第四十二話 『誓約の神殿:断罪』
主人公カリス視点 四十話直後
「なんで、なんでお前らがここにいる!!道はない筈だぞ!!」
老人のアンデッドを送った後に無粋な聞き覚えのある声に、ファトゥスだと自然と理解した。
答えようかと思ったけど言ったところで何も意味はないだろう。
「……答える必要はない、それに」
ファトゥスがボロボロになった長剣を突きつけている。
その長剣は鯖が溜まっており、刃こぼれもしている上に少しガタついているようにも見える。
おそらくろくな手入れのひとつもできなかったのだろう。
凡ゆる雑事を僕に押し付けて自分達は何もしなかった弊害なのは言うまでもない。
あれなら骸骨戦士の持つ武器の方がまだ使えるだろう。
淡々と分析をしつつ長剣を構えてファトゥスに要求する。
「お前には、僕のを返してもらう。」
僕の恩人も、聖剣も、奪ったものは必ず取り返させてもらおう。
「
声を荒げ踏み込んできたファトゥスの攻撃を月光を長剣に反射させて目眩しをして軽やかに避ける。
途端、ファトゥスは目を抑え苦しみもがき始めた。
……え、なに?こわ。
何かされる前に気絶させるかと柄頭で後頭部を強打しようと振るうが避けられた、というより無様に転んだようだ。
「なんだ、今のは」
脚でも切り落とした方がいいか、その方が避けにくくなるだろうから、それとも腕がいいだろうか?
立ち上がり困惑しているファトゥスの前に一気に踏み込んで斬り上げるが避けられた。
「吾も加勢を」
「竜人、これはカリスの戦い。邪魔しないでおきなさい。」
「ですが」
「負けると思う?あれ」
「……思いませぬな」
2人がそう会話しているのを聞いて介入しないのは素直にありがたいと感じた。
目の前のこのファトゥスに集中していたかったからだ。
「クソがぁ!!舐めるんじゃねえぞ!!
今度は大振りで薙ぎ払う攻撃の軌道に合わせて軽やかに避けた。
感情が先に出ているためか攻撃が全て大振りで読みやすい。
同時に長剣を振るいファトゥスの背中を斬りつけると血がパッと広がる。
同時にファトゥスが尋常ではない叫びを上げる。
……さっきから何?
ファトゥスが自分の身体をペタペタと触りこちらを険悪な形相で睨みつける。
「お前、俺に何をしたぁ!!」
「……?」
何の事かわからないけど、追い詰めるには道具を使えないようにした方がいいか。
怒りに身を任せ振るおうとするファトゥスの前に踏み込んで斬り上げると避けられる、だがそのまま返す刃で振り下ろし腰の雑嚢袋のベルトを叩き斬る。
床に落ちた雑嚢袋から幾つかの巻物に水薬などが散らばっていき、水薬は割れて使い物にならなくなったようだ。
腰に差していた聖剣も落としたようだ。
「奴隷風情が!!その目をやめろ!!」
「その奴隷を要らないといって切り捨てたのはお前達だ。」
領主様に面会するからと、都合が悪くなるからと切り捨てたのはファトゥス達だ。
それを淡々と告げると歯軋りをして怒鳴る。
「その髪も!その目も!何もかも気に入らねえ!どうしてお前は!どれだけ嬲っても、どれだけ傷つけても絶望しない!!」
そういえば白銀の髪を気に入らないと言って魔法薬で数ヶ月ごとに黒く染めさせられたなと思い出した、けど一言で言ってしまえば……あの人達がいたから、約束と信仰心があったからだが言う必要はない。
ファトゥスは左手に長剣を持ち替え、利き手で聖剣を拾い上げ大きく振り下ろす動きに合わせて利き腕の根元から斬り落とす。
ファトゥスの右腕は空中を回転しながら舞い落ちて床に落ちる。
ファトゥスは長剣を取り落とし、血が激しく噴き出す断面を抑えながら転げ回る。
「腕が、腕がぁぁあ!!!!」
このままトドメを刺すという事も考えたが、それをするとコイツと同じ事をしてしまうなと思いとどまる。
飛んでいったファトゥスの片腕の手首を踏み砕き、聖剣を手放させてもぎ取る。
聖剣の刃を軽く検めてみれば特に異常はないように見える。
聖剣を背中の鞘に叩き込んで床に落ちたファトゥスのものであるまだ割れてなかった水薬を拾う。
中の薬液の色を見て
転げ回るファトゥスの腕の断面に中の水薬をぶっかけるようにすると血は止まった。
ファトゥスは怯え床を這いずるように後退りをする。
「くるな、くるなぁ!!!」
「それしか言えないのか」
そう返してやると恐怖の色が濃くなったようだ。
「さて、答えてもらおうか。」
癒しの水薬を使って殺さないでおいたのも恩人達を取り戻すためだ。
手がかりが潰えてしまうのは避けたい。
長剣を眼前に突き付けて問う。
「8年前、お前の父が人質にしたあの人達は今どこにいる?」
「そ、それは、そうだ、た、助けたければ俺をすくっぎゃあぁっ!?」
「要求できる立場だと思うな、聞かれた事だけに答えろ。」
脚に軽く突き刺して命乞いをしようとする口を塞いだ。
「ひぃいいっ!!」
「もう一度聞こうか、どこに、いる?」
「ひ、お、お前に言うわけないだろ!!」
「じゃあお前の死体を持ち帰って、聞くとしよう。」
死んだばかりの死体ならば確か質問に答えさせる魔法があったはずだ。
ただこれはあくまでも奥の手な上に僕自身は使えないが、はったりには使える。
その言葉を聞いたファトゥスは悲鳴をあげて床を這い回る。
ファトゥスは床に散らばった巻物を引っ掴み広げて叫ぶ。
「《
瞬間、ファトゥスの姿は緑色の光に包まれて消えた。
緊急転移の魔法の巻物、そんな物持っていたのか。
ファトゥスが残した雑嚢袋から溢れた道具類を見回し、長剣に付着した血脂を落ちていた布で拭き取り、刃こぼれがないかを検めて鞘に叩き込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます