第6話 これが「スキル」の力だ

 僕は一瞬で、目の前に飛んできた矢を真っ二つに斬っていた。


「ギヒッ……!? な、なんなんだよコイツ!?」


 ゴロツキBは突然矢を斬った僕を見て、動揺しながらも変形した腕を再び構えた。

 それに備えるべく、僕の体も勝手に構える。

 

「ギィィ! 喰らえィッ!」


 そして僕の体はゴロツキBが放った三発の矢を素早くかわし、勝手に炎の中へと飛び込んだ。


「ギェヘェッ!?」


「「なァっ!?」」


「ひィィ! な、なんなんだよあのガキィ!」


 そして僕が炎の中から顔を出すと、ゴロツキたちは声を揃えて驚いた。

 その隙を逃すことなく、僕の体は勝手に、鋭く踏みこんでいた。


 大地を踏みしめ、脚に込めた力を跳躍して解き放つ。


 すると燃える家々がものすごいスピードで自分の後ろへ流れていき、熱風が僕へ打ち付けるように吹いた。


 熱い。

 そして、速い。


 目先にいたゴロツキたちが、すぐ目と鼻の先まで迫ってくる。

 しかしそれは、そいつらが迫ってきているわけではない。 

 僕がゴロツキたちの元へ詰めているのだ。


 それも、風のようなスピードで。


「ギヒャァァァァァァ!?」


「「「ぎゃあああああああ!!?」」」


「チぃッ、怯むんじゃねぇお前ら! 早くスキルで迎え撃て!」


 そんな僕を見て、男たちはさっきと一変。

 ボス格以外のゴロツキ四人は目元に涙を溜め、怯えた表情を浮かべていた。


 ……そんなに怯えるくらいだったら最初からやるなよ、盗賊。


 なんて思ったが、僕はそれを飲み込んだ。

 どうせ口に出しても喋れないし、そんなことを言ったところで体が勝手に止まるわけでもないのだ。


 だから僕は、自分の体へ強く念じることだけに専念していた。


(頼むから、殺さないでくれよ……!!)


 と。


「クソッ、使えねぇ子分どもだな!」


 しかしボス格のゴロツキは、諦めていない様子だった。

 超スピードで詰めてくる僕に対し、奴は動じることもなくスキルで応戦。


 鼻から息を思いっきり吸い込んだかと思えば、口から燃え盛る炎を吐いてきた。


(…………! 火事を起こしたのはこいつか! よくも関係のない人たちの家を燃やしておいて、ぬけぬけと……! 絶対に許さない!)


 もう、僕はこの一日で「許さない」と何度言っただろうか。

 どうして皆、僕を怒らせるんだよ。


 ……だけど怒りやスキルに身を任せて、殺したらダメだ。

 こいつらには、生きて罪を償わせるんだ。


 そんな僕の意思に応えてくれるかのように、体が勝手に炎のブレスを斬り払いながら進んでいく。


 さっきはギリギリだったけど、強く念じたからか僕の体は止まってくれた。


 だから今回は、前回よりも早いうちに、そして強く念じるのだ。


(頼むっ!!)


 ゴロツキたちが間合いに入った瞬間、僕の体は素早く剣をいだ。


 その一閃はゴロツキAの首へと吸い込まれ、刃が喉元に届く寸前まで迫る。

 刀身がその首筋を捉えるギリギリで、僕は叫んでいた。


(やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)


 叫んだ、といっても声は出なかった。


 しかし声を出せずとも、喉が枯れそうなくらいには叫んだつもりだった。


 だから、だろうか。

 僕の体は確かに、ゴロツキAの喉元ギリギリで剣を止めていた。


「ひ……………っ」


(………止まっ……た!?)


 男は目元に涙を浮かべ、僕を見つめていた。

 そんな女々しい反応のゴロツキAへ、僕の体を借りた誰かが淡々と告げる。


「……命令です。命が惜しければ、今すぐ抵抗をやめなさい」


「……………っ!」


 途端にゴロツキたちは硬直した。

 今度はボス格の男でさえ、他のゴロツキたちと同じように動きを止めていた。


 部下が人質に取られている状態では、やはりうかつに手を出せないのだろう。

 使えないと吐き捨てた割には、ボスらしく情が厚いことだ。


 しかし人質とはいっても、これは僕の意思じゃなかった。


「クソッ! てめェ、何度も卑怯なことしやがって……」


「卑怯? それはお前たちだろ!」


 喉元に刃を突き付けられてもなお、悪態をつこうとするゴロツキA。

 それに対して思ったことが、声に出た。


 さっきまで喋れなかったのに、また急に声を出せるようになったのだ。


「女の子をバケモノ呼ばわりして暴力を振るう。村を燃やして、関係のない人たちまで巻き込む。お前たちの方がよっぽど卑怯で恥ずかしい事をしているってことが、まだ分からないのか!?」


 だから、僕はつい声を荒げてしまった。


 刃をゴロツキの喉元へ突き付けたまま、僕は感情に任せてそいつを問い詰める。


「……! まっ、待ってくれ! あの女がバケモノだって事は本当だ! それに、この村だってあいつを庇って――」


「うるさい! いいから降参するのかしないのか、早く決めろよ!」


「「「「………………………っ!!」」」」


 そして。まだ言い訳を続けようとするゴロツキAの言葉を遮り、僕は叫んでいた。

 直後、沈黙が流れる。

  

 しばらくして、いきなりゴロツキの一人が持っていた武器を炎の中へ投げ捨てた。

 それを皮切りに、周りにいたゴロツキ4人も次々と持っていた武器を放り投げていく。


 奴らは何かを察したような表情で顔を見合わせた後、うつむきながら両手を上げた。

 降参する、ということなのだろうか。


「………? 抵抗をやめて、降参するんだな?」


「「「「………………」」」」


 僕の質問に、奴らは答えなかった。

 代わりに、頭の中にまた声が響いた。


『アドミニストレータの生命危機を感知。至急、対象からのスキル譲渡を実行します』


「ギェシィ!」


(うわっ!?)


 僕の後ろから、ゴロツキBの特徴的な声がした。


 すると僕の体はとっさに振り向いて、そいつの手刀を受け止めた。

 いつの間にか、剣は消えていた。


「ギッ……!」


 さらに間髪いれずにパンチを放つゴロツキB。

 対して僕の体は、飛んできた拳を二発とも受け流してカウンターを放ち、ゴロツキBを華麗に投げとばしていた。


 ……すごい。このスキル、剣術以外にも体術まで扱えるのか。


「ゲハッ!!」


 奴は顔から地面へ放り投げられるも、運よく何も燃えていない場所へ着地。


「ギェホッ! ギェホッ! てっ、てめぇ……!」


 直後、ゴロツキBは口から泥を吐きながら立ち上がった。

 そして次の瞬間、衝撃的な事実を口にしていた。


「――てめぇ、俺様に何をしやがった! 俺はいま、スキルで腕を剣に変化させていたはずだ! なのに、なんで! なんで!」


 と。


(………は?)


 それを聞いて、僕は一瞬耳を疑った。

 なにせ、スキルが突然使えなくなるなんて、本来はありえない。

 僕にも分からなかった。


 一体、どういうことなんだ?

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