたのだ。
ナルにかけた水だって、あれは……僕に仕えてくれていたメイドである、ラウラのスキルを発動したものだ。
僕を追放した兵士や、王宮に使えていた従者たちのスキルさえ。
あのゴロツキもそうだ。
僕は、色んな人たちのスキルを奪っている。
だから、人から奪ったスキルで胸を張る資格なんて、僕にはない。
そう思ったのだ。
「……………………」
「あら、そこまで落ち込まなくてもいいのよ。私は大丈夫だもの」
「……あ。そう、なんですね。ありがとうございます」
が、僕が黙ってしまったせいで、場は急に静まり返ってしまった。
そこにサリーさんは優しくフォローを入れてくれるも、気まずいことには変わりなかった。
「……………」
「それよりもね、マリウスくん。ちょっと提案があるのだけど、いい?」
しかしサリーさんは、その沈黙をすぐさま破った。
「えっ……? なんでしょうか?」
恐る恐る問う僕に対し、サリーさんはとんでもない提案を口にしていた。
ナルもそれに驚いたのか、いつの間にか目を丸くしながら顔を上げていた。
「あのね、マリウスくん。それにナルちゃんも。……一つ空き家を貸してあげるから、あなたたち……そこに二人で住んでみない?」
と。
「おえええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?」
僕はその提案に、心底驚いた。
驚きすぎて、吐いた。
「キャ――――――――――――っ!?」
「あらまあ、大変! そんなに驚くことだったかしら!?」
「んぐ……っ、驚くに決まってるじゃないですか!? どういう事ですか!?」
ナルは悲鳴を上げたが、サリーさんは意外な様子を見せていた。
……いや、どういうことなの。
ちょっとくらい驚いてよ、サリーさんは。
出会ったばかりの魔族の女の子と、いきなり同棲?
どういうことなの??
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