第四十一話 『誓約の神殿:断罪者(ダークエルフ) 冒険者ファトゥスside視点』

峡谷内にて罠にかかり逃げ回っていた直後からの冒険者ファトゥスside視点


アフマクがあの白い粘液状の魔物に襲われ、俺はあの牢屋に落とされた。

あの女にもつを放り出して月光で照らされた階層を徘徊していた。

「なんなんだあの変なスライムは……!普通じゃねえ……!」

動きは遅いため逃げる事は容易だ、だがそれを抜きにしても異常なまでに数は多い。

この峡谷は誓約の神殿を祀るための迷宮だと思っていたがあまりにも生活観がありすぎる。

不帰の峡谷と呼ばれてるのもあのスライムのせいじゃないのか?とそう思っていると遠くから戦闘音が響いてきた。

「まさか、誰かがもう追いかけてきたのか?やべぇ、さっさと神殿を見つけて俺が聖騎士だと認めさせねえと!」

追いかけてきていた他のスライムもその戦闘音に反応してかそちらに向かったようだ。

手探りで下への階層の出入り口を探すとポッカリとあいた穴のような闇に包まれた階段を発見した。

恐らくここから下へといけるのだろうが、闇の向こうが見通せない。

雑嚢袋を漁り、木の棒を複数組み合わせて松脂を使った松明を火打石で時間をかけて着火する。

松明の灯で照らし出されてもなお闇は深く、先が見通せない。

「なんだこれは、不帰の峡谷でここは生活感はあるのにここには灯を付ける習慣がねえのか?」

壁を探りながら灯を付ける蝋燭がないか探すがどこまで降りてもひとつたりとして存在していない。

それどころか最初からそんなものが存在していなかったかのように思えた。

「見辛ぇ、暗い、なんだこの階層は!」

何とか階段を降りきった先は鉱石のようなものがぼんやりと僅かに照らし出す空間だった。

松明の光で何とか構造物の輪郭が見える程度で、その先を見通そうにも松明以外の灯が存在していないせいで見えない。

「ちっ、速くしねぇとアイツらが追いついてくる!」

後ろを何度も振り返りながら複雑な道を這い回っていると骸骨戦士スケルトンが複数起き上がって攻撃を仕掛けてきた!

「何でこんな所にいやがんだ!!」

切れ味の悪くなった長剣を抜き放ち応戦する。

骸骨戦士の攻撃を何とか避けながら時間をかけてようやく倒す。

以前ならばこの剣が黄金色に光って一撃で倒していたというのにあの穢れた妖精デルヴのせいで何もかもが台無しだ!

骸骨戦士達に何度も襲われ死にかけながらも外からの光が差し込むところがある事に気付いた。

覗き込んでみると質素ながらも精緻な様相の神殿への吊り橋がある。

ここだ、ここからいけば俺は!そんな思いに駆られ古い吊り橋を渡り切り、追いかけてくる奴らが追いかけれないように吊り橋を長剣で何度も叩きつける。

そんな時向こうから黒曜石のように黒い肌に神官服に胸当てを付けたあの穢れた妖精デルヴが見た事ないエルフと竜人と一緒にきたのが見えたのと同時に吊り橋を落とす。

これで奴らは追いかけてはこれない!そう思うと喜びで満たされ神殿へと走る。

扉は見た事ない紋様と何かの文字が刻み込まれているが読めない。

扉を押したら引いたりしても開かない。

何かに封印されているかのようで聖剣を振りかざしても反応はない。

「おい開けろ!!来てやったんだぞ!!失礼だろ!!おいこら!!」

開かない扉を叩きながら叫ぶが反応はなく、戻ろうにももう吊り橋は叩き切ってしまったため戻れない。

しばらくしていたそんな時突然扉が開き、拳が空振りして倒れこんだ。

なぜ開いたかはわからないまま立ち上がり奥へと急ぐ。

神殿の中は外で見たのとは違いかなり広く、四方八方から降り注ぐ月光が静謐で神秘的な雰囲気を醸し出している。

奥に行くと戦闘の痕跡が残る最奥の祭壇で、そこにはあのダークエルフが仲間と共にこちらに背を向けていた。

その服装はどれもボロボロでここで何かがあったのは明白だ。

いや、それよりも

「なんで、なんでお前らがここにいる!!道はない筈だぞ!!」

声を荒げて長剣を突きつける。

「……答える必要はない、それに」

ダークエルフの奴隷は振り返り、静かに白銀の双眸で俺を見据える。

「お前には、僕のを返してもらう。」

穢れた妖精デルヴ風情が!!俺に逆らうんじゃねえ!!」

勢いよく踏み込みながら剣を振るうが、ダークエルフの頭をすり抜けた。

それに驚愕して振り返ると眼が潰れ、抉られ激痛が走る。

「ぁぁぁぁあ!!眼が!眼がぁぁあ!!!」

同時に風切り音がして何とか回避しようとして無様に転んでしまった。

「っ、なんだ、今のは」

頭を振って目を開けると傷はなかった、それどころか血も出ていない。

目の前のダークエルフは舞い踊るような足取りで踏み込んで斜めに斬り上げてくるのを何とか避ける。

竜人はエルフに止められているのが見える、どうやらあの2人は介入しないようだ。

「クソがぁ!!舐めるんじゃねえぞ!!

大振りで薙ぎ払うが、これもヒラリと服の裾だけを斬らされ回避されるのと同時に深々と胸の中央を突き刺され、そのまま心臓ごと薙ぎ払われグラリと視界が傾ぐ。

床に落下して自分の身体が真っ二つにされたのだと理解するのと同時に血が噴き出て辺りを血に染める。

「俺"の身体があ"あ"ぁぁァ!!!」

地獄のような激痛が包み込み悲鳴をあげた次の瞬間にはまた元に戻っていた。

息を荒げ、身体を触ると刺された跡さえもない。

幻覚だったのか?まさか

「お前、俺に何をしたぁ!!」

「……?」

ダークエルフは舞い踊るような足取りを止めずに踏み込んで剣を斜めに斬り上げてくるのを何とか避ける。

だがブチ、と斬れる音と共に何かが腰から切れて落ちた。

何が落ちたのかと見ると、雑嚢袋が中身をばら撒いて落ちていたのだ。

聖剣もまたそれに伴って落ちてかん高い音を響かせる。

「奴隷風情が!!その目をやめろ!!」

「その奴隷を要らないといって切り捨てたのはお前達だ。」

貶めるために魔法薬で黒く染めさせた筈のダークエルフの髪が白銀に戻っている、あの白銀の目はいつもと同じ冷淡な眼差しだ。

「その髪も!その目も!何もかも気に入らねえ!どうしてお前は!どれだけ嬲っても、どれだけ傷つけても絶望しない!!」

8年だ、仲間達と共に散々嬲って貶めてもこのダークエルフの目は絶望ひとつさえしなかった、それどころか冷淡な瞳は色ひとつ変えなかったのだ。

聖剣を拾い大きく振りかぶった次の瞬間、握っていた剣の感触が消えた。

次の瞬間、激痛と共に血が溢れ出した。

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