第3話 「火花散る戦い」を繰り広げ

 ――キィン!


 いつの間にか、僕は剣を握りしめていた。

 そして、大男が振り下ろした大剣を受け止めていた。


「てめェ……ひっ!?」


 男はなりふり構わず上から大剣を押し付けるが、次第に表情が青ざめていく。

 僕だって、信じられなかった。

 なにせ僕ではない誰かが、僕の体を使って相手の刃を押し退けているのだ。


「う、うぁぁ!?」


 再び金属音が鳴り、男は反動で手を離す。

 持ち主から逃げるように、大剣が弾き上がった。


 上空へ放り投げられたその大剣は、やがて回転しながら勢いよく落下。

 そして、僕の目の前ギリギリに突き刺さった。


(うわっ!?)


 僕は叫んだつもりだった。

 しかし、声は出なかった。

 それどころか、体がいうことを聞かない。


 僕の体は勝手に動いていた。


「ひっ………」


 いつの間にか、僕の体は男へ剣を突きつけていた。

 腰を抜かし、たじろぐ男へ体が勝手に歩を詰める。


 ついさっき、目の前の男が少女へ迫った時と同じように、じりじりと。


(え……っ!? どうして!? 体が動かない!)


 これは僕の意思じゃない。

 これ以上、やるつもりもない。

 だけど、自分でも止められなかった。


 やがて僕の体は、男の前に立ったところで歩みを止めた。


「な、なぁ……。見逃してくれよ、坊ちゃん。俺が悪かったからさ。……な?」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら命乞いする男の姿に、僕はひどく心を痛めた。

 だけど、僕の体は止まらなかった。

 ゆっくりと剣を構え、それを頭上へ持ち上げていく。


「な、なぁ………! 待ってくれよ! お願いします! やめてください!」


 待てない。止まらない。

 男の声は聞こえているのに、僕は自分を止めることができない。


(まずい、どうしよう! もういい! やめろ!)

 

 いつの間にか僕は、剣を振り下ろす体勢に入っていた。


「お願いします! やめて! 助けてぇぇ!」


(頼む、止まってくれ!)


 やめろ。もういい。このままじゃ、こいつは無惨に叩き斬られてしまう。

 なにも、殺さなくたっていいじゃないか。


 そう思った瞬間。

 今度こそ、僕の体はぴたりと動きを止めていた。


「……命が惜しいのならば、逃げだしなさい。今すぐに」


 そして、僕の体を乗っ取った誰かがそう言った。


「…………! ひ、ひィィィィ!!! すみませんでした剣聖さまぁー!」


 そんな僕を目の前にして、抗うすべがなくなった男は、腰を抜かしたまま四つん這いで逃げだした。


(……! よかった………!)


 なにがなんだか分からなかったが、僕は心底ホッとした。

 同時に、改めてこんな大人になりたくないなと思った。


「これに懲りたら、もう悪さするなよー!」


 そして、さっきは喋れなかったのに、いきなり声が出た。


「………えっ?」

   

『対象エネミーの逃走を確認。オペレーションを終了しています』


 驚く暇もなく、謎の声がまた頭の中に響いた。

 すると、次第に体の自由が戻ってくる。

 気付けば、さっきまで僕の手中にあった剣は消えていた。


「………えっ……えっ??」


 どういう事だ?

 やっとスキルを使えるようになったと思ったら、また使えなく――


「すっごー-------いっ!!」


 困惑していると、今度はさっきの女の子が飛び込んできた。


「うおぁっ!?」


 思わずバランスを崩し、僕は少女ともども原っぱに倒れこむ。

 そんな彼女は、かすかにいい香りがした。


「ったたたた……。なに、急に?」


 顔を上げると、彼女は目をキラキラさせながら僕の顔を覗きこんでいた。


「すっごーーい! すごいよキミ! 助けてくれてありがとう! ねえ、私のお婿さんになって!」


「は……っ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 まるで訳が分からない彼女の言葉に、僕は思わず叫んでいた。

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