第7話 「決着」をつけよう

「クソッ、クソォォ! どうしてくれんだよ、オイ! このガキィ!」


 ゴロツキBは涙目でスキルを発動させようと何度も試みるが、もう奴の腕は変化しなかった。

 さっき見た弓の形にも、そいつが言った剣の形にも。


 炎に包まれた村の中央でうろたえるゴロツキBと、それに相対あいたいする僕。


 その周りを、4人のゴロツキたちが取り囲む。

 そんなゴロツキたちは、ひどく怯えた表情をしていた。


 僕はまったく状況を飲み込めていなかった。

 だってスキルが突然使えなくなるなんて、本来はありえない。


 何が起きているのか、分からなかった。


 ……だけど、これだけは確かに言える。


「なにが『』だよ! どうしようもないだろ、これが受けて当然の報いなんだ!」


 僕はゴロツキBにそう叫んでいた。


 少し言い過ぎな気はしたけど、なにせ相手は村を平気で燃やすような輩だ。


 過去にも同じようなことをして、命を平気で奪っているかもしれないと考えると、もう止まらなかった。


「ギィッ……! 黙れェェェェ!!」


 するとゴロツキBは逆上して、再び襲い掛かってきた。


 正論をつきつけられ、何も言い返せなかったからだろうか。


「黙るのはお前だ! いい加減に反省しろ……」


 対して僕はそう返し、再びスキルを発動させようと試みた。

 今まではスキルが勝手に発動して、僕はそれに頼りっぱなしだった。


 だけど、いざという時に自分の意思で使いこなせないとマズいだろう。

 そう思った、次の瞬間だった。


「ガキが! 調子に乗ってんじゃねェ!」


「うぐっ!?」


 背後から手を回され、たちまち僕はゴロツキAに羽交い締めにされていた。


「へっへェ! 今だ、ブルーノ! やっちまえェ」


「ギェヒッ! よくやったアロイス!」


「なっ……!? おい、離せ!」


 屈強な大男に両腕を封じられ、それを振りほどく事もままならない。


 だけど、これで自分の意思でスキルを使わなければならなくなった。

 ぶっつけ本番だけど、これはチャンスだ。


(頼む! 発動してくれ、スキル!)


 だから僕は、自分の体へ強く念じた。

 こいつらは僕を殺そうとしたけど、僕は決してこのゴロツキたちを殺さない。


 現に、スキルが暴走して勝手にこいつらを殺そうとした所を僕は止めた。 

 こいつらには、生きて罪を償わせないといけないからだ。


 少女に暴力を振るったあげく、バケモノと罵倒する。


「もう悪さはするな」という忠告を無視し、村を燃やして関係ない人々を危険に晒す。


 おまけに武器を捨て、降参のポーズをとって僕の油断を誘ったところを不意打ち。

 

 それ以外にも、こいつらは過去にもっと酷い罪を犯してきたと思う。

 だけど、それを裁くのは僕の役目じゃない。


 それでも、こいつらには犯した罪の数だけそれを償っていく義務があるのだ。

 だから、頼む。

 僕に、力を貸して欲しい。


 その一心で、僕はスキルへと乞い願った。

 

「ギェシェェ! まずは一発、お返しだッ!」


『アドミニストレータからの指示を確認。ただちに承認、およびスキルを発動します』

 

 ゴロツキBが拳を振りかぶると同時、僕の頭の中に声が響く。


 そして次の瞬間、僕は雄叫びを上げていた。


「──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」 

 

「ギェ…………ッ!?」


「があああああああァッ!」


「「うああああああああぁ!?」」 


 その直後、たちまち盗賊たちは悶絶しながら倒れていた。

 拳を振りかぶっていたゴロツキBは、僕が叫ぶなり白目をむきながら崩れ落ちた。


 後ろから僕を締め上げていたはずのゴロツキAはいつの間にか地に倒れていた。

 ゴロツキC、Dは一瞬で気絶。


「てッ、てめぇ……何を……しやがっ…………」


 部下たちがどんどん倒れていく中でも、ボス格のゴロツキだけは辛うじて意識を残していた。

 が、数秒経ったころにはこいつも倒れてしまっていた。


 村中には、僕の声が大きく木霊こだましていた。

 そして、その音圧で炎がどんどん消えていく。


 まるで風に吹かれたロウソクの火のように、村中を侵食する炎が次々と消えていく。


 僕が放った咆哮ほうこうは、スキルによって声量が大きくなっていた。

 自身の声を増幅させ、ガラスさえも破壊する音圧で攻撃するスキル【ボイスアンプ】の効果で。


 自分でも、信じられなかった。

 スキルは本来、一人につき一つしか与えられないものなのだ。


 そして、スキルを発現した人間が急に使えなくなる事例もありえない。

 

 ──だけど、僕が発現したスキル【スキル操作権限:アドミニストレータ】ならば可能だったのだ。

 スキルをたくさん保有することも、人からスキルを奪うことも。



 盗賊たちは、泡を吹いて倒れていた。

 途端に、場が静まりかえる。

 そんな沈黙を割るように、僕は呟いた。


「……これが、僕のスキル」


 ひしひしと力が溢れてくるのを感じる。

 そして【ボイスアンプ】の他にも、僕は色んなスキルが使えるようになっていた。


 そのスキルはボス格のゴロツキが使っていた【ファイアブレス】や、重力を操れるスキル【重力操作】など。


 急にスキルを把握できるようになったのは、スキルが本格的に僕の体へ定着したからだ。

 途端に、僕は嬉しくなった。


 スキルが使えようになるって、こんなに嬉しいものなんだ。

 この力があれば……。

 父上を、王の座から引きずり降ろすことができる。


 が、そう思った瞬間だった。

 嬉しさの余韻に浸る暇もなく、とつぜん意識が遠のいていく。

 そして一瞬だけ、世界が反転したような感覚に襲われた。


「はっ――?」


 頭がズキズキと痛み、めまいがする。

 なんだ? どうなってるんだ……?

 次の瞬間、僕は地面に倒れていた。

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